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勇者の息子  作者: TATEO
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第三章

酒場では、種類豊富な酒類を堪能できるだけでなく、情報共有の場としても利用されている

特に、金になるような仕事については、仲介者が存在し、彼の元に行けば様々なこの国で問題になっている仕事を請け負うことができる。ここ最近では野生の狼が異常繁殖している影響で、国の畜産業に甚大な被害

がもたらされているという話を聞き、狼狩りを行っていたという話も聞く。その筋の話もすべて酒屋の仲介者が国民の話を聞いて、仕事を解決できそうな強者を酒場で探し、価格交渉を行っているのだ


俺は、いつも仲介者が座る、一番右端の机に向かった

幸い他の人間はおらず、仲介者は深いフードを被って下を向いたまま動こうする気配はない


「これはこれは勇者様がこのような場所にお出でになるとは」

フードの中から下卑た笑い声が聞こえる。顔はよく見えない。


「仕事を探している 何か良い案件を融通しろ」

俺は椅子に背をもたれながら仲介者に伝える


「ほう、仕事ですが この国は常に何かしらの問題を抱えております 

要人の警護、下手人の捕縛、国外をうろつくモンスタ-共の退治 様々ございますが?」

仲介者は顔を上げようともしない


「モンスタ-の討伐では何がある」

俺は若干身を乗り出して確認する

ひっ、ひっ、ひっと仲介者が笑った。耳障りな笑い声だ

「モンスタ-の討伐関連でいいますと、国外をうろつくゴブリン、あとは夜中うごめく死人の駆除

オーガの討伐などございますよ」


オーガか。オーガは国から約10㎞あたり離れた土地に住む鬼人で、洞窟を拠点に生活している

亜人種である。体調は2m~3mまで達し、巨大な体躯を持っているが元来はおとなしい性格で

争い事は好まない性格である。

ただここ最近では、この国の王が領地拡大を目指してオーガの縄張りまで侵略している事もあり

オーガとの戦闘が続いている。現状の兵力ではオーガの殲滅までは至らず、両者冷戦状態となっているのだ。

「オーガ討伐の依頼が気になっておいでですかな? オーガの討伐には、一般的なオーガではなく

赤黒く身体が隆起した特殊なオーガの討伐依頼となっております おそらくは、このオーガが集落の

リーダー格になるのではないかと思われます。一般的なオーガと比べて身体は一回り大きく、隆起した

腕の太さは一般的なそれより1.5倍ほどにもなるようですが、いかがですかな?」

俺は腕を組み、天井を見上げた。

オーガは以前、討伐作戦が大々的に敢行された際に戦闘経験がある。思考パターンも単純なため

動きは読みやすいが、ちょっと気を抜くと甚大なパワーによって再起不能となってしまう。油断は禁物のモンスターだ。ましてはそのリーダー格のオーガといえば尚更危険である。

「少し考えさせてもらう それまで依頼は確保しておけ 他の志願者が出ても回すなよ」

と言い、俺は立ち上がった

仲介者のフードから鋭いまなざしがチラッと見えた。

ただの目は一瞬だけで、あとは再び地面に視線を落とし、ひっひっひっと笑い始めた。

「かしこましたよ 勇者様」

仲介者の笑い声が脳裏にヘドロのようにこべりつき、俺の脳内にいつまでもこだましていた。


酒屋を出た俺は家路に着く途中、狭い路地の隅でわめき散らしている声を聞いた。

夜も更けていることから、酒の影響で気分が高揚している者も多く、罵詈雑言でお互いを罵り合い

殴り合いの喧嘩が始まることも珍しくはない。ただ、路地から聞こえた声はそのような感じはなさそう

である。ある者が話している内容を、別の者が聞いているというようだ。いずれも男のようだ。

「ふざけんなよ全くよぉ!!」右手に瓶を持ちながら、左手で拳を作って壁をどんっと叩いている


「まぁお前の気持ちも分かるけどさ あまりヤケになるんじゃねぇよ」

もう一人の男が、わめき散らかしている肩に手を置いてなだめている。

「お前はいいよな 就職が決まってよぉ」

右手の瓶で酒を煽りながら、口の隙間から漏れ出た酒のしずくがボトボトと地面に落ちている

「俺はこの国には必要ないってことなんだよなぁ」

男はしおらしく座り込んで続けた つまらん戯言だなと思った俺はすぐさま家に帰ろうと思っていたが

次の男からの言葉に俺はつい足を止めた。

「それに比べてよぉ なんだぁ勇者ってのは ろくな実績が無てもすぐに王から勅命をうけてよぉ

ドラゴン退治だかなんだか知らないが、そんなやつらは何にもしなくても国から莫大な資金援助を受けて

おいて、あとは自由に遊びまくれるんだもんなぁ なんでこんなに世の中ってのは理不尽なんだろうねぇ どうせ口だけでろくにゴブリン一匹も倒せないに決まってらぁ 俺と同じ年みたいじゃねぇか! そんな

奴がまともに勇者なんか務まるかってんだ!!」

既に空になった瓶を振り回しながら、男は俺が勇者になってやる~ など呂律の回らない様子で大声を

出していたがそのうち、うずくまり、おいおいと泣き出した。

もう一人の男はなおも背中をさすりながら、呑みすぎなんだよお前は と介抱している。


誰がゴブリン1匹もろくに倒せない腑抜けだと…? 

俺は、自分の中でふつふつとまるで熱いマグマのように血液が頭に上るような錯覚を覚えた。

この場で勇者への失言があったということでその首を刎ねてやってもいいのだが、それでは気が済まない

それに、これは俺への警告だ。このような国民の意見は何もこの男たちが特異な考えというわけではあるまい。皆、心に思っていることを口に出さないが、俺に対してこのような印象を持っているのだろう。

ここでこいつらを殺したところで結局何になるだろう。一時の気は晴れるだろうが、同じような輩が

出てきてまた殺したところでキリがない。


いいだろう、やってやるよ。まずはオーガ退治で実力を見せつけてやる。

実績を出せば、余計なことを口走る国民も黙り込むだろう。

父の七光りと呼ばれて過ごすにはもう飽きた。俺がやらねばならない。他ならぬ俺が。。。


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