第二章
特に必要な訓練も無く、めでたく勇者としての称号を得た俺は、このまま早速ドラゴンの討伐に・・・
とはならなかった。
ドラゴンは神出鬼没であり、現在のところ、その存在は確認されていない
王国にも出所が分かる有識者をがいなかったので、俺は勇者としての称号を得たまま特に何をするでもなく、このように勇者から何とか気を引こうとする業者の応対をするばかりになってしまっているのだ
本当にこの世は何かしらで金を稼ごうという商売人が多いことに驚かされる
ドラゴン討伐用に特注仕様の鎧甲冑を製造している業者、ドラゴン討伐用の剣の製造業者、鎧甲冑での移動中
に体の負担を抑える衣服を製造している業者、他の従者の人材派遣を行う業者、万が一勇者の身に危険が
生じた際に一時的な保険金が下りるという保険業者などなど 数えだしたらキリがない
それらも、いつ起きるか分からないドラゴン討伐に向けて、必要な設備だと業者連中の鼻息はいつも荒い
面談の最後には、いつも禿げ上がった頭を面談の最後には見せて深いお辞儀をする。その業者の姿は見ていて心地よいものではない業者にも家族がおり、業者の年齢次第では、俺の年は自身の息子や娘に近い年齢である。一度気になって、ある業者に尋ねたことがある
「お前は、俺くらいの年の子供がいるのではないか?」
業者(たしか剣に塗るドラゴンに有効な毒薬を販売している業者だったと記憶している)は
えっ と不意を突かれたように目を丸くした
「お前には、俺くらいの年の子供がいるのではないか と聞いたんだ」
同じ事を二回言わせるな と口には出さないが、目で不機嫌を装ってみる。
業者はあたふたして口を開けた
「す、すいません。まさか勇者様が私のような人間に興味を持っていただけるとは思ってもおらず
つい驚いてしまいましたので・・・」と下卑た笑いを作る
「質問の回答になっていない。息子はいるのかと聞いている」
「は、はい。私には今年で齢18になる息子と15になる娘がおります」
「ほう。俺と同い年の息子がいるのか。息子は俺の事を何と言っているのだ?」
興味があった。いつも勇者の息子として回りからチヤホヤされている俺に対し、同い年の人間が
どのような印象を持っているのか率直に興味があったのだ
「そ、それはもう。わずか齢18で勇者になられるなんてすごいと」
ふっ と片側の口角を上げて笑う
「そうだろうな。そうだろうな。俺のように生まれながら勇者としての素質があり、わずか18の年で
王に勇者と任命される人間などそういるはずはないだろうしな」
「ええ、それはもう。息子も勇者様のようになりたいと常々申し上げております」
業者は額に浮き出た汗を必死に布切れで拭いながらおだててみせた。その下卑た姿勢は無償にイライラ
するが、まぁ悪い気持ちにはならない
「息子に伝えておけ。お前の活躍次第では俺の仲間に入れてやっても良いぞと」
「いえいえ、ウチのようなバカ息子が勇者様とお仲間になれるなんて万に一つございませんよ」
と、業者は右手を顔の横に振った
「俺が良いと言ったんだ。息子にはそう伝えておけ!」
業者の対応にイライラしながらも、俺はそう伝え、業者を帰した。
勇者様のようになりたい、か・・・
果たしてどこまでの人間がそのように思っているのか、俺はとても不安だった。
父は確かに偉大だった。家庭での評価は最悪だったものの、周りの目に対しては羨望のまなざしが
常にあったことだし、父に憧れる人間が多かったのは否定できないだろう。
だが俺はどうだ? 父亡き後、とくに何かしらの実績を上げたわけではない。あるのは勇者だった
父の巨大な影だけである。この状態でドラゴン討伐となった際、果たして勇者としてまっとうに動く
事が出来るのか。自問自答の日々は続いていく。
何か行動を起こさねばならない。勇者としての威厳を保ちつつ、いざという時の自信になりうる
何かを。業者との話を終えた俺は、高級衣類を纏って酒場へと向かった。