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勇者の息子  作者: TATEO
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第一章

「生前は御父上様には大変お世話になっておりまして・・・」

「御父上様のおかげで我々一族は生き永らえておりまして・・・」


このような言葉は散々聞き飽きた

いつも俺の元を訪れる使者は既に亡き父を尊び、父と同じように厚いご厚情を賜りますように

と首を垂れるために俺の元に寄ってくる


俺の父は確かに名の知れた勇者であった

カベル村に襲来したゴブリン一族に仲間を連れて立ち向かい、殲滅させたこと

ウルイ街での流行り病が発生した際には、自らも命の危険にさらされながらも献身的な介護と

資金調達で町の復興に尽力したこと

王にも絶大なる信頼を持っておきながら、奢り高ぶらず常に平身低頭で謙虚な姿勢を貫き

決して権力を誇示することなく、自身は質素倹約な暮らしをしながら町や村の繁栄と平和のため

生きた生涯だったこと 祖父や祖母から耳にタコができるくらい聞かされた


そんな父が、ドラゴンの討伐に行き、そのまま帰らぬ人になった報せを聞いた時

祖父や祖母はもちろんの事、国全体が大きな悲しみに包まれ、父の死を悼んだ

ある者は父の従者として後を追うように断崖絶壁から身を投じ、ある者は自身の全財産を

父の弔いとして捧げると言ってきた輩もいた

16歳だった俺はショックというより、どこか他人事のように感じていた

元々慈善活動や勇者としての行動ばかりで、俺と母には目もくれなかったような人だ

母は父の傍には居たが、勇者であるにもかかわらず質素な生活を送らされることに嫌気がさしていた


「勇者の妻である私が何故こんな生活に?」とよく愚痴をこぼしていた

母は良い縁談だからと親の勧めで父と結婚したものの、質素倹約で家庭の事は常に丸投げで、勇者としての任が自分にはあるからといつも逃げている父に対し常にストレスを抱えており、そのストレス解消の窓口は常に俺の役回りだった 殴る蹴るは当たり前 飯が準備されず、母は別の農夫と一緒に食事しに出掛けた時には、空腹を満たすために野草を食べたり、町のゴミ箱を漁って黴の生えたパンをかじることもあった

そんなある日、町のゴミ箱を漁っているところを父の知り合いが見つけた時には、母は周りの住民からは非難を受けたため、それ以来母は文句を言いながらでも家にはとどまるようにはなった 

そんな事があっても父はただ母に「育児はお前の仕事だ」と冷たく吐き捨てて自宅を後にした


父の死を知ると、母は両手を挙げて喜んだ 

これで「勇者の妻」からの呪縛から解放される 

私は自由だと半狂乱に陥った母は、父が生前に懇意にしていた農夫の住まいへ喜び勇んで歩いているところを、父の熱狂的な信者に暗殺されてあっけない最期となったのだ 

父の死後、すぐに母の死も体験することになったわけだが、いつも悲しむのは祖父母をはじめとした

周りの人間だけだった


18歳になった俺は、偉大な勇者だった父の息子 というだけで勇者の道に進むことになった

通常、剣技や魔法など専門職のコースを選ぶ必要があるが、父の息子というだけでそのような課題を

クリアすることなくあっという間にドラゴン討伐の任を王より拝命し、めでたく勇者としての称号を

得たのだった

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