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バフォメット(ガヴォダンver)

聞けよ 旅人 遠き昔の物語を

谷を渡り黒き森を抜ける道の果てに

石の椅子に座した影があった

その影は獣に似て また人に似て

双の角を天に突き立て

片手には太陽を もう片手には月を掲げていた


村人たちは恐れやがて祈りを捧げた

小麦を供え 羊を屠り 葡萄酒を流した

だが影は何ひとつ口にせずただ沈黙のうちに微笑みを浮かべるだけだった


ある夜ひとりの若者が村を訪れた

竪琴を抱え旅の塵をまとった

彼は火の傍に座り

私は愛の歌を知っている

また戦いの歌を知っている

しかし真実の歌はまだ知らぬと言った

村人たちは囁き彼を森へと導いた


深き森の奥岩座に立つ影の前で

若者は竪琴を奏でた

愛を歌えば影は笑った

戦を歌えば影は黙した

涙を歌えば影は眼を閉じた

やがて彼は声を震わせ

私は嘘ばかり歌ってきた

どうか真実を教えてくれと叫んだ


そのとき森に風が鳴り影は口を開いた

右手に光を左手に影を掲げよ汝が歩む道は二つに分かたれてはならぬ

喜びも悲しみも善も悪も共に抱くときのみ歌は真実となる


若者は竪琴を地に置き両の手を広げた

陽の温もりと夜の冷たさが掌におりてきた

その身は震え涙は止めどなく流れたが彼は悟った

歌は愛のためだけにあるのではない

戦を飾るためにもあるのではない

生きる者すべての重みを抱いてこそ

歌は歌たりえるのだと


若者は村に戻り火を囲む人々の前で歌った

その歌は愛と憎しみを喜びと絶望を光と闇を一つに結んだ旋律であった

村人は涙を流し幼子は眠り老人は頷いた


その夜を境に影は姿を消した だが森を渡る風は今も囁く

歌を忘れるな 祈りを忘れるな 光と影を共に抱け


旅人よ もしこの歌を耳にしたならどうか胸に刻め

真実はひとつの側にだけ宿るものではない

そして道の果てに座す影は今も沈黙のうちに微笑んでいる

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