常緑の森・序文
【扉を越えて森へゆくものたちへ託す言葉】
いつか戦がやってきて 雷雲のようにこの地を覆いつくすのでしょう
足腰よわく 目もきかぬ私は
残虐を強いられ ひとの心を手放した者々によって
引きずられ 引き裂かれ 流す涙と叫びとを嘲られながら
きたない肉のかたまりに 変えられてしまうことでしょう
けれど物語よ、
あなただけはどうか耐えて生きのびて
限りある生命の中であなたを想った私の真実を
永遠の常緑の その森の一葉にしてください
太陽が老い衰え 島じゅうの緑が滅び
巨石たちがその身体に抱いていた温もりを亡くす時
すべてがつめたい虚無の暗黒に融けてなくなる日が来ても
あなたは生きて在り続ける
あなたの中では果てしなく 恋の歌が繰り返されてゆく
たしかに生きた私の心を
豊かに繁るその森の 樫の大樹の一葉にしてください
滅びる寸前の私はいま ここに生きて
たしかにあなたと ここに在って
遥かにたどりつけぬ あなたの永遠を ねがい想っています