第1章
雨は上がったが曇天が広がる空が広がった昼下がり、そんな空模様には似合わない派手な装飾をした馬車が町の西にある平屋の医療施設に到着した。馬車に乗っていたマルクは勢いよく馬車を降り施設に入った。
「ローザ・モーディットはここにいるのか!!」
マルクは施設に入る否や叫んだ。昼下がりと言うのもあり、施設のエントランスにはそこまで人はいなかった。が、流石に彼の叫び声がそこにいる人たちの注目を集めないわけない。すると叫び声を聞いて受付の奥から看護師の女性が対応した。
「すいません、ここはではお静かに...」
「そんなことどうだっていい!!姉さんはどこだ!!」
そういい充血し興奮した顔をし、力任せに看護師の肩を鷲掴みにし、マルクは言った。
警察署から個々の施設まで大体30分ほど経ってはいたがマルクの興奮は未だ収まっていなかったのである。
「名のある家に生まれたものが感情に流されるとは、そのような行為は自分の家柄に泥を塗ると以前教えたはずだが」
手前の病室から4,50代の紳士が出てきてこう言った
「ニック叔父さん!?どうしてここに..って姉さんに会いに来たのですか?」
ニックは頷いた。
ニック・モーディットはマルクの父シーザーの弟にあたる人である。彼もまた例にもれず、幼少期から歴史的な遺物を集めることが好きだった。そしてその思いは
“私もまた歴史に名を刻むことをしたい”
と思うようになり科学の道、取り分け今は医学の研究に身を投じている。
「でも叔父さん...いやっ、ニック叔父様は先週まで町はずれの郊外にいらっしゃったのでは?」
「研究が予定より早く終わってね。帰ってきて兄と一緒にお酒でも飲んで姪の祝いをしながら羽を伸ばそうとしていたら..」
「それで姉は?様子をご覧になったのでは?」
20秒ほどの沈黙があったのちニックは沈黙を破った。
「命に別状はない、ただ意識が戻らない。」
「そうですか。」
再び沈黙が二人の間に生まれた。
「しかし、妙なんだ。」
再びニックが沈黙を破る。
「妙って?」
「今の彼女の状況は極めて良好なんだ。この状態ならば意識を取り戻してもおかしくない、逆を言うなら...」
「彼女に意思で目を覚まさないと?」
マルクは何か確信を持った目でニックの目を見て言った。その目を見てニックは
「何か知っているのか?」
と尋ねた。すると今度は険しい顔をしてニックを見た。そして再度また沈黙が二人の間にできた。
「一度部屋に入ってお姉さまのお顔をご覧になってはどうですか?」
以外にも今回の沈黙は先ほど肩を鷲掴みにされた看護師だった。
「そうですね。先ほどは取り乱してしまってすみません。肩痛くありませんか?」
「慣れてますから大丈夫です。」
彼女は少し微笑みながら答えた。
マルクはその微笑みに対し深く腰を曲げ謝罪の意を示した。
「それではニック叔父様一緒に。」
ニックを見舞いに誘おうとマルクは声を掛けた。
「すまないが、私はこれで失礼するよ。まだ兄が見つかっていないからね。」
「そう..ですよね。」
「それじゃあ、また」
「はい!」
そういってマルクは病室に、ニックはエントランスに、お互いが真反対向いて歩いて数秒が経って
「そういえば」
そういってニックはマルクの足を止めた。
「亡くなった参加者の遺体の状況を特別に見せてもらった。どれも刃物の傷があったがそれは死因に関係していないものだった。死因はほとんど打撲に起因するのもだった。参加者は約70人。彼女が70人もの人間を殴って殺したとは考えられない。」
「...」
「つまり彼女は何者かによってこのこの事件の犯人に仕立て上げられたのではないかと私は思う。だから私はこの事件の真相をこれから探るつもりだ。君はどうする?」
「叔父様の見立ては間違ってないと思います。姉はあんなことできるような人じゃありませんから。僕は僕なりに調べてみようと思います。」
「そうか。あまり無理をしないでくれよ。」
「はい、あっそういえばお伺いしたいことがあるのですが」
「あの薔薇の剣について...」