初陣
俺達が洞窟の入口に到達すると、目の前では茶髪で黄土色のTシャツにシルバーの胸当てを付け、黒いハーフパンツを履いた男の子と女の子は赤いリボンが首元についていて黒いワイシャツ。下は黒いスカートを履いている。肩までくらいの長さの黒髪をヘアゴムでまとめたツインテールで2人とも高校生位の顔つきだ。その2人を全身が緑色で腰には藁のような下着を付けた魔物が取り囲んでいた。紅の瞳と口元を吊り上げ、ニヤニヤと笑いながら、短剣や斧、剣などそれぞれが様々な武器を持つ歯をぎらつかせている。恐らくあれがゴブリンと言うやつだろう。
「来るなら来い!ユイは俺が守る!」
クロがユイの前で剣を握る手をカタカタと震わせながら立ちはだかっており、後ろでユイはしりもちをついてそこから動けないでいる。
「もういい!クロだけでも逃げて!」とユイが叫ぶとクロは「何言ってんだ!置いて行けるか!」と剣を構えている。
俺は目の前に広がるその光景を目にしながら、初めて見る魔物にガタガタと震えていた。冷や汗が止まらない。けど誓ったんだ。救える命がそこにあるなら救うって。深呼吸をして息を整える。
「ラプラス、戦い方を教えてくれ。」
剣を鞘から抜き、腰を落とし構える。チャキ…という静かな音を立て剣は月光に照らされた。
ゴブリン達がこちらに視線を向け、ユイとクロも呆気を取られている。
「オッケー、じゃあ今回は特別サービスだ。本当はこれボクも疲れるし、ハルマの魔力もすんごい勢いで減っちゃうから滅多には使えないけど、ハルマのの為だ。やろう。じゃあフルジャックと唱えてくれるかい。」とラプラスは相変わらずの笑顔で言った。「分かったよ、フルジャック!」というとラプラスの姿は光の粒子となり俺の体内に入り込んできた。「ん?体が言うこと聞かないんだが?」と言うと、「今はボクがハルマの身体を動かしてるからね。ボク自身は戦える力は持ってないからハルマの身体で戦うんだ。感覚は共有されるからハルマはそれでちゃんと身体の動かし方を覚えるんだよ。」と不敵な笑みを浮かべた。「じゃあ、行くよ!」
刹那、シュンっと風を切るような音を立てながら身体が動き出し、あっという間に2体のゴブリンが地面に倒れた。ピッと血が遅れて顔を跳ねる。
他のゴブリンは慌てふためいて、その内の1体が「ギギィ!」と叫びながら短剣を手に襲いかかってきた。俺の体はそのゴブリンをズバっと高速で切り裂きながら壁を踏み台にして突進しながら、3体のゴブリンに向かって剣で切り裂く。そして最後に残りの1体の走り去ろうと逃げた、ゴブリンを横向きに浮いた体を宙で回転させながら切り裂き、コツンっと着地した。シュッシュッと剣で宙を切り、血を弾いた後にゆっくりと鞘に収めた。
その後、俺の中からラプラスがぜぇ、ぜぇ…と息をしながら「こんな感じだよ…。」と言い、それと同じ様に魔力を使い過ぎてぜぇ、ぜぇ…と息を切らした俺が「早すぎて分かりずらいだろ、あれは…」と言った。「あれでも本当はすぐ終わらせられたけどなるべくアクションを増やして、ハルマの身体に馴染ませようと努力したんだぞ…身体はきっとそれを覚えるだろうからね…身体の使い方さえ覚えてくれれば今回の収穫として充分だよ…」とヘトヘトになった俺達が会話をしていると、後ろから「あの!」とクロが駆け寄ってきた。「さっきはありがとうございました!俺、クロっていいます!んでこっちが妹ユイです!ほら、挨拶しろ!」というと、後ろからゆっくりとユイが歩いてきて「ユイといいます。ありがとうございました…」とぺこりと頭を下げた。「礼なんて不要だよ。当然の事をしただけだから…。」と微笑みながら言うとラプラスは「ぷぷぷ、あんなに震えてたくせにかっこつけちゃって。」と小声で笑ったので軽いチョップをお見舞いしてやった。「いてっ」と言いながらその頭を撫でた。
クロが「さっきのめっちゃ凄かったです!あの!あなたのお名前はなんて言うんですか!?Lvは!?」と勢い良くずいっと顔を近づけながら聞いてきたので、
「ハルマだ。ただの冒険者だよ。Lvは50」だと返すと2人は口を揃えて「50!?」と言った。「なんでこんな所にいるんすか!騎士団とか入ったら安定した収入とか入りますよ!?」と驚いた表情で続けたので「まぁ今は色々考えてる途中なんだ…」と誤魔化した。女神の使いなんて言うと厄介なことが起きそうだ。「やっぱり強い人は凄いなぁ…何でも出来るもんな…俺達は2人共Lv7っすよ。」と頭の後ろに手を回しあははっと笑った。今度はユイがラプラスの方を見ると「貴方のお名前は?」と聞くとラプラスは「ボクはラプラス。ハルマの旅のサポートをしているよ…よろしく…」とニコニコしながらいった。「ラプラスさん!よろしくお願いします!」とクロが頭を下げるとラプラスは少しモジモジしながら「う、うん…よろしく」と言った。
ふぅ、変なこと言わないか冷や冷やしたぞ…それに何かこいつ急にしおらしくなったな。「もしかしてお前、人見知りか?」というと「うるさい。」と叩かれた。なんだ可愛いところもあるじゃないか。「2人は仲がいいんですね。」とユイは笑っていた。「そんなことも無い」と腕を組むと、「何言ってんだ、ベストフレンドだろ。」とまた叩かれた。やっぱり可愛くない。「それよりなんで2人はこんな所にいたんだ?」と聞くと、「俺達、村のやつらがここに行けば、宝があるって聞いて…俺達2人とも少し金困ってたから覚悟決めてここに来たんです。けど来てみたら魔物しか居なくて、それでユイが腰抜かしちゃってあんな状況に…クソ、もっと俺が強ければ…」とクロは俯いた。
「お宝か…ハルマここを全力でぶち破って。」というとラプラスは壁に向かって指を指した。
「壁をか?まぁ…いいけど。」と全力で壁を殴るとそこから光り輝く財宝が出てきた。
「あのゴブリンたちが何かしら壁に細工をしていたみたいだね。ぶっちゃけぶち破らなくても良かったかも。」と笑いながら言った。
「呆れた、相変わらず適当かよ…」
「あの…ハルマさん…」クロ達と申し訳なさそうにして言葉を詰まらせている。手には見るからにすかすかのカバンを持っていた。恐らく宝を詰めてくる用のカバンで受け取って良いかどうかを気にしているんだろう。
「大丈夫だよ。そのカバン、それを詰めるために持って来てるんだろ?出来るだけ詰めて行けばいいよ、余った分貰っていくからさ。」
と声をかけると「すみません!ありがとうございます!ほんとにありがとうございます!」と勢いよく頭を下げた。
「ところでさっき村って言ってたが近くにあるのか?」というと「はい!この山道を少し登ると俺たちの住むマウ村があります!良かったらお礼も兼ねて来ませんか?」と言ってくれたので、「お言葉に甘えるかな、食料も底を尽きはじめて困ってたんだ」と言った。
「役に立てそうで嬉しいです!早速行きましょう!」とクロはグイッと俺の腕を引っ張った。
「ラプラスちゃんも行こ!」とユイはラプラスの腕を引っ張っていき、ラプラスは「うん!」と嬉しそうに笑っていた。
なんだかその夜は風がすごく気持ち良く感じた。