夢
瞼を開くとただ目の前には薄い黄色の髪色をした腰まであるロングヘアの大人びた女性が立っていた。周りの景色は辺り一帯白く包まれ何も無い。
「初めまして、春馬くん。私は女神アテナ、宜しくね。」
と話をかけられたが、俺は目の前の相手も自分が置かれている状況も分からず焦ってしまい、ただこくんと首を縦に振った。
するとアテナと名乗ったその女性は口元に指先を当て、「何から説明しようかなぁ、」と呟いた。
耐えきれず、俺は「あの、アテナ、さん?ここどこですか、俺は何故ここにいるのですか?」と口を開いていた。
アテナはこちらに顔を向き直すと「ここは、春馬くん達でいう死後の世界ってやつと春馬くんたちの世界の狭間にある私だけの空間だよ。貴方はトラックに跳ねられて死んでしまったの。そして貴方にお願いしたい事があってここに呼んだんだよ。」と少し申し訳なさそうにモジモジしながら言った。
少し混乱しつつも「お願いしたい事ってなんですか?」と問うと、「何だか割と冷静だね。」とと微笑むと「さて、本題だけど」と続けた。
「女神は何人か私以外にもいてそれぞれ世界をいくつか管理するという仕事があるのだけど、魔物なんて居ない春馬くんの世界はもちろん他の世界と比べ平和な方なんだけど、他の世界では、沢山の魔物を従えたバハムートっていう魔王がその世界を我が手にしようと目論む世界があってね、そこで春馬くんにはその世界を救ってほしいの。」
「世界を救う…?」とぼそっと呟くとアテナは「そうだよ。」と言い、パチンと指を鳴らした。
「これがその世界の様子。」というと、映像のものが白い空間に映し出され始めた。
そこは賑やかな街だった。すると突如、大量の魔物が押し寄せてきた。あっという間に炎に包まれた街、そして、魔物に次々と殺されていく街の人々、騎士団と思われる者が守ろうと剣を振るっているが、それも叶わず血を流していく様子があった。次第に怒りが強くなり、「なんだよ…これ…」と強く拳を握りしめる。ぷつんと映像が切れた。
「これが、魔王の支配しようとしている世界、私ならこんなの絶対に許せない。罪のない人々を理不尽に殺し、自分だけ幸せになろうとする魔王が。けど、天界では女神が直接手を出す事を禁じられているの。もし手を出すと女神の力は剥奪されそうすれば、他の世界を管理する者は居なくなってしまうの。だから私自身は手出しはできない。」
とアテナも拳を強く握りしめ、ふるふると震えていた。目には涙が浮かび、口元を強く噛んでいる。
「考えてみると俺は理不尽な人生ばかりだったな。」と愚痴をこぼすと、アテナは急な言葉にきょとんとしている。
「俺は助けられる命がそこにあるなら、壊せる理不尽がそこにあるなら救いたい。」というとアテナは涙を拭き、「春馬くんならそう言ってくれると思ってたよ。」と微笑んだ。「けど魔王までただ辿り着くだけなら少し春馬くんも厳しいかな。8つの宝玉があってね、宝玉一つ一つが強い力を秘めているんだけど、それ取り込むことでそこらの魔物よりだいぶ強い力を持った魔族がいるの。宝玉の種類は赤、青、緑、紫、ピンク、オレンジ、茶色、黒、白。それを手に入れながら仲間を集めて、力を合わせることできっと倒せるんじゃないかなと思う。多分長い旅になるけど…それでも、やってくれる??」と言うと、「聞くまでもないだろ」と返した。それを聞いたアテナはこくりと頷き俺の手をそっと掴むと俺の体は光に包まれ始めた。
「それじゃあこれから春馬くんをその世界に送るよ。春馬くんには私からのささやかな加護と強力な武器、そしてナビゲーターをつけたよ。春馬くんなら世界を救える。」
その言葉を最後にあまりにまばゆい光に目を閉じた。理不尽な運命なんて、俺が変えてやる。