満月
俺の名前は斉藤春馬
今は大学2年生で親友である山吹康太と共にバイトから帰宅中だ。
「今日は中秋の名月なんだってなー。めっちゃ月綺麗だな。」と俺が何となく話を切り出すと康太が 「本当だ!写真を撮らねば!インスタでフォロワー稼いで有名人になるぜ!」と言ってポケットからスマホを取り出してカメラを起動させた。
へとへとで疲れていた俺は「早くしないと置いてくぞー」と言いながらゆっくり歩き始め、少し先の大通りの信号で立ち止まった。
「ちょっと待ってくれよ!今雲で月が隠れてるから…よし、今だ!」と言う声が後ろから聞こえた。 やれやれと思いながら信号待ちをしていると隣には恐らく仕事帰りの女性がスマホでインスタに釘付けになりながらを立っていた。
俺は別に有名になりたいなどと思わないし、あまり興味は持てなかった。
信号が変わった事を知らせる音が聞こえた。隣の女性が歩き出したが、俺は康太を待つ為にそこで立ち止まっていた。やはり季節の変わり目ということもあって、少し寒いなと思いながら周りを見渡したその時、横に目を向けるとトラックが猛スピードで女性に近づいていた。女性は相変わらずスマホに夢中で気づかない。俺は自然と体が動き、「危ない!」と言いながら女性を背中を押した。後ろからは親友の「春馬!」と叫ぶ声だけが聞こえた。全身に強い衝撃が走り、体が宙に投げ出され、地面に頭を強く打ち付けた俺の意識はそこで途絶えた。