4.愚かな企み
(リゲル視点です)
「あぁもう!」
今日も今日とて、生徒会室でバカ女が、姉上を嵌められなかったとヒステリーを起こしている。殿下と筋肉バカは、仕事そっちのけで慰めている。
「あの女、ホント小賢しい!いつも人目のある場所で行動して、虐められてるフリ出来ないじゃない!」
「ホントむかつくなあの女、俺が行って叩き切ってやろうか!」
そう言って木刀を片手に、今にも飛び出していこうとする筋肉を、殿下が慌てて止める。
「待て待て、そんな事してもベガが虐められてるという事にできない。むしろこちらが傷害罪で訴えられるだけだ」
(さすがの屑王子も『犯罪はマズイ』という事は、理解しているようだ…人を陥れるのは犯罪じゃないのかと思うが)
この三馬鹿に、今更そんなこと言っても無駄なので、1人黙々と仕事を続けてるとこちらに飛び火した。
「おい、リゲルお前も黙ってないで何とか言えよ!俺達のベガが、虐められてるんだぞ!」
筋肉が、こちらを振り向いて怒鳴ってくる。
「そうだ、お前の姉のせいでベガが苦しんでるんだぞ。愛するベガの為に良い知恵振り絞って見せろ!」
(誰がこんな頭のおかしい女、愛するか!)
思わず鳥肌立った腕をそっとさすりながら、席を立つ。
「何か言えというなら…まずこの仕事の山を、手伝ってほしいですね。というか本来生徒会全員がとりかかる仕事なのに、何で僕1人で片付けなきゃならないんですか!?明日が締め切りの書類で頭がいっぱいで、良い知恵なんて到底浮かびそうにないですね。振り絞るためにも、ぜひ殿下達もこの書類の山を片付けて下さいね」
そう言って机の上に置かれていた書類の山を、殿下とバカの机に1つずつ置く。殿下達がひきつった顔をしたが、何か言う前に「良い知恵絞れるよう、もちろん協力してくださいますよね?『愛するベガの為』に」
ニッコリ笑って強調すると、2人とも無言で席に着いた。
ちなみにベガは「あ、あたしお茶入れてくるね~」と、部屋から出て行った。
「ところで殿下、三日前に公示された交換留学の件ですが…」
一段落したところで休憩となったので、殿下に聞いてみる。
「あぁそういえば、そんなのがあったな」
殿下がお茶を飲みながら言う。
「確か毎年隣国のスペクトル帝国との交流の為に、男女1名ずつ1年間留学するんでしたね」
カウスも話に入ってくる。
「はい。留学は一般生徒から希望者を募りますが、向こうからくる生徒の世話は、生徒会が行いますので」
帝国の留学生にとっては慣れない環境でのことだ。授業の進みも違うだろうし、何か困った事があった時は、生徒会が面倒を見る事になっている。
「スペクトル帝国から、誰か来るの~?もしかして王子様とか?」
目をキラキラさせながら、ベガが話に割りこんでくる。
(何を考えてるか一目瞭然だ)
「いや、王族なら多分生徒会に入ってるだろうから、業務もあるしこちらには来ないと思う」
冷静に妄想をぶった切ると「何だつまんない」と、興味を失った。
「ところで書類も片づけたんだし、何か良い案浮かんだか?」
突然カウスが、話を振ってくる。
「は?良い案って何が」
聞き返すと、ムッとした顔で言い返してきた。
「忘れんなよ、お前の姉に濡れ衣きせる良い方法だよ」
「………」
(こいつ、自分の言ってる事わかってんのか?)
実の姉を陥れる方法を考えろだなんて、よく堂々と言えたものだ。
そこまで考えてこいつらに常識とか、モラルとか今更かと思い直す。
我ながら馬鹿らしい事を考えたものだと、心の中で思いながら少し考えて口を開いた。
「…発想の転換はどうでしょう」
「「「発想の転換?」」」
僕の言葉に3人が不思議そうな顔をする。
「姉上に虐められたとするのではなく、こちらから虐めてみてはどうでしょう?それで姉上が反論してきたら『言いがかりをつけて、陥れようとしている』といえば、姉上も何も言えなくなるでしょう」
「虐めに耐えかねて、向こうから婚約解消を申し出てくるのを狙うわけだな!」
カウスが笑顔で言うと、殿下も嬉しそうに続けて言った。
「反論すれば『言いがかりで陥れようとしている』と婚約破棄し、反論しなければ耐えかねて婚約解消するのを待つわけだな」
「どっちに転んでも、向こうの責で婚約が無くせるのね、良い案じゃない。さすがリゲルね!」
ベガが笑顔で抱き着いてこようとするのを、サッと避けると「照れてるのね」と、勝手に呟いてた。
「じゃあ明日から改めて、頑張りましょう。あの女を虐めるために!」
「「おう!!」」
勝手に盛り上がってる3人を、冷めた目で見ていた。
「そう、そんな事を言っていたのね」
夕食時に報告すると、姉上はあっさり言ってワインに口をつける。
「はい、当初は『虐められた事にして断罪して婚約破棄』だったのに、『虐めで追い詰めて婚約破棄』にすり替わってるのに、気づかず3人とも張り切ってます」
僕もため息をつきながら、ワインを飲む。
「さすが3馬鹿ね、毎日付き合うリゲルに同情するわ」
スピカがそう言って僕の頭を撫でてくるのを、頭を振って振り払う。
「からかうな、スピカに撫でられても嬉しくない」
「ちっ」
スピカが令嬢らしからぬ舌打ちをすると、それまで黙っていた父上が口を開いた。
「呆れたバカ王子共だが、証拠も揃ってるし、お前達で何とかなりそうだな。それよりミア、本当に留学するつもりなのか?」
父上の言葉に、僕とスピカも姉上に目を向ける。
「はいお父様、向こうで色々学びたいので」
きっぱり言う姉上に、父上がため息をつく。
「決意は固そうだな…まぁ1年だけだし、バカから距離を置くのもいいだろう」
「ありがとうございます、お父様」
笑顔の姉上にスピカが、泣きそうになる。
「お姉様ぁ、寂しいですわ」
「手紙をいっぱい書くわ、元気でね」
今にも泣きそうなスピカを、姉上が慰める。
「僕もいっぱい手紙を書きます、どうかお気をつけて」
「えぇ、後はよろしくね」
そういって翌日、姉上は学園に登校せずそのまま隣国に向かった。
1か月後、姉上が留学した事に気づいた3馬鹿が、姉上を散々罵っていた。