3.私の王子様(ベガ視点)
「あぁもう!」
私は寮の自室で、枕を振り回して当たり散らす。
私の今の名前は、ベガ=プトレマイオス。
プトレマイオス男爵家の1人娘で、前世の名は佐藤千春という。いわゆる転生者だ。
前世では、いろんな男を引っかけて遊んでいた。男なんて、ちょっと笑顔で耳障りの良い台詞を言えば、何でも喜んで貢いでくれる。
まぁ調子に乗って、股がけしたのがバレて、激高した男に川に突き落とされたのは、失敗だったけど。
でもそのおかげで、前世で好きだった乙女ゲームのヒロインに転生できたのは、良かったけど。
初めは訳が分からなかった。
川に落とされて「苦しい、冷たい」と思って、気がついたら知らない女の子になっていた。
「何か見覚えあるなぁ」と思いつつ、数日ほど周りの様子を観察して「あ、これ前にやってた『星降る恋を貴方に』という、乙女ゲームの世界だ」と、気づいた。
乙女ゲーム『星降る恋を貴方に』は、男爵令嬢のベガが、学園に入って色んな攻略キャラ達と身分違いの恋をして、障害を乗り越えて結ばれるという王道の乙女ゲームだが、絵の美麗さが人気のゲームだった。
中でも隠しキャラの隣国の第二王子レグルスの攻略がとても難しく、プレイヤーの間では「文字通り隠されてる」「超難しい」と評判で、攻略できた人もごく僅かという幻のキャラだった。
攻略本も出てなくて、かろうじて設定資料集に彼の設定と、攻略のヒントらしいものが載ってるのみだった。
もちろん私の一押しは、そのレグルスだ。
何度も攻略を失敗して、一度もエンディングを迎えたことはないが、設定資料は見た。
彼は帝国の身分の低い側妃の息子で、皇帝が視察の際に見初めて強引に召し上げ、側妃にしたけど身分が低いことで、周囲の人々から母子揃って冷遇され、10歳の時に母を亡くし、元凶となった皇帝を恨み、人嫌いになった不遇の王子だ。
それを、ヒロインの私の力で救ってあげるのだ。
「待っててね~、私の王子様♡」
…と、当初は思っていた。
攻略法は分からないが、資料集ではハーレムルートの断罪スチルにレグルスが載ってたから、ハーレムルートから隠しルートが開けるのだろう、というのがプレイヤーの間での認識だった。
だから、入学当初から他の攻略キャラ、王太子のカノープス、公爵子息のリゲル、辺境伯子息のカウスに近づいて、あっという間に好感度を上げられたけど、悪役令嬢のミアが中々虐めをしてくれない。
あ、ミアっていうのはリゲルの姉で、カノープスの婚約者ね。カノープスと仲良くすると嫉妬して、色々な嫌がらせをしてくるんだけど、入学してから1か月くらい経っても、ちっともそんなそぶりが無い。
仕方ないから、こちらが虐める事にした。
要は虐められてると、カノープス達に思わせればいいんだもの。こちらが嫌がらせをして、それで反論して来たら「濡れ衣を着せられた~」と、泣き真似をすればいい。それでカノープス達も周囲も、向こうが言いがかりをつけて虐めていると、思ってくれるわ。
でもあの女ったら、どれだけ公衆の面前で嫌がらせしても、正論で論破してくるのよ。腹立つったらありゃしない。
(まぁいいわ、カノープス達は私の味方だもの。いざとなったら権力で押し切ればいい)
たとえ公爵令嬢であっても、王太子には勝てないもの。
その後はどうにかして、レグルスの攻略ルートを見つけて、エンディングを迎えればいい。
あぁ、断罪イベントが楽しみだ。
レグルスとのエンディングを思い浮かべて、グフフと笑いながら私は眠りについた。