1.不快な関係
(どうして?どうしてこんな事になったの?)
「計画は完璧だったはずなのに…」
牢の中で呟く。
(もう少しで邪魔な女を追い払って、私が王太子妃になるはずだったのに…!)
ギリッと唇をかみしめる。
「こんな筈じゃなかった!!」
彼女の叫びが、地下牢に反響した。
「おい、ミア!」
廊下を歩いてる最中に呼ばれて振り向くと、婚約者のカノープス様がこちらを睨みつけていた。いつもの通り、その横には最近お気に入りのベガ男爵令嬢が、こちらをニヤニヤと見ながら腕に抱き着いていた。
「お前またベガを虐めただろう、いい加減にしろ!お前なんか身分しか取り柄がない癖に、ベガに嫉妬するなどおこがましいぞ!!」
「何の事でしょうか?」
「とぼけるな!先ほどベガがお前に噴水に落とされたと、泣いていたんだ、ベガに謝罪しろ!」
「お断りします、やってもいない事を謝罪する気はありません」
「何だと!?惚ける気か!」
「酷いですぅミア様~。ベガ、ホントに怖かったんですよぅ~。クスンクスン」
「よしよし、可哀想にベガ。仇は必ず取ってやるからな」
ベガ嬢が顔を覆って泣き真似をするが、あからさますぎてため息しか出ない。引っかかるのはカノープス様だけだ。
先ほどから見ている周囲も、呆れた視線を2人に向けているが、2人共自分達の世界に入ってて気づいてない。
「…噴水に落とされたというのは、いつの話ですか」
「つい10分前だ!私が通りかからなかったら、どうなっていたか!」
「…その割には、全く濡れていらっしゃらないようですが?」
私の指摘に、2人共焦った顔をする。
「そ、それは…」
「き、着替えたのよ!」
どもるカノープス様に、慌ててベガ嬢が反論する。
「髪も濡れてらっしゃらない様ですが?」
「か、乾いたのよ!」
「まぁたった10分で着替えばかりか、髪まで乾かせるなんて大した早業ですわね。私には到底真似できませんわ」
わざと感心した風を装って首を傾げると、ちょっと気を良くしたのか胸を張ってくる。
「ま、まぁね。アンタみたいな鈍くさい女とは違うもの」
「えぇ。たった10分で中庭の中央にしかない噴水から、校舎の3階まで移動するなんて、到底私には出来ませんわ。ですから私は無実ですわね」
「あ」
「え」
「ではこれで失礼しますわね。鈍くさい女ですから、色々とやることが多いので」
そう言って返事も待たず、サッサと後にする。
後ろで2人の悔しがる声が聞こえた。
屋敷に戻った後、部屋で寛いでるとノックと共に、弟のリゲルがやって来た。
険しい顔で、こちらを見ている。かなり不機嫌そうだ。
ドアの外ではリゲルの双子の姉のスピカも、不愉快そうな顔でこちらを伺っている。
「姉上!放課後殿下とベガ嬢と、揉めたと聞きました」