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アラウンド・ザ・シークレット2  作者: 空谷あかり
9/9

9 エンディング

 魔王は自室で考えごとをしていた。たくさん悩みはあるのだが、一番の問題はフーシャ姫のことだった。しかしセラフィムがいなくては先に進まないので、彼はほかの案件をこなしながらセラフィムが天界から戻ってくるのを待っていた。

 不意に空間が揺れる。そして「遅くなりました」との声とともに白い髪をして赤い服を着た彼の従者と、金属製のカゴを持って半泣きの表情をしたハンスが彼の前に現れた。

「すべて終わりました」

「そうか」

 落ち着き払ったセラフィムとは対照的に、ハンスはカゴを抱えて後ろ向きに呆然と座り込んでいた。やっと魔王がいることに気づき、正面を向いて「あ、はい。戻りました」とだけ言った。

「どうだ。うまくいったか」

 魔王に聞かれ、ハンスはこう言った。

「生きててよかったです。怖かった……もう僕、勇者なんて嫌です。絶対にやりません」

 魔王は思わず吹き出してしまった。ハンスはその顔を見つめていたが、あの、と堰を切ったようにしゃべりだした。

「笑いごとじゃないんですよ、本当に。同じ白い服を着た人達がいっぱい並んで待ってるし、だだっ広くてどこ行ったらいいか分からないし、セラフィムさんに聞こうと思ったらいきなりいなくなってるし。なんであの時いなかったんですか」

「いたら二人とも警備兵に撃たれてましたよ。わたくしはあそこではお尋ね者ですから」

 とぼけた顔でセラフィムが言った。ハンスはでも、と言い募った。

「案内してくれるって言ったじゃないですか。なんで途中からいなくなっちゃうんです」

「出口で待ってましたよ。それに中は一本道です」

 魔王はあきれたように言った。

「一人で行かせたのか。よく戻ってきたな、ハンス」

「すごく怖かったです。僕、もう二度と行きません。ここにずっといます」

 魔王は大笑いしてしまった。ハンスよ、とたずねる。

「ここは魔王城で私は魔王だ。それでもここがいいのか。人界に戻ろうとは思わぬのか」

 え、とハンスはカゴを抱えたまま立ち上がって言った。

「僕、ここが気に入ったのでここにいます。みんな親切だし、そんなに魔王様こわくないし」

「そうか」

 それに、とハンスは両手をそこに差し出した。

「これじゃ帰れません。こんな手で帰ったら何を言われるか分かりませんから」

 ハンスの両手には薄いながらもくっきりと勇者の紋章が浮き出ていた。こころなしか以前よりもはっきりしているように見える。魔王が言うとセラフィムが答えた。

「神殿に入る際の認証に使いましたから、焼け跡がついたんでしょう。消えるかどうかは難しいですね」

 魔王は腕組みをして考え込んでしまった。考えながらセラフィムとハンスにたずねる。

「人界に行く予定だったのだが、人間どもはここにいたほうがいいのか? 住みづらいようだから戻してやろうと思ったのだが」

「あの、魔王様」

 セラフィムがびっくりして言った。

「そんなお話は全然聞いていないのですが、どういった訳でしょうか」 

「お前が暴れたからだ。これからの予定を詰めようと思ったのにあれでは話にならないではないか」

 困ったように魔王はセラフィムを見た。申し訳ありません、とセラフィムが小さくなる。魔王は話を続けた。

「姫の父王に会いに行こうと思うのだが、用意は何をすればいいのだ、セラフィム」

 セラフィムはぽかんとしてしまった。父王にですか、とオウム返しのように聞く。ハンスはぼけっと話を聞いていた。

「あの、人界に侵攻するわけではなくて、ただ会いに行くというおつもりですか」

「なぜお前までそう言う」

「いえ……失礼いたしました」

 若干混乱気味の思考をまとめ、セラフィムは魔王の顔を見た。

「ジークが姫を探しているのだろう」

「はい」

 魔王に言われ、セラフィムは最初の話を思い出した。ジークはフーシャ姫の婚約者であるが、フーシャは彼を毛嫌いしている。武勇には優れていたが粗暴だったため、彼女は親切にしてもらった魔王の元へ居ついてしまった。魔王も魔王で可愛らしいフーシャ姫を手放す気は全くなく、セラフィムを含む周囲はずいぶんと苦労させられたのであった。

「ならば私が行けばよかろう。私が姫を正妃に迎えると言えば何も問題ないはずだ」

 なんと返事をしたらいいのだろうか。セラフィムはものすごい難問にぶち当たったような気がした。もっとも現状維持では何も進まない。それも事実ではある。

「魔王様」

 機嫌を損ねないように、セラフィムは気を遣いながら言った。

「その、婚礼を挙げられるわけですか。それで姫の父君にお会いしたいと、そういうことでよろしいのでしょうか」

「うむ、そうだな」

 言ってから事の重大さに気がついたらしく、魔王はむ、という表情でセラフィムのことを見た。

「そうか、そうなるのか」

 それからさっと青ざめた。あまり先のことを考えていなかっただろうことが丸分かりであった。


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