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【7/11コミック①巻発売】転生令嬢ヴィオレッタの農業革命~美食を探究していたら、氷の侯爵様に溺愛されていました?  作者: 朝月アサ


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33 王都到着






 ――空を飛ぶのは、何回経験しても飽きない。

 風と一体化する感覚は、いつだって心が躍る。


「気持ちいいわね、クロ」


 声をかけるとクロが嬉しそうに鳴く。


 途中数回休憩を挟みながら、まっすぐに王都に向かって飛ぶ。


 日が暮れて、夕焼けで世界が赤く染まる中、遠くに王都が見えてくる。円形の城壁で守られた巨大都市が。


(随分と久しぶりだわ)


 結婚以来、初めての王都だ。

 クロに乗って飛べばすぐの距離だが、約二年間、近づくことはなかった。


(ああ、この風、とても懐かしいわ)


 ヴィオレッタは期待に胸を膨らませ、懐かしい風の中を飛んだ。

 王都に接近し、空から地上の様子を確認する。


(ええと……ヴォルフズ侯爵家はどこだったかしら……?)


 ヴォルフズ侯爵邸を探しながら飛んでいると、ひときわ目立つ広さの敷地を持つ屋敷が目に留まる。その輝かしさは周囲の邸宅ほどではなく、華やかさも控えめだ。

 その庭で、犬たちが嬉しそうにこちらを見上げて尻尾を振っている。


 ――そこからは迷わなかった。


「クロ、降りるわよ」


 クロに声をかけ、犬たちの注目が集まる中、広い庭に降り立つ。

 その直後、屋敷内から黒い服を着た執事が庭に出てきた。


「――奥様、お待ちしておりました」


 言って、ヴィオレッタに礼をする。

 ヴィオレッタは目を丸くした。


「あ、あら? セバスチャン? どうしてあなたがここに?」

「セバスチャンの兄、執事のセオドアでございます。何なりとお申し付けください」


 似ているどころの話ではない。姿も雰囲気も、完全に同一人物に見える。兄弟だからと言ってここまで似るのかと感心するほど。


「セバスチャンと呼んでいただいても結構です」

「いえいえ、そんなことはしないわ。よろしくね、セオドア。急にきてごめんなさいね」


 この時期になったら王都に来るのは予定していたことだが、具体的な日付は決めていなかった。


「旦那様は、奥様がいらっしゃるのを心待ちにしておりましたよ」

「まあ……」


 嬉しさと、気恥ずかしさが湧いてくる。


「旦那様は、本日はいらっしゃるの?」

「いえ、王城の方にお泊りになる予定です。すぐに、奥様が来られたことをお伝えします」

「今日はもう暗いから、明日でいいわよ」


 エルネストの仕事の邪魔をしたくないし、使用人たちに余計な仕事を増やさせたくない。

 それにヴィオレッタも、半日飛んでいてもうくたくただ。


「クロの休む場所はあるかしら?」

「もちろんでございます。こちらへお越しください」


 案内されるままにクロと共についていく。


「馬小屋に手を入れたものになりますが、いかがでしょうか」

「ばっちりよ」


 きれいな水とたっぷりの土虫もすぐに用意された。あらかじめ準備が済んでいたらしい。

 ヴィオレッタは安心してクロを小屋に入れ、自らも屋敷の中に入った。





 部屋に案内され、メイドの手を借りてあらかじめ送っていた服に着替える。

 夕食後はすぐに休ませてもらうように考えていた時、玄関の方から賑やかな雰囲気がした。

 何事かと部屋を出て、階段の下を覗く。


「ヴィオレッタ!」

「エルネスト様?」


 今日は帰ってこないはずのエルネストが、わずかに息を弾ませてヴィオレッタを見上げていた。


 ヴィオレッタは急いで階段を下り、階下で待ってくれていたエルネストの腕の中に飛び込んだ。


「ヴィオレッタ……会いたかった」

「わたくしもです。でも、どうして? 今日はお会いできないと思っていたのに」


 抱き締め合い、お互いの感触と体温を感じながら、言葉を交わす。声が身体に響く感覚に、胸が震える。


「空にクロの姿が見えて、急いで帰ってきた」


 広い空では黒鋼鴉はとても目立つ。


「嬉しいですけれど、大丈夫なのですか?」

「あまり大丈夫ではないな。今日は時間が作れたが、しばらくは帰れそうにない」

「そうですか……」


 ある程度覚悟していたことだ。

 とはいえヴィオレッタには、王都でやることがたくさんある。


「わたくしは大丈夫ですから、お仕事に集中してください」


 明るく言うと、エルネストは安心したような――だがどこか寂しそうな目をした。


「――ヴィオレッタ、君に護衛をつけたい」

「護衛ですか?」

「最近の王都は治安が悪くなってきた。大したことではないが、トラブルが増えている。君が危険なことに巻き込まれたらと思うと、気が気でない」


 エルネストの声は真剣で、心配がにじみ出ていた。

 ヴィオレッタはすぐには信じられなかった。ヴィオレッタにとって、王都は平和な場所という認識だ。


「信頼できる者をつける。了承してくれるか?」

「は、はい。もちろんです」


 断る理由などない。

 それでも意思をちゃんと確認してくれるところに、誠実さを感じて嬉しくなる――のだが、無意識に顔が引きつってしまった。


「……ヴィオレッタ?」

「い、いえ……なんでもありません」


 ――言えない。

 言えるわけがない。


 護衛となれば、相手は男性が一名か二名だろう。

 いくらエルネストが信頼している相手だからと言って、初対面の相手と過ごすのは緊張する。


 だがそんなことを、エルネストに言えるわけがない。心配させてしまうし、余計な手間を取らせてしまう。


「わたくしのことより――エルネスト様こそ、大丈夫なのですか? ご無理なさらないでくださいね」


 治安が悪くなっていると聞くと心配になる。

 問うと、エルネストはわずかに驚いたように目を見張り、次いで微笑んだ。

 その顔色は明るく、血色もいい。睡眠と食事はちゃんと取ってくれているようだ。


「ありがとう、ヴィオレッタ。私は大丈夫だ。何があろうと必ず君のところに帰ってくる」

「ええ、いつもお待ちしています」


 その日は夕食を共にした後、エルネストはすぐに城に戻った。

 寂しさを感じつつも、ヴィオレッタは笑顔でそれを見送った。




◆◆◆




 翌日。


 ヴィオレッタが朝食後にまず行ったのは、実家であるレイブンズ家への訪問の打診だった。


 実家とはいえ、既に嫁いだ身だ。レイブンズ家の娘であるが、いまはヴォルフズ家の人間だ。

 連絡もなしに行くことはできない。


 実家からの返事は、二日後にということだった。

 その日の午後、執事セオドアから来客を告げられる。王都でヴィオレッタの護衛となる、エルネストの部下が来たと。


 やや緊張しながら応接室に向かう。


 扉を開けると、ソファの前で一人の女性が凛と立っていた。艶やかな長い銀髪に、アメジストのような薄紫の瞳。すらりとした健康的な身体を、男性が着るような礼服で――しかし女性的なラインを活かした服で包んでいた。


「初めまして、侯爵夫人様。あたくしはシエラ・ウルペス。ウルぺス伯爵家の出戻り娘であり、侯爵様の部下でございます。奥様の王都での護衛を任じられました。シエラと呼んでください」


 にっこりと微笑む姿はまるで一輪の百合のようだ。


 返事をしなければならないのに、ヴィオレッタは固まってしまった。


 ――確かに、エルネストは以前、部下に女性がいると言っていた。

 その女性がヴィオレッタの護衛についてくれたことは、素直にほっとした。


 だが同時に、どうしようもない動揺を受けていた。


 エルネストの部下の女性であるシエラは、スタイル抜群で、すらりとした身体は健康的で美しい。


(お、お似合いだわ……! お二人が並ぶと正に美男美女だわ……!)


 並んでいるところを想像すると、完璧すぎる調和が脳裏に浮かぶ。まるで対の彫刻のようで、とても太刀打ちできそうにない。


 エルネストのことを信じている。

 愛している。

 だから何も怖くないはずなのに、ヴィオレッタはショックを受け――そのことにまたショックを受ける。


「……初めまして、シエラ・ウルぺスさん」


 シエラは美しく笑った。


「ええ、よろしくお願いいたします。それから奥様。ご安心ください。あたくしと侯爵の間には、一切何もございませんから。仕事上の付き合いしかございませんからね」


 思いっきり顔に出ていたらしい。


「あたくしの好みのタイプは、とにかくお金持ちの方ですから」

「――た、確かにヴォルフズ家はまだ裕福とは言えませんが」


 はっきり言われると、それはそれで複雑な気分になる。


「はい、将来性は抜群だと思います。ですがあたくしは、もっともっと年上な方が好きなのです。ダンディなお髭が似合う御方とか最高オブ最高ですね」

「はあ……」


 見たところ、シエラは二十代半ばぐらい。

 エルネストと同年代か、少し年上かもしれない。


「それに……はっきりと言ってしまうと、侯爵様より、奥様の方があたくしの好みです」

「ひえっ?」

「冗談はさておいて」


 ――からかわれている。


「わざわざ護衛だなんて、と思われるかもしれませんが……侯爵は恨みをたーっくさん買っていますから。万が一にでも奥様が狙われるのが怖いのでしょうね」


 ――恨み。

 明るくあっさりと紡がれた言葉に、心臓が凍りつく。


「侯爵夫人は、あたくしたちのお仕事をご存じですか?」

「……いいえ。ですが、大変なお仕事というのはわかります」


 ――王家から支払われている莫大な報酬額を見ても、普通の仕事ではないことは伝わってくる。


「侯爵夫人は、凶悪犯罪と聞いてどんなものを思い浮かべます?」


 ――殺人。強盗。誘拐。傷害。

 一瞬で、物騒な犯罪が思い浮かぶ。

 シエラはにこりと笑った。


「そういうものを成敗し、王国の平和を守る正義の味方――」

「…………」

「そんな小説出版したら売れると思いません?」

「面白そうですけれど!」


 ――からかわれている。


(でもきっと、似たようなことをされているんでしょうね。日本でいう警察的な?)


 王都警備兵では捕まえきれない凶悪犯罪者――もしくは、警備兵では手が出せない相手を追う――それがエルネストやシエラたちの仕事なのだろうか。


(例えば、相手が貴族とか……?)


 そこまで考えて、ヴィオレッタは思考を中止した。

 これは、考えなしに深入りしていいことではない。


(治安を守ってくださる方々がいるから、わたくしたちも安心して暮らせる。立派なお仕事だわ)


 心からそう思う。だが同時に、胸が苦しくなる。


(エルネスト様はとても強い御方だけれど、心配ね)


 せめて足手まといにならないように。

 エルネストが安心して仕事に打ち込めるように過ごそうと決意する。


 ――そうして、変な邪推をしてしまったことを申し訳なく思う。

 エルネストにも、シエラにも。


「ご挨拶が遅れて申し訳ありません。わたくしはヴィオレッタ。ヴォルフズ侯爵の妻です」

「ええ、これからよろしくお願いしますね」


 ――エルネストは信頼している部下を護衛につけると言っていた。

 彼女はとても有能で、信頼できる人物なのだろう。

 だから、ヴィオレッタも彼女を信じることにした。


「それでは、どこに参りましょうか。スイーツ? ファッション? ジュエリー? エステ? それとも新観光名所にでも行きますか? 観劇やコンサートという手もありますよぉ。夜は仮面舞踏会とかカジノとかいかがです?」


 シエラはすごく楽しそうに言う。

 思った以上に自由はあるらしい。


「そうですね、それではまずは――」






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【新作長編】捨てられるはずの悪妻なのに冷酷侯爵様に溺愛されています

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