♯14 永遠の存在者② 絶望の足音が近づいてたんだ(後編)
「あの双子に直接訊けばよろしいのでは?」
勇魚の問いに対し、マナは尚もしらばっくれる。
何か話しにくい事情でもあるのだろうか。
それとも――自分は何か彼女の気に障るようなことをしてしまったのだろうか。
「ここから見ていたんじゃないのか? 例の蝶の翅のスクリーンでさ。あれは外界の様子をある程度覗くことが出来るはずだぞ。……今朝、朝食の前に問い詰めたケド、はぐらかされたよ」
――『はて? なんのことですか?』
――『わたしたちはおにーちゃんにもう一度会いたくなったから起こしただけだヨ?』
そう、しらばっくれていた。
「散々チュッチュしたあとのトロ……ンとした状態でも口を割ろうとしませんでしたものね」
「やっぱ見てたんじゃねーか。てかやめてそーゆー生々しいこと言うの」
「まあ、あなた様にまた逢いたいという気持ちをいい加減抑えきれなくなっていたところに、今回の事態ですからね。あなた様を目覚めさせる大義名分が手に入って最初は無邪気に喜んだものの、いざあなた様とまた逢えたら、今度はあなた様を戦いに巻き込むことに抵抗を覚えてしまったのでしょう。……地球の分霊としては少々問題があるくらい優しい子たちですから」
「え?」
「この模造地球デイジーワールドの化身、分霊であるあの双子は――そしてわたくしたち他の眷属もですが――優しいだけはダメなのですよ。ときとして残酷になり、無慈悲な振る舞いをしなければならない場合もあるのです。ヒトという種を再生・存続させるため――そのために必要な生態系や環境を維持・管理するためにもね。ときには、十を活かすため一を切り捨てる――どころか、一を活かすために十を切り捨てなければならない場合もあります。たとえばの話、いつまでも地上に恐竜たちをのさばらせていたら、ヒトという種は誕生してくることが出来たでしょうか?」
「……それは、」
「それこそ、ヒトから恨まれるに値する真似をしなければならないときもあります。『これが自分の使命だ』『たとえ誰にも感謝されず、それどころか恨まれようとも、与えられた役割を全うするのみ』――そう割り切らないとやっていられません」
「………………」
マナの言葉を聞いて勇魚がふと思い出したのは、斃したメガネウラの骸を見つめ涙ぐんでいたあの双子の背中だった。
「それ以前に、独断専行はどうかと思います。あなた様抜きで勝ち目があるとでも思っているのでしょうかね、あの双子は」
「? なんの話さ?」
「……すぐにわかります。それより、先程の『今この地球上で何が暗躍しているのか』という質問への答えですが、」
「――ぶっちゃけ、アタイらにも詳しいことはわかんねーんだよ」
「!」
突如割り込んできた声に振り向くと、早乙女装束に身を包んだ少女、〈種を播くもの〉クーがいつの間にかそこに立っていた。
「抜け駆けは許さねーぞ」
クーはマナをジロリと睨み、意味不明なことを言ってからこちらへ向き直り、
「宇宙間集合無意識って言葉、憶えてるか?」
「宇宙間集合無意識? 確か、〈太母〉が役割を果たすために活用していた、すべての平行宇宙の歴史が記された情報の海……だったよな? 〈太母〉の役割はそこからオリジナルの地球に関する記録を引き出し、この模造された地球の人類の無意識に植え付けることで、出アフリカといった新天地進出の決意や、インスピレーションを与えるというモノだったんだろう?」
すべては種としての拡散を促したり、発見や発明、創作活動を促すことで文明の進化と発展をオリジナルの地球の人類が歩んだそれと可能な限り同じ方向へ導くために。
「そ。『人類進歩』な。ちゃんと憶えてたじゃねーか。鳥頭のおまえにしちゃ上出来だ」
一言多い。
と言いたいのは山々だが、彼女たちのことを綺麗サッパリ忘れていた手前、文句は言えない。
「アタイらの中でもマナや〈太母〉といった限られた眷属だけが、役割の関係上ごく一部のみアクセスや閲覧を許されている多元宇宙規模の情報共有ネットワーク――宇宙間集合無意識。その記録によれば、連中はもう百億年もの永きにわたって数多の平行宇宙、模造地球で暗躍してきたらしい」
「連中? ……それが今この地球上で暗躍している『何か』なのか? 何者なのさ?」
「わかんねー」
「わかんねー!?」
「仕方ねえだろ。さっきも言ったとおり、連中は数多の平行宇宙、模造地球で暗躍してきたが、一度だって同じ名を使ったことはねーんだ。『地球動物園』管理者だの『地球内部空洞』開発者だの『ウイルス進化』体現者だの、名前をコロコロと変えてきやがったのさ。この模造地球ではなんて名乗るつもりやら」
「む……」
「ハッキリしていることはふたつだけ。連中の目的が人間採集だということ。そしてガイアのチビどもやアタイらといったオーバーロードが〈宇宙意思〉の眷属であるように、連中は〈闇黒意思〉の眷属らしいということだけだ」
オーバーロード。それがあの双子や彼女たち――この宇宙の生みの親の眷属である者たちの正式な呼び名らしい。
「〈闇黒意思〉の眷属だって……? しかも連中の目的が人間採集!? それ、本当なのか!?」
「本当よ。もっとも、人間なら誰でもいいというワケではないみたいだし、人間を集めて何をしているのかもわかってないのだけれど」
勇魚の質問に答えたのは、いつの間にか氷山の前に立っていた純白のシャープカとファー付きコートを纏った少女――〈神の財産目録保存者〉リッカだった。
「連中の本拠地がどこかなのか、それすら謎に包まれてるわ。隣の宇宙――第3909平行宇宙で連中が暗躍した際は、地球から約120億光年ほど離れたところにある超モンスター銀河……〈オロチ〉という天体を根城にしていたみたいなのだけれど、この第3910平行宇宙でもそうだとは限らないし」
〈オロチ〉などという恐ろしい名前の天体があったことも驚きだが、それ以上に気になるのは、
「すぐ隣の宇宙にも現れたのか!?」
「ええ。隣だけじゃない。クーが今言ったでしょう? これまで数多の平行宇宙、模造地球で、連中は暗躍してきた。そのたびに各宇宙の〈宇宙意思〉に仕えるオーバーロードたちが連中と相見え、激戦を繰り広げてきたのよ」
「激戦を……」
「ええ。死闘、あるいは殲滅戦と言い換えてもいいわ。……でもね、悔しいけれど、その蛮行を阻止できたことはほとんど無いの。隣の宇宙も含めて、ね」
「それじゃあ、」
「そうよ」
ゴクリと唾を呑む勇魚に、リッカは小さく肯き、
「ほとんどが返り討ちに遭った。多くの人間を連れ去られた上で、もう用無しとばかりに地球もろとも滅ぼされてきたの」
「っ」
「そう……ただひとつの例外、第1平行宇宙の模造地球を除いて、ね」
「! あるのか、例外が」
「はい」
とマナは相槌を打ち、
「第1平行宇宙はとても幸運でした」
「幸運?」
「第1平行宇宙はその番号の示すとおり、あなた様が生まれ育ったオリジナルの地球が在る第0宇宙と隣り合う宇宙です。だからでしょうか。オリジナルの地球を出自とする魂魄がひとつ、偶然にも流れ着きました」
「もうわかっただろ?」
マナの言葉を引き継ぐように、クーはこう言った。
「他でもない、その魂魄こそが、のちに数多の宇宙で謳われることになる英霊――初代の〈ガイアセンチネル〉なのさ」
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