♯7 幽明界の上に立ち⑥ どこの特撮番組ですか?(前編)
「「「すごいすごいすごい!」」」
己が失態を悟った勇魚に、三人の女の子が興奮した様子で詰め寄ってくる。
「宇宙人――つまり異星人ということか!?」
「英語で言うとエイリアン! つまりエイリアンのオバケさん!?」
「……オバケさん、凄い。ロリコンなだけでなく、エイリアンでもあったなんて……!」
「「「――よろしく、ロリコンなエイリアンのオバケさん!」」」
「悪化したー! より人聞きが悪くなったー! ていうかまだロリコンだと思われてたー!」
その場にしゃがみ込んで頭を抱える勇魚の肩を、結芽がやたら朗らかな笑顔でポンポン叩く。
「さっきはすまなかったな! わたしとしたことが少々大人げなかったかもしれん。誘拐犯たちをやっつけてくれたこと、礼を言うぞ。わたしは葉加瀬結芽! 私立弟橘媛女学院、初等部四年だ!」
「は、はあ。……この子、オバケってだけだと敵愾心剥き出しだったくせに、宇宙人でもあるとわかった途端フレンドリーになるのはなんでなの……?」
相手がなんであれ、ロリコンだと思うのなら警戒すべきではないだろうか。
「出身は京都でな、実家は御所の隣なのだ。ちなみにお祖父さまはあの葉加瀬グループの会長をしている! と言っても知らんだろうから念のため説明しておくと、葉加瀬グループは情報機械と宇宙開発の分野で絶大なシェアを誇る日本有数の巨大企業なのだぞ? 今度ウチに遊びに来るといい!」
「……警戒を解いた途端グイグイ来るな、この子……」
どうも話を聞く限り結構なお嬢様のようだ。……こんなでも。
「今、何か失礼なことを考えなかったか?」
鋭い。
「はい! はーい! 次、穂垂! 穂垂ね!」
続いて穂垂が挙手、元気良く自己紹介する。
「早苗穂垂! 同じく弟橘媛女学院、初等部四年です! 出身は東京! ウチのパパは鉄道に海運業に不動産にデパートに、あと、まるちめでぃあ? にと、いろんな事業を手掛けてる日本最大のこんぐろまりっと? 早苗グループの会長をやってまーす! なんでもウチのグループだけで日本人の生活の二割を担っているとかいないとか! よく知らないけど!」
「知らんのかい」
思わずツッコんでしまった。
「たっはー♪ ツッコミがキレっキレだねー! でもゴメンね! 穂垂、あんまり頭が良くないんだ! 結芽っちや銀花ちんほど勉強が得意じゃないんだよ!」
「っぽいね」
失礼な相槌を打ってしまった気もするが、当人は「えへへへへ♪」と気にすることなく笑い、
「あと、ママはあの島出身で、売れっ子の絵本作家だよ!」
「絵本作家」
「うん! よろしくね! はい、次! 銀花ちん!」
「……寒河江銀花。同じく弟橘媛女学院、初等部四年」
促された銀花は先の二名とは対照的に淡々と名乗って、訥々と自己紹介する。
「……ウチは特に会社とかはやってないケド、元華族で、代々外交官を担ってきたんだって。だからお父さんもそうなの。それでね、お母さんは専業主婦なんだケド、元々はアイスランド王国出身で、こっちも高貴な血筋だったみたい。でもお母さんが生まれてすぐに故国ですったもんだあったらしくて、この国に亡命してきたんだケド、ある日お父さんと恋に落ちて、結果あたしが生まれたって聞いてる。だからあたし、ハーフなの」
「へ、へ~……」
こう言ったらなんだが、この子たちなどよりも銀花の母親のバックボーンのほうが遥かに気になった。
「……む。あんまり興味無さそう」
「そ、そんなことないよ? そっかー、こっちの地球にもアイスランドはちゃんと存在するんだネ。まあ、日本だって存在したワケだしな……って、え? アイスランド『王国』……?」
自分が生まれ育った地球では、確かアイスランドは共和国だった気がするのだが……。
記憶違いだろうか。
いや、母親がアイスランド出身だという人物から聞いた話だから、間違いではないはずだ。
……なんにしろ、自分はアイスランドにルーツを持つ人間とよくよく縁があるようだ。
「……そんなワケだから、この銀の髪はお母さん譲りなの。もっともお母さんが言うには、銀の髪はアイスランドでも珍しいみたいなんだけど」
「はあ」
そういえば、自分にアイスランドは共和国だということを教えてくれた人物も父親のほうはイギリス出身だとか言っていたな……なんてことを考えつつ、勇魚はおざなりに相槌を打つ。
というか、他に何も出来ない。
地球の分霊である双子に至っては、この子たちに微塵も興味が無いらしく、こちらの服の裾を掴み立ったままウトウトと舟を漕いでいるし……。
「それにしても散々な目に遭った! 偶には街で買い物でもと思い、久方ぶりに外出したまではよかったが、ものの数十分で誘拐されそうになるとはな!」
「も~。だから言ったんだよ~。せめてタクシーを使うべきだって。あれじゃあお金持ちの家の子だって喧伝してるようなもんじゃん。この島でリムジンを使う子なんて、ウチの学校の生徒くらいしかいないワケだしさ」
「……まあ、どのみち規則で外出時の服装は制服と決まっている以上、正体はバレバレ。結局、SPをつけずにあたしたちだけで歩き回ったのが最大の失敗」
話を聞く感じ、この子たちが通っている弟橘媛女学院とやらは相当なお嬢様学校らしい。
「待てよ?」
勇魚は市場で見た島の地図をふと思い出す。
確か、島の北側はどこかの学校法人の私有地で立ち入り禁止と書かれていたはずだ。
「もしかしてこの子たちが通っている学校が……? ――よし」
確かめようと、口を開きかけたそのときだった。
「「危ないっ!」」
それまで舟を漕いでいた双子が同時にハッと目を見開き、ドン! と体当たりで押し倒してくる。
「痛っ! こらっ、いきなり何を――」
倒れた際にぶつけた後頭部を押さえながら発した抗議は、
ブウゥゥゥゥゥ……ンッ!
直後、遥か上空から飛来しこちらの頭上を掠めるように翔け抜けていったそれの翅音、その巨躯が生み出した風切り音によって掻き消された。
「い、今のは……!?」
「「「トンボっ!?」」」
そう。
それの姿をかろうじて目で捉えた結芽たちが言うように、今しがた凶悪な顎でこちらの首筋を狙ってきたモノの正体は、あのトンボだった。
ただし体長や翅の長さがゆうに一メートルは超えているであろう、冗談みたいに巨大なトンボだ。
「おそらくはメガネウラなのです」
「和名ゴキブリトンボだネ」
「め、めがねうら? ごき……!?」
双子の口から飛び出した聞き慣れぬ単語に、勇魚は目を白黒させる。
「おにーさんが生まれた地球、生きた時代を基準に説明しますと、主に二億九千万年近く前の森に棲息していた原始的なトンボなのです。同時に、史上最大の昆虫でもあります。名前の意味は『巨大な翅脈の持ち主』。開いた翅の長さは、大きい種だと七十センチを超えますです。もちろん、中には現生のトンボとさして変わらないサイズの種もいましたですが」
「ちなみに、のちの時代のトンボのようなホバリング能力は持ってないんだヨ。翅を時折羽搏かせることで滑空、移動していたんだ。言うまでもなく肉食で、この地球には密林の奥深くで現代まで細々と命脈を繋いできた小型種がいるにはいるんだけど……」
「でもあれ、どう見ても体長一メートルはあるぞ!? 滑空どころかハエみたいに飛び回っているし! どっちかというとウスバカゲロウに似てないか?」
第一、ここは海上なのだが。
「たぶん、何者かの手によって生体兵器として『改造』された種なのですよ。それも遺伝子レベルで。何世代にもわたって」
「あの様子じゃ、体内にどんなトンデモ器官が組み込まれてあるかわかったもんじゃないヨ? 最悪の場合、毒液を吐いたり火を吹いたりする能力が備わってる可能性も……」
「なんだってぇ!?」
双子に口にしたその可能性に、勇魚は背筋が凍り付くのを感じた。
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