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♯6 幽明界の上に立ち⑤  なんかロリが増えたんですけど……(前編)


「ちっ! おい、何やってんだ!? さっきからちっとも船が進んでねーぞ!?」


「無茶言うなや! ここいら一帯ぜーんぶ凍っちまってんぞ!? どうやって船を動かせって言うんだ!? この船は砕氷船さいひょうせんじゃねーってのに!」


「くそっ。何がどーなってんだよ!? なんでここいらだけ突然凍っちまったんだ!?」


「も、もしかして、二十五年前のあの天災――大寒波が再び起こったんじゃ……」


「オイオイオイ……。まさか隕石まで降ってこねーだろーな……? なんか、二十五年前はあの島に隕石が雨霰のごとく降り注いだって話を聞いたことがあるぞ!?」


「冗談じゃねえ! あんときアジア一帯にしこたま降り積もった雪や霜だって、あらかた解けたのは近年のことなのに! あの大寒波が引き起こした事故やら飢饉やらでどんだけの人間が死んだと思ってんだ!?」


「ンなこたぁ今はどーだっていい! とにかく、とっとと船を動かんだよ! いつ警察サツに感づかれるかわかったもんじゃねーぞ!」


「だからどーやってだよ!? それとも、おまえがこの凍った海をどーにかしてくれんのか!?」


「あ~あ……せっかく高値で売り捌けそうなガキどもが手に入ったってのによ。このままだとまた失敗しちまうんじゃね?」


「おまえが言うか!? 前回の失敗はおまえが原因だろ!? おまえが監視中に居眠りなんかしやがったから、誘拐した令嬢に逃げられちまったんじゃねーか!」


「ち、ちげーよ! 言っただろーが! 俺は居眠りなんかしてねーって! 俺は見たんだ! ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()! ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!」


「夢でも見たんだろ!」


「夢じゃねーよ! 俺が思うに、最近本土を騒がせている例の神隠しの正体はあの不気味な手に違いねーんだ!」


「漫画じゃあるまいし! 言い訳するにしても、もうちょいリアリティのある嘘をつけや!」


「……なあ、もうこの際、凍った海面を歩いて渡ったほうが早くねーか? しゃーねーから、島で攫ったガキどもは肩に担いでいくことにしてよ。十歳かそこらのガキなんて大した重さじゃねーし。元々あの島から本土まではせいぜい五㎞くらいしかねーんだしさ」


「確かに……。暴れたら殺すと脅せばガキどもも大人しく担がれてるだろうしな……」


「だろ? この船も盗んだヤツだから、乗り捨てたところでアシはつかねーワケだし」


「よし、おまえら! 厄介なモンを持ってないか確認するために麻袋から出したガキどもを袋に戻せ! ボディチェックは本土に着いてからだ! ……って、そこぉ! 俺の話を聞けぇ! 何ガキどもの身体をまさぐろうとしてんだ! ボディチェックは本土に着いてからだって言ってんだろ! ……って、おまえ、なんでそんな目を血走らせてんの……? 息まで荒げて」


「いや、その、このガキども、よく見たらなかなかの上玉揃いだなーって……」


「「「変態だーっ!」」」


「ううぅ……。本当なのにぃ……。俺は誓って居眠りなんかしてねーよぉ……」


「だーっ! そしておまえはいいトシして何メソメソしてんだ!」






「……なんなん、この緊迫感の無い会話は……」






「「「「「っ!? 誰だ!?」」」」」


 凍った海面を魂魄タマシイだけの状態で渡り、ようやく追いついたプレジャーボートの船尾甲板(デッキ)で。


「しまった、ついツッコんでしまった……」


 物陰で『地球系統ガイア・システム』のチカラを使って再び受肉し、攫われた子供たちを救いだすための算段を立てていた勇魚いさなは、おのがツッコミ体質を呪い、頭を抱える。


「出てこい! そこにいるのはわかってるぞ! ガキどもがどうなってもいいのか!?」

「仕方ない……」


 不安そうに見上げてくる双子に「このまま隠れてろ」と指示し誘拐犯たちの前に姿を晒しながら甲板デッキ上を見渡すと、夕陽で紅く染まったそこには黒いスーツに身を包み拳銃を手にした男五人と、手足を縄で縛られて猿轡さるぐつわを噛ませられた女の子三人の、計八つの姿があった。

 先程の会話から判断するに、船の操舵手が別にいて、隠れているという可能性は低そうだ。


「テメェいつからにそこに!?」「警察サツか!?」「……ではなさそうだな」「女か?」「いや男だろ」

「「「むー! むー!」」」」


 まなじりを吊り上げ拳銃を構える黒服たちの足元で、麻袋を被せられるところだった女の子たちが縋るような眼差しをこちらへと向けてくる。

 女の子たちは全員十歳かそこら、小学校で言えば中学年くらいだろう。学校の制服だろうか、モダンな着物姿で、遠目にも器量良しとわかる。反則的存在である双子にこそ及ばないものの、ただの人間であることや年齢を考えれば、黒服の一人が評したとおり『上玉揃い』と言えた。「高値で売り捌けそう」とかなんとか言っていたし、黒服たちがこの子たちを攫った理由もその辺りにありそうだ。


 ……まあ、それはそれとして。

 勇魚は黒服たちを半眼で睨み、


「このロリコンどもめ」


 とりあえず、なじっておく。


「「「「「開口一番ロリコン呼ばわり!?」」」」」

「あれ? 五人いる? ワンボックスカーから降りてきたロリコンは三人だったはずだけど。……って、船で待機していたロリコンが二人いただけの話か」

「ちょっと待て! 俺ら四人はロリコンじゃねえ! ロリコンなのはコイツと、このガキどもを俺らから購入する他国のセレブどもだ!」

「えっ、俺!? そうかな……そうかも……?」


 一人、アイデンティティが揺らいでしまっている者がいるようだ(どうでもいいことではあるが)。


「それにしても、さっきの地面に開いた大きな穴から這い出てきた不気味な手がどうたらって話。なーんか気になるな……。突拍子が無さすぎて逆に引っ掛かるというか……」

「聞けよ! 何ブツブツ言ってやがる! てか、よく見たらテメエ、島の波止場にいた奴じゃねーか!? なんでここに!?」

「あ、こっちに気付いてたんだ。……ボクがここにいる理由は言わなくてもわかるでしょ?」


 向けられた銃口を一瞥しつつ勇魚が答えると、黒服たちのコメカミに青筋が浮かぶ。


「っ。いい度胸だ……。けどよ、なんの用意も無しにノコノコと、しかも一人で来るなんざ、ちぃっとばかし不用心が過ぎるんじゃねーか?」

「まあ、普通ならそうだね。さて、ここからどうしたもんかな」

「余裕ぶりやがって――この拳銃が見えねーのか!? まあいい、あの世で後悔しな!」


 リーダー格と思しき黒服が吼えるや否や、手にした拳銃の引き鉄を引く。

 男の射撃の腕前はなかなかのモノで、放たれた銃弾は狙い違わず勇魚の眉間を貫き、甲板デッキに真っ赤な血の花を咲かせた。

 背中から甲板デッキくずおれた勇魚はビクンと一度だけ痙攣し、物言わぬむくろと化す。


「「「んー!」」」


 それを見た女の子たちが猿轡の下で悲鳴を上げ、


「おにーさんっ!」

「おにーちゃんっ!」


 物陰に隠れていた双子も反射的に勇魚の亡骸なきがらへ駆け寄ろうとして――


「「「「「へっ?」」」」」

「「「む……?」」」


 黒服はもちろん、女の子たちも、次の瞬間起こったことに目に瞠った。


 勇魚の亡骸が無数の紫の燐光と化して掻き消え、ゆらゆらと揺らめく白い鬼火のようなモノだけがその場に残ったかと思うと、間を置かずに燐光が渦巻き始め、鬼火がそれを再び吸収し、閃光を放って少年の姿をカタチ作ったのだ。


 そう――まるで何事も無かったかのように佇む、撃たれる前と同じ勇魚の姿を。


「ふむふむ。なるほど。即死クラスのダメージを負うと『地球系統ガイア・システム』で構築された肉体は跡形もなく消滅するワケだ。……甲板デッキに飛び散ったであろう血も見当たらないな。体組織や遺伝子情報すらも再現した肉体って話だケド、そういう意味ではやっぱ普通の肉体じゃないよなぁ」


 まあ、『タマ』に注ぎ込まれた『地球系統ガイア・システム』が底をつかない限り、何度死んでも復活が可能なワケだから、便利と言えば便利だが。

 実質不死身なようなものだ。

 お陰で無茶がきく。


「まあ、大丈夫だとわかっていても怖いもんはやっぱ怖いケド……」


 白状すると、速攻で撃たれるとは思っていなかった。まさかいきなり殺したりはしないだろう、まずは捕縛を試みるはずだ、と踏んだのだが……甘かったらしい。図らずも『地球系統ガイア・システム』の性能テストみたいになってしまった。

 あと、女の子たちには嫌なモノを見せてしまった。申し訳ない。


「お、おにーさん? さっきから、なんでそんなにチカラを使いこなしているのですか?」

「もしかしておにーちゃん、〈隙間の神〉ゴッド・オブ・ザ・ギャップスたちに『地球系統ガイア・システム』の使いかたまでレクチャーしてもらったの? それとも……、昔のことを完全に思い出せたの?」


 勇魚が手を握ったり開いたりして再構築された肉体の感触を確かめていると、双子が怪訝そうにそう訊ねてきて、遠巻きにこちらを取り囲んでいた黒服たちも、


「てっ、てててててテメエ! いったいなんなんだ!?」

「何しやがったんだよ、今!?」

「た、確かに殺したはずなのに!? てか、間違いなく死んだよな今!?」

「俺たち、悪い夢でも見てんのかよ!?」

「何あの子たちメッチャ可愛い!」


 と、半狂乱でただしてくる(一人、この状況下でも双子が気になるらしいロリコンもいたが)。


「「「(ポカーン……)」」」」


 見ると、さっきまで眦に涙を浮かべ縋るような眼差しでこちらを見ていた女の子たちもまた目を真ん丸にして驚いているようだった。


「よーし。とりあえず順番にコイツらをブッ飛ばしていこう。まずはそこのロリコンからだ」


 ロリコンからなのは単純に気持ち悪いからである。


「ちっ……! この化け物がぁ! おまえら、撃て! 撃てぇぇぇ!」


 リーダー格と思しき黒服が、再度拳銃を構え叫んだ。



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