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ゲームの国家と共に異世界転生  作者: 大陽
アウローラ王国編
9/19

アウローラ王国侵攻計画

◇天央歴1027年 2月12日 昼 東京 防衛省 本舎 特別会議室


 防衛省の本舎の地下に存在する特別会議室。


 この会議室は長官以上の身分の者が重要な会議を行うために使用される部屋で、それ故に防諜は厳重に行われており、使用される前に念入りな盗聴機や盗撮機の検査が行われる。


 そして、この部屋では国の最高指導者であるユウキに軍の政治的な代表者たる防衛大臣、軍部のトップである統合軍総長、更には陸海空それぞれの長官に海兵隊長官、合わせて7人が各軍の状況報告とアウローラ王国侵攻計画についての会議を行っていた。



「さて、それでは陸軍の状態から知らせて貰おう。陸軍長官、説明してくれ」



「はっ」



 ユウキから指名を受けた陸軍長官は、早速陸軍の現状を説明し始めた。



「我々陸軍はここに居る三軍の中で最優先で燃料を含めた物資を最優先で供給されているため、転移後も元から存在する部隊の練度の低下は見られません」



 陸軍長官はそう言いながら淡々と報告をしていたが、海軍長官は悔しそうな顔で陸軍長官の顔を睨んでいた。


 転移以来、海軍は燃料を多く消費するということでアウローラ王国侵攻作戦に参加する横須賀の第一艦隊や燃料を殆ど消費しない原子力潜水艦で構成される潜水艦隊に対潜哨戒のための哨戒機、更には乗員育成のための練習艦を除いて訓練及び哨戒活動は無期限停止となっていたのだ。


 そんな彼からすれば、訓練を満足に行えるだけ陸軍の境遇が羨ましいと思うのも無理のない話だった。


 ──しかし、陸軍の方も別に楽ばかりしているという訳ではない。



「しかしながら、新たに補充された兵士は別です。たった2ヶ月なので仕方ないとも言えるかもしれませんが、はっきり言ってこちらは使い物になりません」



 転移前、各軍は丁度日本とこの国の人口に比例するかのように、総兵力約50万人と、自衛隊の2倍の兵力を保有していたのだが、転移後はアルメリア大陸に進出する為の兵力の確保や失業者受け入れなどの理由で一気に100万人となり、その殆どが陸軍に吸収されている。


 だが、当然の事ながらたった2ヶ月の訓練では兵士として使い物にすることなど到底できず、一応、歩兵として最低限の業務は可能なようにはなっていたが、逆に言えばそれ以外は全く期待できない上に身に付けている技能も本当に歩兵として最低限のものだった。



「少なくともあと半年は訓練期間を頂かなければ、弾除けとしてすら期待できません。なので、来月に予定されているアウローラ王国侵攻作戦にはこういった者達が中心の新設師団は除外してあります」



「なるほど、よく分かった。ありがとう陸軍長官」



 ユウキはそう言いながら、陸軍長官に軽く礼を言いつつ、次に海軍長官に目を向けた。



「では、次に海軍長官。海軍の現状についての説明を頼む」



「はい。まず我が軍が保有している艦艇は一部を除き、訓練を一切行っていません」



「ああ、俺がそう指示したからな。それについては申し訳ないと思っているよ」



「い、いえ。閣下を責めた訳では・・・」



 ユウキの切り返しに対し、海軍長官は恐縮げにそう言った。


 なにしろ、この国の制度はゲーム時の独裁国家という設定を引き継いでいるため、ユウキの立場は国の独裁者という形になっており、軍の人事もそれこそ自由自在だ。


 そんな独裁者の不孝を買えば左遷は勿論、場合によっては死刑もありうるのだから、海軍長官がこのような反応をしてしまうのも当然と言えば当然だった。



「心配せずともそんなことを指摘したからといって俺が処罰することはないよ。それより、アウローラ王国侵攻作戦に必要となる第一艦隊についてはちゃんと訓練を行っているんだね?」



「は、はい。それは勿論。練度もちゃんと維持しております」



「ならいい。他に報告は?」



「いえ、特には」



「なら次だ。空軍長官、問題を報告してくれ」



「はい。では、ご説明します」



 ユウキに指名された空軍長官はそう言って、ユウキに言われた通り、空軍の問題点を報告する。



「空軍は十分な燃料と部品を供給されており、既存部隊の練度の向上と補充人員の育成が進んでいます。なので、問題点は海軍に比べれば有りませんが、強いて言うならば、機体の補充・増強がされていないのでパイロット余りが起きていることかと」



 そう、空軍は転移以来、保有する航空機の補充や増強が行われていなかった。


 理由は陸軍の増強が優先された事と航空燃料の大幅な消費が懸念されたからだ。


 まあ、それでも訓練には十分な燃料と部品は供給されていたので、今のところはあまり問題と言える点ではなかったし、唯一の問題点も海軍の事情に比べれば小さい問題だった。



「パイロット余りか。しかし、パイロットが余る分には良いのではないか?機体よりパイロットの方が補充に時間が掛かるのはよく聞く話だ」



「それはそうなのですが・・・機体の数に余裕がない状態というのはあまりよろしくありません」



「分かった。ところで、空軍はアウローラ王国侵攻作戦ではB2を用いた空爆を行って貰うことになっているが、そちらには支障はないか?」



「はい、問題ありません」



「なら、良い。・・・さて、最後に海兵隊長官。来るべきアウローラ侵攻作戦において先陣を切って貰う手筈になっているが、何か問題はあるか?」



「特には。我が軍もまた必要な物資は十分に供給されていますし、陸軍のように大々的な兵の受け入れも行っておりませんので、転移前と殆ど事情は変わっておりませんから」



 海兵隊長官はユウキの問い掛けに対して、はっきりとそう答える。


 そう、海兵隊は4軍の中で唯一転移前から事情の変わっていない組織だった。


 これは海兵隊の仕事が陸軍と被っているところがあることや斬り込み隊という特徴があるがゆえに精鋭で無くてはならないという考え方から失業して軍に入ろうとする者にはあまりにもキツいと思われたこと、更には他の三軍に比べて組織規模が小さいがために装備品の補充や増強が容易だったこと。


 こういった要素が重なったことにより、海兵隊は転移前と殆ど事情が変化していなかったのだ。



「そうか。ならば安心だ。ありがとう、海兵隊長官」



「いえ」



「うむ。では、軍の事情を一通り把握したところで統合軍総長。現時点でのアウローラ王国侵攻作戦の草案について説明して貰いたい」



「はっ。では、ご説明致します」



 総長はそう言うとリモコンを操作して部屋のスクリーンにアウローラ王国の沿岸部と上陸地点を示す3つのX、更に味方を示す赤の矢印を映し出しながら説明を始める。



「まず我が軍は3月1日午前0時に闇夜に紛れる形でアウローラ王国の沿岸に対して上陸を開始。3つの上陸地点にほぼ同時に上陸して同日1200までに橋頭堡を築きます」



 続けてスライドして映し出されたのは、橋頭堡を築いた後の味方の進路についてだった。



「次に上陸後の進路についてですが、今回は穀倉地帯の占領が最優先との事ですので、第一海兵師団及び第7師団を除く陸軍の部隊はこちらの制圧に集中させ、第7師団のみ王都を制圧します。・・・ここまでで何か質問は有るでしょうか?」



 その言葉に陸軍長官が手を上げ、このような質問をする。



「作戦の概要については大体理解しました。しかし、第7師団以外の陸軍部隊が4個師団と記されているのみで特定の師団名が示されていませんが、これはどういうことですか?」



「まだ決まっていないということだ。投入する大体の兵力は統合参謀本部で既に決定されているが、具体的な投入師団については第7師団以外は未定となっている」



「・・・なるほど」



 陸軍長官はそれで大体の理由を察した。


 そもそも転移以前の陸軍編成では第7師団こそ機甲師団となっていたが、それ以外の師団は全て機械化歩兵師団として統一されている。


 もっとも、転移以後の新設師団に関しては兵士の増強に機械化が間に合っていないこともあって通常の師団となっているが、新兵ばかりの新設師団を上陸作戦に従事させるわけにはいかないのは統合参謀本部の人間も分かっていたらしく、これらの新設師団は最初から除外されていた。


 だが、第7師団以外の師団の種類が統一されているがゆえに、何処の師団を作戦に参加させるのかについてはまだ結論が出ていない。


 これが自衛隊のように通常師団と機械化歩兵師団に別れていたのなら話は簡単だったのだが、ユウキがゲームで軍の師団を編成する際に2つの種類の師団の用途が似ていることに気づき、折角だからと機械化歩兵師団で統一してしまったことで話がややこしくなってしまったのだ。



「では、4個師団の編成は我々の裁量に任せていただくことには出来ませんか?」



「私は構わないが・・・」



 統合軍総長がチラリとユウキを見る。


 そして、その視線の意味を察したユウキは小さく頷きながらこう言った。



「陸軍長官。作戦に参加する4個師団の選定については貴君に任せる。各師団の師団長とよく相談して選定するように」



「はっ。ありがとうございます」



 ユウキの言葉に、陸軍長官は礼を言いながら頭を下げる。



「・・・それで、話を戻すが、占領した後の統治についてはどうするつもりだ?ただ占領するだけならともかく、開拓移民団を送り込むわけだからそれだけでは足りないと思うが」



 そう、実はアウローラ王国は未開拓、あるいはそれに近い農産物の収穫が見込まれる土地がまだ数多く存在しており、今回の侵攻作戦が成功した後、開拓移民団をそういった土地に送り込む計画が立てられていた。


 だが、満州国の例を見れば分かるように開拓移民団のような大勢の非武装の民間人を守るためには、大勢の兵士が必要だ。


 ただ占領するだけなら6個師団8万人ならば十分すぎるだろうが、そこに開拓移民団という護衛対象が加わると逆に不足になってしまうのが現実だった。



「それについては新設師団の練度向上を待つつもりです。おそらく、開拓移民団を送り込むまでにはある程度使えるようになっていると思われますので」



「なら良いが、もし間に合わない場合は・・・いや、そんなことを考えても無駄か」



 ユウキは新設師団の育成が間に合わなかった時の事を考えたが、すぐにそれが無駄であることに気づいた。


 なにしろ、転移前から存在する既存師団はアウローラ王国に投入する分も含めて全て投入される作戦(・・・・・・・)が決まっている(・・・・・・・)のだ。


 ここで既存師団を開拓移民の護衛にあてれば、他の作戦(・・・・)に支障が出てしまう。



「分かった。そういったことは全て総長に任せよう。ただし、既存の戦略や作戦を大幅に変更する場合は必ず俺に報告するように」



「承知しております」



「では、次だが──」



 ──その後も午後6時頃まで会議は続き、少々の修正を挟みつつも、アウローラ王国侵攻計画はこの日のうちに大体が纏まった。

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