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ゲームの国家と共に異世界転生  作者: 大陽
アウローラ王国編
7/19

名前のない国

◇天央歴1027年 2月11日 夕方 東京 冬宮邸



「ここが俺の家だ。幾つか空いてる部屋があるから好きに使ってくれ」



 都心から少し離れた位置に存在する冬宮ユウキの自宅。


 この世界に来た当初、特定の家を持っておらず、政府関連施設やホテルに寝泊まりしていたユウキだったか、流石にそれでは落ち着かないと自宅を持つことになり、新たに建築され、アカネが来る直前に完成したこの家がユウキの自宅となっていた。


 新築されたばかりのその家はユウキの転生前の実家である洋風の豪邸より広く、更にユウキが使っていないときも毎日政府の厳重な審査をパスしたハウスキーパー達が出入りして掃除や家具の整理などを行っており、出来てから日が浅いこともあって家の中はピカピカでホコリ1つ見当たらない状態のままとなっている。


 そして、この家にはユウキ自身の部屋や同居しているアカネの自室を除いても空いてる部屋が幾つもあり、ユウキはレイナにその内の1つを与えていた。



「あんたの国って変わっているわね。国の発展ぶりもそうだけど、最高責任者の住む場所が城じゃなくて広いとはいえ、住宅だなんて」



「まあ、こっちの方が落ち着くからね」



 レイナの言葉に、ユウキは苦笑しながらそう答える。


 王族や皇族の立場に居る者が城や宮殿を住処にしているのは、ユウキの転生前の世界(地球)でも普通だった。


 実際、日本の皇族も皇居という名の元江戸城に住んでいるし、英国の王族の場合はバッキンガム宮殿がそうだ。


 だが、ユウキは自分の立ち位置を転生前の世界で言うところの総理大臣や大統領的な立ち位置だと思っており、それ故に王族や皇族のように城や宮殿を自宅にするつもりは更々なかった。


 しかし、王政国家が大半のアルメリア大陸では国の最高指導者は大なり小なり城に住んでいるのが普通であり、ユウキのように最高指導者の住処が普通(と言っても、かなりの豪邸だが)の住宅であることの方が異端だ。


 だからこそ、レイナの指摘もある意味尤もだということも理解していた。



「そもそも城や宮殿なんて俺の身の丈には合わないよ。そういうのはちゃんとした歴史が合ってこそ価値が有るものだと思うし」



「・・・それは一理あるかもしれないけど、この国はどう見ても一朝一夜で出来たような国じゃないし、あんたの年で指導者になれるところからして、あんたの家もそれなりの歴史は有るんじゃない?」



 レイナのそんな指摘に、ユウキは内心で自分の迂闊さに舌打ちした。


 そう、ユウキはあまり自覚していなかったし、アカネはそういう点を気にしなかったからこそ今まで気づかなかったが、レイナのような見る人が見れば、この国はどう見たところで一朝一夜で作られたような国でないことは明白だったのだ。


 まあ、実際、ゲームのプレイ時間を国の歴史とするならばこの国は一朝一夜に作られたという訳ではないのだが、それでもたかだか5年ちょっとで出来た国というには明らかに無理があった。



(余計なこと口走っちゃったな。さて、どうしようか?)



 無理矢理話題を切り上げることも出来る。


 しかし、それでは確実にレイナの不信感を買ってしまうだろう。


 まあ、だからどうということでもないかもしれないが、それでも不信感から変な行動に移されても困るということも確かだ。


 とは言え、前述したように真実を言っても信じられないし、場合によっては不都合なことになる可能性も考えられるため、ユウキは咄嗟に思い付いた無難な解答を口にする事にした。



「・・・意外だと思うけど、この国は出来てから日が浅くてね。俺の家の歴史もそれほどというものでもないんだ」



「そうなの?」



「ああ、ざっと20年くらいかな」



 地球世界の人間が聞いたら『そんな短期間でこれだけの国が出来るわけないだろう!』と即座に突っ込みを入れるであろう嘘であったが、アウローラ王国とのあまりの文明格差故か、レイナはそれを嘘だと断ずることが出来なかった。



「元々、俺の両親が建国した国なんだけどね。それが数年前、両親が亡くなったことで俺に引き継がれたんだ」



「・・・そう」



 自分と同じような境遇であることに何か思うところがあったのか、彼女はその事についてそれ以上追求しては来なかった。


 もっとも、両親が亡くなったというのはユウキの嘘であったので、バレたら激怒しただろうが。



「まあ、両親とはあまり縁がなかったから、亡くなったと言われてもピンと来なかったんだけどね。それより、これから夕飯なんだけど、何か食べられないものはある?」



「食べられないもの?食べられないものなんて普通、食事には出さないでしょ」



「あっ、ごめん。嫌いな食べ物は有るかって聞いたつもりだったんだ」



「それなら特にないわ」



「そっか。じゃあ、出来たら呼びに行くから、あの部屋で待ってて」



 ユウキはそう言って空き部屋となっている幾つかの部屋の内の1つを指差す。



「分かった。取り敢えず、部屋でゆっくり休んでいるわ。今日はここに来てから色々見せられてちょっと疲れたから」



「ああ。じゃあ、また後で」



 2人はそう言って別れ、それぞれの部屋へと入っていった。
















◇同日 夜 アウローラ王国南東部 国境


 アウローラ王国南東部の国境。


 そこはマナヤ国とクワイック同盟最大の国家──グレートランド皇国の2つの国の軍事境界線と接する地域であり、北側にグレートランド、南側にマナヤと、アウローラ王国にとっては2つの国家と国境を接する領域でもある。


 軍事境界線というだけあり、平時では軍隊の配備は最低限にされているこの領域だったが、その“暗黙のルール”を破る形でマナヤ軍がアウローラ王国の領土内へと軍を進めていた。



「良いか!今回の進撃は我等の新たな友胞となるアウローラ王国をクワイックの者共から保護するために行うことだ。当然、乱暴狼藉は許さず、行った者は容赦なく首を跳ねられることを覚悟せよ!」



 先頭に立ってマナヤ軍を指揮する30代前半の髭面の将軍──ヨルダン・ヒートは配下の兵士達にそう檄を飛ばす。


 マナヤ軍が誇る武将の1人として数えられるその男は、今回のアウローラ王国進駐軍の指揮官として抜擢され、2万の軍勢を率いて一路アウローラ王国の王都に向かって進撃していた。



(ふんっ。事前の情報通り、アウローラ王国軍は国境付近に展開していないか)



 彼は事前に策士として知られるマナヤ国の第二王子──コスラ・セン・コースターから自分達を引き入れる予定のパッシェ公爵が国境警備隊を含めたアウローラ王国軍をこの国境線から引かせる事を聞かされていた。


 しかし、武人であるヨルダンからしてみれば、会ったこともない人間、それも国を裏切ると言ってのける敵国貴族の言葉など欠片も信用出来ず、兵士を引かせていると見せ掛けて伏兵を潜ませている可能性すら想定していたのだ。


 だが、アウローラ王国の領土に十キロ以上踏み込んでも何も起きなかった為、当初は疑っていたヨルダンも国境付近のアウローラ王国軍が引いたのは、どうやら本当らしいと判断していた。



(このまま順調に進軍すれば半月後には王都だが、状況が状況である以上、不測の事態も考慮せんとな)



 今回の進駐計画はパッシェ公爵が王都までの道程を事前に開けておき、そこを自分達が進軍するといった内容になっている。


 だが、クーデターが起きて以降、ユリシアを女王として擁立したパッシェ公爵の勢力につかない貴族も存在していたし、そういった貴族は自分の領土で私兵と共に立て籠っている状況だ。


 そして、これだけわざとらしく自分達が進軍する道を開けるとなれば、自分達がアウローラ王国内に進撃してきた事に気づく者も居ることだろう。


 まあ、その頃には手遅れになっている可能性が高いが、そうなる前に何かが起きる可能性も無いわけではない。


 ヨルダンはそう考えていたが、次の瞬間、彼の懸念は正しく、そして、想定よりも早くやって来たことを思い知らされることとなる。




ドッゴオオォォオン




「!? 何事だ!!」



「魔法矢の一斉攻撃のようです!右翼の部隊の一部が吹き飛ばされました!!」



「なにぃ!」



 魔法矢の攻撃。


 そう伝えてきた部下の言葉に、ヨルダンは『やはり裏切り貴族は信用ならん』と思いつつも臨戦態勢を取らせようとする。


 突然の奇襲にも関わらず、すぐさま態勢を建て直そうとするその姿は正しく名将の名に相応しいものであったが、その後、別の部下が持ってきた情報には流石の彼も動揺することとなった。



「ヨルダン様!魔法矢を放ってきたと思われる敵の軍団を確認しました。ですが・・・」



「なんだ?報告は正確にしろ!」



「はっ!相手はアウローラ王国軍の旗を掲げてはいません!!あれは・・・グレートランド皇国のフィーネ・フォン・ベルリッツ姫将軍配下の軍団です!!」

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― 新着の感想 ―
[一言] 歴史って、日本の歴史をそのまま引き継げば良いじゃね。 主人公にも自然と備わってる歴史感だし、無理に作らなくても楽だし。
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