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ゲームの国家と共に異世界転生  作者: 大陽
アウローラ王国編
6/19

レイナとの語らい

◇天央歴1027年 2月10日 深夜 アルメリア大陸西部 アウローラ王国


 アウローラ王国西部に存在するとある荒野。


 タリナ草原を抜けたユウキ達は明日の海岸での友軍との合流と本国への帰還を備えるためにここで一夜を明かすことを決め、見張りの者を除き、ある者はテントの中で、ある者は車内でそれぞれ眠りについている。


 だが、夕方にぐっすりと眠ってしまったことで目が冴えてしまったのか、レイナは眠ることが出来ずに体育座りをしながら星空を見上げていた。



「・・・」



 無言のまま、星空を眺め続けるレイナ。


 今日は満天の星空で、見る人によっては感動ものな光景であったが、今のレイナにはそういった感情は一切沸き上がってきていなかった。



(はぁ。これからどうしようかしら?)



 何処かで静かに生きていく事を決め、取り敢えずはユウキ達についていこうと決めたレイナであったが、その先の事はまるで考えておらず、いっそのことこのままこの国を出ていくらしいユウキ達についていこうかとすら思っていた。


 まあ、自分も女なので体を売ることになるのは御免だが、そうでない限りはついていくのも悪くはない。


 初対面での印象は最悪だったが、一眠りして思考力がある程度回復した今ではそう思えた。



「・・・」



 しかし、それでも心の何処かで引っ掛かるのは妹のこと。


 あんな裏切り方をされたレイナだったが、それでも裏切った際の妹の泣きそうな笑顔が過り、どうしても嫌いになりきることが出来なかったのだ。



「眠れないのか?」



 そんな風に思い悩むレイナに声を掛けてきたのは、同じく眠れずにいたユウキだった。


 その手にはタオルケットがあり、ユウキはそれを彼女へと差し出す。



「ほら、これ。今は冬の夜だぞ。そんな姿で居られたら、風邪を引く」



「・・・ありがと」



 そう礼を言いながら、ユウキからタオルケットを受け取るレイナ。


 最悪の出会いではあったが、気遣いを無下にするほど嫌ってはいない。


 そして、自分から受け取ったタオルケットを肩へと掛けたのを見たユウキは彼女の隣へと座り、星空を眺め始める。



「今日は雲一つ無いから星が綺麗に見えるな。明日は良いことがありそうだ」



「・・・ねぇ」



「ん?」



「今さらなんだけど、あんた達は何処の国の人間なの?」



「それは明日にでも分かるよ。なにしろ、明日行くのは俺達の国だから」



「そう。まあ、別にあんた達が何処の国の出身だろうと、それこそ軍だろうと責めるつもりはないわ。・・・ちょっと前なら、別だったでしょうけど」



「なるほど」



 その言葉でユウキは彼女がアカネが言っていたように、この国の女王である事を半ば確信する。


 だが、それについて詮索をしようとはユウキも思わない。


 まだ本当かどうかは確定していないし、本当だったとしてもそれを口に出して良いことがあるという訳でもないのだから。



「でも、これだけは答えて。あんた達の国は私の知っている国?」



「知らないと思うよ。少なくとも、この大陸にある国じゃないから」


 

 そう、この時点でユウキはレイナはおろか、これまで自分の隊や他の偵察隊が接触してきたアウローラ王国人が自分達の国の名前を絶対に知らないと確信できていた。


 なぜ、他の偵察隊の事まで確信できるのかと言えば、その理由は簡単。


 国の名前がまだ無いからだ。


 まだ転生する前、ゲーム内では国の名前を変えられるオプションが有ったが、ユウキはそれを行わなかった為、国の名前は自動設定で日本となっていた。


 だが、その自動設定はこの世界に来てからは働かなかったらしく、国の名前は無いままとなっていたのだ。


 そして、それに気づいたユウキは良い名前を考えようとしたのだが、なかなか良い名前が思い浮かばずに2ヶ月間放置されていた。


 そういうわけで、レイナがユウキ達の国の名前を知っている可能性は、それこそレイナが未来予知能力でも持っていない限り、存在しなかったのだ。



「へぇ。じゃあ、もしかして大陸の外から来たの?」



「・・・まあ、ね」



 嘘は言っていない。


 ユウキ達の国はこのアウローラ王国のすぐ近くに存在するが、海を隔てているということは事実だったからだ。



「大陸の外、か。本当にそんなものが存在したのね」



 レイナはそう言うが、それも無理はないだろう。


 この世界に来てから1週間後に打ち上げた人工衛星によって映された写真を見るに、この大陸と他の大陸は一番近いものでも1万キロ程離れており、ぶっちゃけこの大陸を人工衛星無しで見つけたとなれば、それは新大陸を発見したコロンブス以上の偉業となることは明らかだった。


 だが、それは逆に言えばこの大陸と他の大陸が接触する可能性はコロンブスが新大陸を見つける以上に低いということでもあり、コロンブスが新大陸を見つけたのが西暦で数えても1500年近く経ってからの事だと考えれば、未だこの大陸と他の大陸の接触がないのも無理は無かったのだ。


 そして、長い期間接触をしていないと存在しないものだと思われるのは歴史が証明しており、この大陸でも今まで他の大陸が存在して人が住んでいると唱える学者は居たものの、それを信じる者は殆ど居なかったのが現状だった。



「あの馬の無い馬車みたいなものも、もしかしてそこから運んできたの?」



「そうだよ」



「やっぱり。どうりで見たことがない物ばかり持っていると思った」



 自動車もそうだが、彼女にとってはユウキ達の持つ銃や無線機、戦闘糧食や飯盒、ガスバーナーなども初めて見るものばかりだった。


 まあ、ガスバーナーに関しては魔法で同じような事が出来たりはするが、それを道具でやるところを見るのは初めてだったのだ。



「ということは私たちが向かっているのは海の先か。船で行くの?」



「いや、空を飛ぶ乗り物があってね。それで行く予定になっているよ」



「空を飛ぶ乗り物まで有るの?」



「まあな。ああ、そう言えば、この大陸にもワイバーンっていう空飛ぶ竜が居るって聞いてるけど、一度も見たことはないな」



「あんなもの、滅多に見られないわよ。そもそも生息数が少ないし。まあ、マナヤとかキイラには一杯居るみたいだけど」



「キイラ?」



「クワイック同盟に加盟している国の1つよ。あの国にはワイバーンの巣窟が有ってね。そこに一杯ワイバーンが住んでるって聞いたことがあるわ」



「へぇ」



 ユウキはその話に興味を持った。


 この2ヶ月間の情報収集でマナヤはアルメリア大陸南方一帯を支配するこの大陸で一番大きい国で、クワイック同盟はそんなマナヤに対抗するために大陸北部の国々が団結した結果、出来た勢力だと聞いている。


 更に大陸東部一帯を支配する帝国という国が存在することも確認されており、それぞれの勢力には流石に偵察部隊こそ送り込まれてはいないものの、ユウキ達の国の中で白人っぽい容姿をした諜報員を潜ませていたのだが、国土面積が広いとはいえ、一国に纏まっているマナヤや帝国は兎も角、クワイック同盟の方は国の数が多すぎて全ての国に諜報員を送り込めているわけではなかった。


 それ故に今、レイナから情報は貴重で、ユウキは本国に帰った後に情報部の人間にキイラという国に情報を送り込むように命じようと思いつつ、会話を進める。



「まあ、とは言っても、戦力としての活用は上手くいっていないと聞いてるけどね。何故かは知らないけど」



「そっか。貴重な情報をありがとう」



「ふふっ。どういたしまして。・・・なんだか、話しているうちに眠くなってきちゃったわね。そろそろ天幕の方に戻るわ」



「ああ、おやすみ。俺はもうちょっと星を見てから寝るよ」



「そう。おやすみなさい。・・・風邪、引かないようにね」



 レイナはそう言い残し、天幕の方へと戻っていく。


 そして、それを見届けたユウキは再び夜空を見上げながらこう呟いた。



「・・・決まりだな、これは」



 ユウキはレイナが女王である事を今度こそ完全に確信した。


 先程、レイナが喋った情報は平民はおろか、貴族ですらなかなか入手できないであろう内容であったからだ。



「これで益々手放せなくなった。絶対に彼女を本国に連れていかないとな」



 そこから先は軟禁することになるだろう。


 会話をしてみて分かったが、レイナは魔法が出来ることが高く評価されるこの大陸において魔法が下手でありながら女王をやっていただけあって相応に賢く、彼女を傀儡にしてアウローラ王国を統治するのは非常に危険だ。


 となると、レイナとアウローラ王国を完全に分断した方が良いとユウキは考えていた。



「・・・許してくれよ」



 ユウキは彼女の自由を縛ってしまうことに、小さくそう謝罪した。

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