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~色鬼の右腕・蒼の章~

島国・鬼臥島<おにがしま>


瀬戸内に浮かぶ小さな島の端

京で下賤な浪士が血の匂いを撒き散らしながら跳梁跋扈する時代にも関わらず

遠く離れたこの島では潮風と島の名物である海産物の干し物の香りが鼻をつく


島の少年、進は島の山にある鉄と汗の匂いが立ち込める鍛錬場にいた


スーーッ


まるで高度な伽羅倶梨<からくり>のように精密な動きで少年が力石を持ち上げる

「ふー」

少年がそっと力石を下ろす

「やってるなー 進」

鍛錬場の常連の男が進に話しかける

「まだまだです」

常連の男の手にはうっすらと水かきが備わっていた


妖人

東の端の国:陽元では古くから人が動物の特徴を持って生まれることがしばしばあり

彼らは妖人と呼ばれ純粋な人の特徴とは別にそれぞれ特異な能力を持ち合わせていた

常連の男は素潜りで四半刻も水中にいられる特技を能力を持ち合わせている


進は布切れで力石の持ち手を拭う

「妖人でもない身で200斤持ち上げるなんざバケモンだよ」

少年は息を整えると再び力石へと向き直る

その瞬間

バタリッ

進が倒れる

「た 倒れた!?」

「あー お前らは進を見るの初めてか

こいつ失神するまで体追い込む癖があるんだよなぁ」

「あ あほだ」

「まぁ見ろよ こいつ

やりきった顔してるだろ」

常連の男は進を道場の隅に座らせる

だがつーっと進の顔から

「鼻血出てんじゃねぇか!?」

「まぁ こういうこともある」

「ったく とんだやつだな」


ドガッ

乱暴に木戸を蹴り飛ばした音が響き渡る


「誰だ?」

常連の男が話しかける


「我が名は桃刃の甚蔵 道場破りに参った」

戸を蹴破った男は言い終わるか終わらないかの瞬時に刀を抜き放つ

「っ!!」

常連の男の首に切っ先が迫る

鍛錬場の一同が唖然としている中、進の姿が消える

刀が一寸まで迫ったところで桃刃の体が鍛錬場の土壁を突き抜いて吹き飛んだ

「ぐがっ!! っの」

桃刃は受け身を取るとすぐさま刀を構え直す

「刃傷沙汰は外でいいだろ」

進は拳を構える

「貴様、何者だ」

「鬼臥島の進」

進が拳を指2つ分下げると同時に間合いを詰める

「名ではないがまぁいい 我が一神流の刃に敵うものか」

進が間合いに入った瞬間に桃刃が刀を横薙ぎに振り払う

刀は空を斬り 進は地面に張り付くような姿勢から足払いをかける

桃刃は片足を取られ体勢を崩しながらも真下の進を左腕で抜いた脇差しで突く

「そっちは短いぞ」

進は脇差しの突きを紙一重に躱すと地に付いた腕から連動した動きでつま先を桃刃の顎にめり込ませる

「ぐがっ おのれ!!」

桃刃はよろけて倒れながら刀を振り回す

進は刀の届かない範囲に飛び下がる

「くだらない刀遊びは終わりだ」

進は拳を構えたままにらみつける

桃刃は一瞬気の抜けた顔をしたあと

「フハハハ!!この俺の剣技が遊び!

遊びか」

「・・・・」

進は拳を握り直す

―おかしい この男の余裕はなんだ

桃刃が脇差しをしまうと懐に手を入れる

「何をする気だ」

進は構えを拳から開手に変える

―何だ 何が出てくる



「小僧 今日が貴様の命日だ」

パァッ

乾いた音が岬まで響き渡る

進の懐から血が流れ出す

「ぐっ」

進が膝から崩れ落ちる

「それは」

桃刃の構えていたのは最新式の小型銃だ

ー馬鹿な あんな小型の銃が

進の脳裏に浮かぶのは鬼天一拳流の修行で用いた大型の火縄銃

銃口を見てから躱せるほどの取り回しの悪い大型武器だ

「これだから田舎者は困る」

「なぜ あんたみたいな奴がそんなものを」

進は霞む視界に桃刃の構える小型拳銃の銃口が真っ直ぐに向いているのを見た

「そりゃ 俺は天下の志士なんだぜ

いずれこの国は俺たち志士の物になる」

「く・・っ」

進の視界が痛みでぼやけて定まらなくなる

「惨めだな 小僧

さっさとくたばれ」

桃刃は銃口を進の頭に向けると引き金を絞り始める

「そうはいかぬな」

どこからか凛々しい声が響き渡る

「誰だ!?」

桃刃が振り向くとそこには蒼い炎を纏った鬼が立っていた

「鬼  だと!!」

桃刃が銃口を向けるより先に

蒼い炎を纏った鬼が弓を穿つ

ゴゴゴッッ!!!!!

巨大な土砂崩れような量の炎が矢とともに桃刃に迫る

「ちぃっ!!」

桃刃は間一髪で炎の中心を躱し近くにあった崖から海へと飛び降りる

「逃したか が 間に合ったようだな」

蒼い炎を纏った鬼は炎を鎮めると進のそばに駆け寄る

「―これが運命というやつか」

鬼は懐から角の色と同じ深い蒼に輝く石を取り出すと進の傷口に近づけた

進の傷口から蒼い炎が吹き出しそれと同時に傷口が消えていく

「やはりお主は蒼の適合者

炎の運命を辿るもの」


鬼鳴館<きめいかん> 頭の間

蒼鬼が床についている進を見つめる

進は寝息を立てながら寝返りをうつ

「見えておるぞ」

蒼鬼が入り口の方に向き直る

「さすが 主」

犬の特徴をもった妖人である 狛

「でも鬼石を...

いいんですか」

全身を黒い羽毛に覆い天狗の仮面をかぶった少女 美羽

「いいんじゃない 色鬼の適合者なんて

そう見つかるもんじゃないし

藍好みのいい男だしね?」

猿の耳を持った妖人 左近

「なっ 私はそ そんな目でこの少年を見たことは

見たことは なかったのだぞ」

「ふーん ”なかった”のね」

左近が藍をじーっと見つめる

「ごほんっ!

それより例の人斬りを逃してしまったのは私の失態だ

進の意識が戻り次第奴を追跡する」

「ふーん その子を右腕にするつもり?」

「うむ それが一番良いが

そうでなくとも事の経緯を説明すべきであろう」

「うーん その間に逃げちゃってるかもだし」

「人斬り!!!」

進が布団を跳ね上げて起き上がる

「目が覚めたか」

「ってあなたは...

あの時助けてくれた」

「蒼鬼の藍と言う」

「どうも有難く」

「礼はよい 私達の到着が早ければお主は腹に穴を空けられることもなかったのだからな」

「って腹の傷が治ってる!?」

「うむ その力で直しておいた」

藍は進の首にかけてある青い石を指差す

「そもそも俺に力が足りなかったせいですし

もっと精進しないと」

「ふふっ そうか

進よ

私の右腕<おとこ>にならぬか?」

「それは...」

「いや うむ そうだな

年も離れていることだし」

「いや そこはどうでもいいです

俺はもっと強くならなきゃいけない

精進が足りない 力が

あなたに釣り合う男だとは」

藍(力をただひたすらに純粋に求めるか どこか危ういな)

「それなら安心しろ

お主は鬼石の力でさらに強くなれる

それと鬼の右腕というのは代々幕府公認の役でな

琉球と蝦夷を除くすべての修練所を使い放題だ」

「うぅ」

「だが厳しいぞ

命の危険が伴う

本当に」

「ここに居てもどこにいても人斬りがやってくれば同じ

あいつは 人斬りは正義の笠を被ったただの快楽殺人者だ

あんな奴らがまた来たら

島のみんなが安心して修練できなくなる もちろん 俺も」

「良かろう そしてそれは正しい

あやつらは全国各地に天誅と称して妖人を斬り殺す人斬りを送り込んでいる

名を威神司士

金銭欲と名誉欲に溺れた浪人を士とは呼びたくはないが

府がそう呼称している

奴らはヘルメリア帝国 ここよりずっと西にある国のある過激派と結託し

この国を神の国に作り変えるなどと宣っている」

「まぁ 主がいればお前の出番なんてないけどな ふんっ」

「今回の人斬り討滅にお主を駆り出す気はない

静養すると」

ドォンッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!

ズバァァン!

砲撃音が遠くから響き渡る

「今のは?」

「戦艦が島に砲撃した」

「戦艦!?

まさかあの人斬りが」

「幕府の試作品を奪ったか

だがどうやって」

「合ってるみたい

甲板にあの人斬りがいる」

「っ!!!」

進が拳を握る

それと同時に目から蒼い炎が溢れ出す

「あいつと戦わせてください」

「力なき者は戰場には送れぬ」

「俺はこの力を使いこなせる」

進が鬼石を握ると全身から蒼い炎が吹き出す

「力なき者にはな

お主には力がある

とはいえお主1人では戦艦に乗り込めまい」

「お待ち下さい 私1人であんな輩は舟ごと沈めて」

「ならぬ 船員は幕府の者の上操られている

進と私で制圧する」

「はっ」

「狛 美羽 左近は島の者の避難に

進 お主は私と来る

よいな」

「「はい!」」

狛 美羽 左近が走り部屋を出ていく

「さて 進

私達も行くぞ」

「え そっちは窓ですよ?」

「問題あるまい

時間がない

その手甲と戦装束を付け

私の体に捕まれ」

「え は はぁ」

進が藍の体を向かい合って抱き合うように掴む

「行くぞ」

「ほへ?」

ダッ

進と藍が館の窓から飛び出す

「落ちっ

て飛んだ!!!!」

「案外やってみれば出来るものだな」

「え ぶっつけ本番!?」

「さてすぐに着く 安心せよ」

ドゴォォォ!!!!

進と藍は砲弾のような速度で戦艦へと向かう

「さすがは主 

空まで飛べるとは」

「張り切ってるわねぇ

よっぽどあの進って子がタイプだったのね」

「むっつり」

「それはずっとてんぐ面のあんたもでしょ」

ダダダッ!!!

戦艦に近づいた進と藍を銃弾の雨が迎える

「進はこのまま突っ込め

私がガトリングを引き付ける」

「行ってきます!」

藍が進を投げる

藍は全く別方向へと飛ぶ

ガガガッ!!!

手甲で銃弾を受け止めながら進が戦艦へと落下し

ギギギギギッ!!!

手甲と甲板の金属部分が火花をちらしながら進が着地する

「来たぜ 人斬り

さぁ あんたと実戦修練だ」

「あの鬼のおかげで命拾いでもしたか

また死にに来るとはご苦労なことだなぁ!!!」

人斬り・桃刃が飛びかかる

ガッ!

ズガッ!

と人斬り・桃刃が太刀を振るう

ドドドッ!

進が太刀を間一髪で躱し人斬り・桃刃の胴に数発拳を叩き込む

「このっ!!」

人斬り・桃刃が太刀を進の頭めがけて突き抜く

「見切った」

進が刃を掴む

「なっ」

「熊削ぎ」

進の拳が人斬り・桃刃の顔面にめり込む

「ならば銃を」

「はっ!」

進が突き出した拳に足から再度衝撃を伝える

「ぶぉおっ」

人斬り・桃刃の体が真後ろにすっ飛ぶ

ドンッ!

人斬り・桃刃の銃弾が空を切る

人斬り・桃刃が飛び下がる

「銃を見切るか 化け物めいや鬼か

ならば鬼退治と行くか!!!」

「あいにく 俺は鬼見習いだけどな」

「忌毘団子!」

人斬り桃刃が両手を広げ叫ぶ

「我が隸達よ

さぁ かの者を滅ぼせ 潰せ!」

戦艦の甲板に生気を失った水夫達が出てくる

水夫達はぞろぞろと進へと進んでいく

進(この戦艦の乗員を操ったのか)

「だが何人いようと

全員倒せば」

ガッ!!

水夫の1人が後ろから進の足を掴む

それと同時に雪崩かかるように水夫達が進の体を押さえつける

「これで終幕だ」

人斬り・桃刃が銃を取り出し進の頭に狙いをつける

「うぉぉぉぉぉおおおおおっ!!!!」

進が水夫たちごと体を持ち上げる

「怪力の化け物め!」

ダァァンッ!!!

人斬り・桃刃が銃弾を放つ

「鬼の力 借りますよ」

その瞬間 鬼石が光輝き

ゴォォォォォッ!!!!!

進の全身を蒼い炎が包み

銃弾が炎の熱気で蒸発する

水夫達は炎に包まれると次々と気を失っていく

「良かった みんな死んでない」

「なんだ その力は

やめろ ひぃっ

俺は武士だぞ こんなことをして」

「あんたのとの修練は終わりだ」

ドォォォォッ ゴォウッ!

進が人斬り・桃刃の体を殴り飛ばす

蒼い炎の軌跡が戦艦の甲板を超えて海へと降り注いだ


鬼鳴館<きめいかん> 頭の間

「本当によいのか 進

「俺は蒼鬼の右腕になって

この力でもっと強くなる」

「よかろう お主は今から蒼鬼の右腕 進だ」


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