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207話


「ルイさん、こいつら結構良い銃を持ってたぜ!」


 賊の奇襲を退けた、その翌朝。


 ルイたちは安全を確かめた後、賊の遺体の検分に向かった。


「見たことがない銃がある。これはなんだ?」

「これは……へぇ、珍しい。エイリス銃の後期型ですね」

「後期型ってことは、性能は良いのか?」

「……悪くはない、ですかね?」


 賊の遺体はまだ柔らかく、皮膚を青白くして息絶えていた。


 逃げ出そうとしたのか、百メートル近く這った遺体もあった。


「おお、手榴弾! 新品だ!」

「危ないので触らないでください。正規品とは限りません、暴発する可能性が」

「げっ」


 昨日トウリが『残弾を気にしなくていい』といったのは、これが理由だ。


 敵の武装を鹵獲すれば、弾薬の補充が出来るのだ。


「お、この小銃は懐かしいな。中期型のサバト小銃じゃのう……」

「えっ、サバト小銃があるのですか!?」


 ジェンが何気なく、大きめの古びた銃を拾い上げると、トウリがキラリと目を輝かせた。


 ……彼女のそんな顔を見るのは、初めてだった。


「おお……確かにサバト銃です。それも、サバト革命時に使われた中期型……」

「ワシは一度、西部戦線で鹵獲したんだっけ。結局使わずじまいだったが」

「……」


 小柄なトウリには、大型のサバト銃は相性が悪いだろう。


 そう思ったが、トウリは物欲しそうにサバト銃を見つめている。


「あー、お前が使うか?」

「よろしければ、是非!」


 ルイがそう提案すると、トウリは食い気味に頷いた。


 誰がどの銃を使おうがかまわない。


 どうせ従軍経験者である彼女には、好きな銃を選ばせるつもりだった。


「なんだ、サバト銃が良いんか嬢ちゃん。オースティン銃に比べ、反動が大きく狙いも逸れやすいんじゃぞ」

「分かっていませんね、ジェンさん。反動が大きいだけで、精度そのものはオースティン銃とそんなに変わらないんですよ」

「……はあ」

「それより、射程が長いのが素晴らしい。特に中期型は、大きいですが射程も最長なのです」


 サバト銃について語るトウリは、やや早口だった。よほど、愛着があるらしい。


 ……意外な一面を見た、とルイは少し驚いた。


「また、この銃を持てるなんて……。不思議な縁を感じますね」

「トウリ嬢ちゃん、どうしてサバト銃が好きなんだ? まさか元サバト兵……?」

「えー、それは、アレです。昔は規則で、衛生兵は銃を持てませんでしたから。サバト銃を鹵獲した時しか、使えなかったんですよ」

「ああ、なるほど」


 そう答えるトウリの目は、やや泳いでいた。


 嘘をついている気がしたが、深く突っ込まないでおいた。


「それで、弾薬の量は? 昨日使った分は取り返せたのか」

「むしろ、余裕が出ましたね。……作戦期間を七日間に延長できそうです」

「ふーむ」


 銃や弾薬の在庫は、すなわち『戦闘可能時間』である。


 もちろん、食料や飲料水なども兼ね合いもあるが……。


「ちょっと多めに食料を持っていけないか、掛け合ってくる」

「お願いします」


 賊の銃や弾を鹵獲できたことで、作戦期間にちょっと余裕が生まれた。


「賊の持ってた金品も、いただいてしまいましょう。食料代になるかと」

「……そうだな」


 なんだかんだあったが、賊の襲撃はルイたちにとってプラスに働いた。


 武器弾薬に加え、金品も奪うことが出来た。


 そして何より、


「賊ってのもたいしたことないな!」

「意外に勝てるじゃねぇか、俺たち!」


 一人の被害も出さず、賊の襲撃に快勝したこと。


 それはドクポリ解放戦線のメンバーにとって、これ以上ない自信となった。











「では、今度こそ出発しましょう」


 かくしてルイたちドクポリ解放戦線は、二度目の侵攻を開始した。


 今度はしっかり準備を整え、入念に計画を練っての侵攻だ。


 最初の行軍の時とは、気合も士気も段違いに高かった。


「トウリとジェンさんに、それぞれ部隊長を頼む」

「了解じゃ」

「分かりました」


 ルイは部隊を二つに分け、トウリとジェンに任せることとした。


 トウリはまだ新入りだが、貴重な従軍経験者。ルイは彼女を、よく信用していた。


 問題は他のメンバーが、新入りであるトウリの指揮を受け入れてくれるかだったが……。


「トウリさんなら信用できる」

「命を預けるぜ隊長」


 その人事を発表すると、思ったより好意的に受け入れられた。


 少なくとも、反発している人間は見当たらなかった。


「驚いたな。いつの間にみんなと、親しくなったんだ?」

「自分もこの一週間、のんびりしていたわけではないのですよルイ兄さん」


 聞くところによると。


 実はトウリは、ルイが物資を集めていた日中、ずっと兵士たちと訓練をしていたのだそうだ。


 戦場での走り方や、体の隠し方、手榴弾への対処や銃の狙い方。


 ジェンさんと共に教官役として、メンバー全員に『生き残るための技術』を伝え続けていたのだという。


「トウリさんが衛生兵だったなんて信じられん。歩兵やってたという方が納得できるわい」

「まぁ……確かに歩兵をやっていた時期もありました。メインは衛生兵というだけで」

「そうじゃろ、そうじゃろ」


 トウリは筋トレの際も、涼しい顔で一番きついメニューをこなしてしまったそうだ。


 体力面は、若い男性の多い解放戦線のメンバーでもトップなのだという。


「凄い体力ですよ、彼女」

「自分なんてまだまだです」


 その話を聞いて、ルイはまた驚いた。


 トウリの小柄な体躯のどこに、そんな膂力があったのか。


 というか、


「トウリは医療技術もすごいんだろ」

「うん。惚れ惚れするほど、処置が上手いわ」

「あはは……」


 医療知識が深く、歩兵技術も高く、参謀としての技能まである。


 ただの従軍経験者にしては、技能がマルチすぎる。


「何者なんだ、トウリは」

「ふ、普通の衛生兵ですよ?」

「それにしては、何か……」


 トウリは謙遜するが、何か隠していそうな雰囲気もある。


 もしかして、かなり名のある軍人じゃないのかとルイは疑い始めた。


「そんなことより、索敵と偵察です。ほら、警戒しながら進みますよルイ兄さん」

「あ、ああ」


 だが、トウリは過去を語ろうとしない。


 隠したいのであれば、詮索する必要はない。


 ルイは少しばかり怪訝に思いつつも、それ以上問い詰めなかった。





 かくして、ルイたちドクポリ解放戦線による本格的な進撃が始まった。


 要塞化した農村ドクポリの、奪還作戦。


 周囲に遮蔽物はないため、奇襲は困難。


 そのためルイはトウリの提案で、塹壕戦を選択した。


「……うーん」

「どうした、トウリ」


 その道中、敵の襲撃はなかった。


 前の敗戦が響いているのか、賊は慎重になっているようだ。


 要塞化した拠点で、ルイたちの進軍を待ち構える構えを見せていた。


「いえ。もしかしたらですけど……」

「何だ、言ってみろ」

「敵の動きが、妙に秩序だってるんですよ」


 実はトウリは勝利のあと、賊による報復があると予想していた。


 感情的に動く彼らが、メンツをつぶされて黙っているわけがない。


 進軍中に奇襲を仕掛けてくるだろうと、思っていたのである。


「昨日の奇襲も、足並みをそろえて攻めてきましたね」

「……そうだな」

「負けを悟ったら一斉に退き、今は塹壕に籠って我々を待ち構えているのでしょう?」

「ああ、そうらしいな」

「まるで指揮官のいる軍人みたいな動きです」


 しかし賊は予想に反し、冷静な対応をしていた。


 ルイ達の進軍を受け、防御を固め待っているのである。


「つまり、どういう意味だ」

「あんまり考えたくない話ですが」


 その対応のシビアさに、トウリは少しだけ顔をしかめて。


「敵がどこかの『正規軍』である可能性があります」

「何だと?」


 ため息交じりに、そう語った。


「は? どっかの国の軍が、俺たちの村を襲ったっていうのかよ!」

「はい。もしそうなら、国際問題になりますね」


 ドクポリを占拠しているのが、賊ではなく正規軍の可能性がある。


 その可能性を聞いて、ルイは憤慨した。


「どこの連中だ、くそったれ!」

「分かりません。……その可能性もある、というだけです」

「それで。敵が正規軍だったら、俺たちは勝てるのか」

「勝てません。その場合は撤退をお願いします」


 世界大戦の怨恨は、まだ各地に残っている。


 アルノマによる無条件講和に、納得していない勢力はまだ多い。


 そんなどこぞの国の一部が、賊の振りをした略奪に及んだ可能性がある。


「……じゃあ、どうするんだ」

「証拠があれば、オースティンも軍を動かします。防衛のためですから、もう躊躇しないでしょう」


 だが、頭に血が上っているルイをまっすぐ見て。


 トウリは、釘を刺すように忠告した。


「敵が正規軍なら即時撤退しかありません、ルイ兄さん。オースティン軍に任せるんです」

「あ、ああ」


 ……だが、不思議なことに。


 ルイにはトウリが、どこか『確信』があって話しているような、そんな印象を受けた。




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― 新着の感想 ―
トウリちゃんが一人旅をしているっていうのも、怪しいところですね… ちょうど賊がいるところに現れるとは考えにくいです。 でも、一人で調査とも考えにくいですし…。 ルイさんがいたということですし、故郷の…
国際問題なら尚更見捨てられる可能性 こっちも正規兵に盗賊をするよう持ちかけるしか
敵兵にトウリを知ってる奴がいて、不敵な笑みを浮かべながら攻めてくる姿にトラウマが蘇って戦どころじゃなくなるのか?
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