199話
クルーリィ少佐がベルン・ヴァロウから学んだ勝利の秘訣とは、『追撃』の機を逃さないことでした。
シルフが一撃で決着する奇襲型の参謀であるなら、ベルンは『相手の行動を読んで罠に嵌める』ことが得意な参謀です。
相手の攻めをいなして壊走させ、追撃する。それがベルンの戦術の十八番でした。
だから、ベルンの戦いの勝ちパターンは『追撃戦』ばかりです。
敵の退路を分断し、小勢ごとに各個撃破して被害を積み重ねていく。
追撃戦の際、ベルンは逃げ惑うアリを踏み潰すように、楽しく陣頭指揮をとっていたのだとか。
だからこそ、敵が目の前で壊走し撤退していく様子を見て、クルーリィは『追撃』を決断しました。
オースティンにとって久しぶりの勝ち戦。逃げ惑う連合兵と、無傷のオースティン軍。
この状況を見て、勝利に浮かれたクルーリィ少佐は冷静な判断ができなかったのです。
おそらくベルンの残した遺策がうまくいったのだ。
ここから先は、追撃して相手を限界まで追い詰めるのみ。
過去の成功体験にとらわれたクルーリィ少佐は、戦力差を考えずにそう考えてしまったのです。
────今までオースティン軍の参謀本部が、ベルン・ヴァロウのワンマン運営だったことの弊害がここで出てしまいました。
「……トウリ、貴様の勝利条件は分かるか」
「オースティン軍を退かせること、です」
「そうだ」
シルフは冷めた口調で、この追撃をそう評しました。
それは失望と、諦観と、侮蔑が入り混じった表情。
「この追撃戦に成功は万に一つもない。連合側の後詰が、三日以内に到着するからな」
「後詰……」
「貴様もよく知る英雄様が山ほど兵を集めて向かってきている。そいつらと合流されれば終わりだ」
自分達にサバトから後詰の援軍がやってくるように、連合側にも後詰は用意されていました。
彼らと合流されれば、勝ち目は完全になくなります。
「つまり、三日以内にオースティン軍を撤退させねばならないのですね」
「ヤツの到着が早まる可能性もある、できれば本日中だな」
逃げる敵を追う『追撃作戦』は、交戦自体は激しいものになりません。
なので、今日中に撤退する判断ができれば被害はそこまで大きくなりません。
「では、シルフ。自分はやはり、すぐ参謀本部に戻って司令部を説得すべきでしょうか」
「いや。お前も突っ込め、そして勝て」
「は?」
シルフにそう問うと、彼女はつまらなさそうに。
遥か先、連合側が逃げ惑う方向を指さしました。
「そもそも現時点で不利な追撃なんだ。お前が後方に行ってる間に軍を立て直され、反攻されたら終わりだぞ」
「え、ええ」
「だから司令部に戻る前に、目の前の敵を蹴散らしておいた方が良い。それくらい楽勝だろうし」
「……えぇ」
彼女は『目の前の敵を蹴散らすのは楽勝』と言いましたが、全然楽勝ではありません。
「追撃戦は時間と速度の戦いです。既に出遅れていますし、追いつくのが大変では」
「先回りすればいいだろう。なあトウリ、奴等はどこを目指している?」
「え? えっと、後方陣地でしょうか」
敵は散り散りに、様々な方角へ逃げています。
おそらくそれぞれの所属陣地を目指しているのでしょうが、それが何処にあるかなんて。
「違う、まず森だ。平原での追撃戦になったら、兵士はまず森を目指す」
「あっ」
「この辺の地理はオースティン人のお前の方が詳しいだろう。最も近い森は何処だ?」
「な、南西です」
いや、そうです。
自分もシルフ攻勢の時、まっすぐ陣地を目指したりしていません。
ガーバック小隊長の指示で、遮蔽物の多い森林地帯を目指しました。
「南西に森があるなら、連合兵の大半はそこを目指す。ショートカットすれば追いつけるし、そのまま側面を突けるだろう」
「……!」
「オースティン軍は背後から連合兵を追ってるが、逃げる敵は側面から撃つ方が効率的だ」
「は、はい」
「貴様はまず正面と敵を叩け。十分な被害を与えれば撤退し、愚かな作戦本部へ説得に行け」
確かに、よく見れば大半の敵は南西方面に向かっているようです。
直線距離で走れば、すぐ追いつけるかもしれません。
「敵を蹴散らした後は、周辺部隊の撤退を援護しながら戻れ」
「撤退の援護ですか」
「お前以外の指揮官じゃ、どうせ負ける。反攻されたら終わりだ、陣形だけは崩させるな」
シルフ・ノーヴァはテキパキと、自分がすべきことを指示していきました。
単純明快に、『自分ならできるだろう』と信じ切っている様子で。
「一つでも多くの部隊に、作戦失敗を報告させ続けろ。そしたらオースの指揮官も、顔を真っ青にして兵を引くさ」
「……」
「今、貴様がすべきは、戦力を維持したまま追撃失敗を作戦本部に叩きつけることだろう?」
シルフは、不機嫌な顔を隠そうとしません。
ただ、無味乾燥に戦場の土を踏みしめていました。
「半日以内に撤退命令を出させろ。さすれば、被害はさほど大きくないはずだ」
「……半日、ですか」
「出来なければお前の大事なものが壊されるだけ。何もかも失った私のようにな」
「……っ」
通信が封鎖されている以上、今の自分たちにできるのは味方の援護のみ。
シルフはこの場で最も有効であろう方針を、悩む暇もなく即答しました。
「あとは動けない負傷した連中も、塹壕の前に薄く広く展開させておくといい」
「薄く広く展開ですか?」
「そんで、地面をガリガリさせておけ。それでちょっと時間を稼げる」
シルフは最後にそう指示を出すと、塹壕壁に腰を預けました。
そしてもう伝えることはないと、ヴォック酒の瓶を開いて飲みました。
「さっさと兵を動かせ、展開に時間がかかるとパァだぞ」
「……シルフ。後方で薄く展開して地面をガリガリ、って何の意味があるのですか」
「連合軍からしたら『負け戦だと思っていたら、敵がアホな突撃かましてきた』という状況だろ?」
彼女のその鋭い感性は、自分は持っていないもので。
「後方で地面にガリガリしてるヤツがいれば、砲撃部隊に見えるだろう。この突撃が『愚かなミス』ではなく、『ミスに見せかけた誘い』に見えるんじゃないか」
「あっ」
愚かな追撃だからこそ、敵に罠を疑わせて時間を稼ぐ。
その間に味方を救援し、本部に撤退命令を出させる。
それは簡潔で、これ以上ない方法でした。
「道は示した。連合が後詰と合流する前に、持ち前の戦闘勘でひっくり返してこい」
「……ええ」
戦争の被害を少しでも減らすため。
愚かな追撃により、オースティンが滅ぶのを防ぐため。
「全員聞きましたね。動ける者は自分に随伴、負傷した者は塹壕前部に展開を! 急いでください」
「おいトウリ。こいつらの、サバト兵の監視はどうする」
「必要ありません、好きにさせてあげてください」
シルフ・ノーヴァの献策を受け入れて。
自分は戦闘準備を整えるよう、全員に指示を出しました。
「行け、怨敵」
「行ってきます、仇敵」
自分はシルフに背中を押され、ガヴェル中隊を引き連れて。
「ガヴェル遊撃中隊、自分に随伴せよ。味方を救いますよ!」
塹壕の間、最前線を小銃を片手に走り出しました。
「側面斉射、構え!」
「うおお、ぶち殺せ!」
自分はまず、シルフの指示通りに撤退する敵を追撃しました。
最短距離を走ったので、1時間ほどで追いつくことが出来ました。
「被害を出すことより、追い散らすことを重視してください!」
「了解!」
「敵が目の前からいなくなれば、それでいい────」
フラメール兵は自分たちの部隊を見て、慌てて逃げ惑いました。
彼らもさんざんに「ベルンの追撃」に煮え湯を飲まされてきたはず。
追撃してくるオースティン軍が、怖くてたまらないのでしょう。
「トウリ! 右翼に、やられかけてる友軍がいるぞ」
「わかりました、ガヴェル少尉! 彼らを援護し、撤退するよう指示してください」
「任せろ!」
しかし追撃で、快勝しているのは我々の部隊くらいで。
負傷兵だらけで士気も低い周辺部隊は、次々と敗走しかけていました。
「こうなるのがどうして分からないのですか、クルーリィ少佐……」
やはり、この突撃作戦は無謀でした。
ベルンのように細かく敵の退路を分断し、各個撃破していく用兵が出来れば話は変わったのでしょうが……。
クルーリィ少佐の手腕では、ベルンのような指揮はできなさそうです。
「た、助かりましたイリス連隊。この恩は……」
「お礼は結構です、それより貴官らはすぐ撤退してください! そして本部に『この追撃作戦は無茶で、攻略不可能』と報告を!」
「りょ、了解」
シルフと自分の読み通り、最初こそ追撃は成功しましたが。
深入りするにつれて旗色が悪くなり、各地で敗走が始まりました。
我々オースティン兵は、寡兵で大軍の立てこもる塹壕に突撃しただけ。
……いかに敵の動揺を誘おうと、防御側の有利と戦力差はひっくり返るはずがないのです。
「イリス様、我が中隊のプレン小隊とフジュレイ小隊は無傷です。どうか随伴に」
「……感謝いたします」
自分は前方の連合軍を蹴散らした後、追撃をやめて周辺部隊の救援に努めました。
後方ではケネル大尉とジーヴェ大尉が、負傷兵を使って砲撃部隊の真似をしてくれてます。
「一人でも多くの味方を撤退させないと……」
殆どの戦線で、無謀な追撃による敗走が始まりつつありました。
ケネル・ジーヴェ大尉が担当している区域の兵士には追撃させていませんし、その隣接区画の兵士はなるべく救いましたが……。
それ以外の地区では、どこも大敗しているようです。
なおサバト軍の守る東部陣地では、トルーキー将軍の判断で撤退を始めたとのことでした。
「オースティン軍の撤退許可はまだですか!?」
「まだ出ていない。くそったれ」
「もう追撃など無理でしょう! 意地になってませんか、クルーリィ少佐は!」
すでに各地で敗走が始まっているのに、具体的な指示は何も出ていません。
……いつもに比べて、オースティン参謀本部の判断が遅すぎます。
ヴェルディさんはこういう時、判断を誤らない印象だったのですが。
やはり自分が、作戦本部に乗り込むしかないのでしょうか。
「プレン小隊も、上層部に通信を……」
「はい、イリス・ヴァロウの通信封鎖を解くよう要請しています」
「まだ回復しないのかよ」
小隊長格の通信機は、権限的に参謀本部には繋げられません。区画の部隊長までです。
彼らを通じて通信封鎖を解除するようお願いはしていますが、いまだ回復する気配はありませんでした。
「……っと、次の区画は戦闘が終わっていますね。全滅ですか?」
「いや、引いているらしい。兵士が防衛陣地に戻ってる」
「よかった、自己判断で撤退済ですか」
塹壕の中を駆けながら、自分は周囲をよく観察しました。
次の区画の指揮官は優秀らしく、命令違反ですがもう撤退を完了させたようです。
……本来はよくないことですが、救援する手間が省けて助かります。
「ここら周辺の味方はもう、撤退を終えたな」
「自分たちにできるのは、ここまでみたいですね。そろそろ作戦本部に戻りましょう」
この状況なら、自分が前線を離れても大丈夫でしょう。
敵が態勢を立て直す前に、撤退命令を出させないと。
そう判断した自分は、首都ウィンの作戦本部まで戻ろうとして────
「……いえ、待ってください。ここの担当指揮官は誰ですか」
「えっと、聞いてくる」
その瞬間、あることに気が付きました。
正確な戦況判断ができて、自己判断で撤退をしても許される立場。
だとすれば、ここの指揮官はそれなりの権力を持っているのでは?
「ザーフクァ大尉だそうです」
「ザーフクァさん!?」
自分の読み通り、ここの区画の指揮官は前線では最上級の地位にある『エース』で。
かつ自分にとって師匠でもあるザーフクァ大尉でした。
「今すぐ面会を。イリス・ヴァロウが話をしたがっていると、伝えてください」
「了解」
彼の防衛能力はいまだに健在で、前線を支える屋台骨の一人です。
彼ならば、きっと────
「ザーフクァ大尉を経由して、司令部に連絡を取れます!」
その、十分後。
「司令部、ヴェルディ中佐ですか! 自分です、イリス・ヴァロウです」
『え、あれ? どうしてザーフクァ大尉の通信から?』
ザーフクァさんは、自分を見て少し驚いた後。
事情を聴いたら、すぐに通信機を使わせてくれました。
「自分の通信が作戦本部より遮断されているのです」
『そんなバカな! 誰の不手際ですか!?』
「今はそんなことより、早く撤退の指示を! どうして兵を引かないのですか」
ザーフクァ大尉も、この追撃作戦に対し懐疑的でした。
一応は命令通りに追撃したものの、周囲の部隊が次々に敗走したので『これは無駄死にだ』と兵を引いたようです。
そして司令部にその旨を報告し、撤退を提案しましたが『千載一遇の好機なので体勢を立て直し、再度侵攻するように』と命じられて悩んでいたところだったそうです。
「この追撃は無謀です! ただ被害が増えるのみ」
『……私もそう思うのですが。これはベルン・ヴァロウの指示だと。クルーリィ少佐が先ほど、ついに策が成ったと大興奮していたのです』
「違います、追撃はクルーリィ少佐の勝手な判断です! ベルンの指示でも何でもありません!」
『はあ!?』
そして、ヴェルディさんがこの状況でも兵を引かなかった理由が。
これこそベルンの遺策というクルーリィ少佐の発言を鵜呑みにしてしまい、追撃をするよう強く進言されていたからでした。
ベルンの策を隠し続けていた弊害で、ヴェルディさんは『無謀な追撃だけど、何か策があるのだろう』と思い込んでしまったのです。
「そもそも、ベルン・ヴァロウの遺策を継いでいたのは自分です」
『な、な、な』
「クルーリィ少佐は、策の全容を知りません!」
自分は、精一杯に叫びました。
ベルンの策は、その詳細をどちらにも『伝えない』ことで秘密性を保ちました。
そして『気づいた』方が主導して実行するからくりです。
「自分が提案しても参謀本部に受け入れられないから、信用を得るためクルーリィ少佐に協力して貰っていただけです!」
彼の意図に気づけていないクルーリィ少佐に、この局面を任せてはいけないのです。
『……。分かりました、トウリちゃん、むしろクルーリィ少佐の妙な言動に納得しました』
「ヴェルディさん……」
『全軍に撤退の指示を出します。ベルンの指示でないのであれば、こんな無謀な追撃はすべきではない』
「ありがとうございます」
ヴェルディさんは自分の話を聞いてすぐ、撤退の指示を出してくれました。
この辺の理解の速さと、正確さがヴェルディさんの最大の美徳です。
……ベルン亡きあと、最も優秀な参謀は間違いなくこの人でしょう。
『……それでは。その、トウリちゃんには申し訳ないのですが』
「ええ、他部隊の撤退支援を継続します。自分にお任せください」
『ありがとう』
通信を終えた後、自分は大きく息を吐きました。
少し時間はかかってしまいましたが、何とか追撃を止めることができたようです
「話は終わったか、トウリ」
「ありがとうございました、ザーフクァさん」
「礼はいらん。上官からの要請に応えたまでのこと」
ザーフクァさんは相変わらず寡黙で、口数も少なく答えました。
たまたま、彼の陣地を横切ることができて感謝です。
「トウリ、周囲の味方が引き始めている」
「よかった。ザーフクァさん、近辺の部隊の撤退の援護をお願いできますか」
「承った」
撤退命令が出るや否や、ほとんどの部隊は我先にと後退を始めました。
無謀な攻勢であると、実感していたのでしょう。
「……本当に、良かった」
ここまで味方だと思っていたクルーリィ少佐に裏切られ。
その代わりに、シルフに尻を叩かれることになるとは思いませんでした。
これで、オースティンは滅びずに済む。
「これで、やっと終戦────」
────そう、思った直後の話でした。
「む、なんだアレ」
「……何かありましたか?」
ガヴェル少尉が、何かに気づいて声を上げました。
つられて前を見ると、彼の指さした方向から無数の敵が迫ってきています。
「……反撃部隊、ですね」
「ああ。この周辺を攻撃目標にしているみたいだな」
敵は我々の追撃を見て『愚策』だと見抜き、反撃の準備を整えたようです。
しかし、それは想定内。反撃されて当然の状況です。
むしろ、今まで攻め返されなかったのは『地面ガリガリ作戦』でのブラフのお陰でしょう。
「攻勢は防げそうですか、ザーフクァさん」
「この区画だけなら、ギリギリ防衛できるだろう。だが、恐らく他の拠点は全て破られる」
「え、そんなに?」
今撤退できれば、十分に塹壕を守れるだろう。
防衛側の有利を押し出せば、守り切れるはずだ。
そう思ったのですが、ザーフクァさんは額に汗を垂らして唇をかみしめています。
いったい、彼は何にそんなに焦っているのでしょうか────
「……待ってください」
「気づいたか、トウリ」
「なんですか、あの『敵兵の数』は!!」
……よくよく、周囲を観察すると。敵の影はガヴェル少尉が指さした方向だけではありませんでした。
東にも南野も南東にも南西にも、あらゆる方向ですさまじい数の兵士がワラワラ蠢いていたのです。
そこには、目を疑うほどの大軍勢。
「待ってください。あんな軍勢、報告になかったような」
「ああ、なかった」
「……装備や服装が新しすぎる、おそらくアレは新兵だな」
そのほとんどが、お粗末な装備で身を包んでいましたが。
明らかに他の連合兵より士気が高く、数えるのがばからしいほどの大軍です。
「では、到着したばかりの兵士ということですか」
「ああ、だが統率も取れているし士気も高い」
「……」
「敵にカリスマ的な指導者でもいたのだろう。……あれだけの新兵を、まとめるだけの」
……ザーフクァさんのその言葉に、自分の心臓が凍り付きそうになりました。
彼の到着には、まだ時間があると聞いていたのに。
「おそらく、連合軍の後詰だ」
これ以上ないくらいに最悪なタイミングで。
フラメール国内からすさまじい数の義勇兵を引っ提げて、英雄が前線に姿を見せたのです。
彼の到着にはあと三日はかかると言われていました。
しかし、このフラメールにとって致命的な窮地に。
運命の女神に愛されたあの男が、姿を見せないわけがないのです。
「まさか────」
戦争に勝つために、最も重要なことはなんですか?
天下無双のエースでしょうか。
それとも、圧倒的な兵力差?
あるいは、切れ味の良い戦術?
いいえ。戦争に勝つために一番重要なのは、『運』です。
戦術も、戦略も、へったくれもない。
オースティン軍は、ちょうど愚かな追撃をしたせいで『塹壕もない平野におきざり』になっており。
その周囲をぐるりと囲むように、十万の軍勢が現れました。
これ以上ない最高の『勝てる』タイミングで、その後詰は現れたのです。
その先頭に立つのは、フラメールの救国の英雄。
絶体絶命の窮地から、ベルン・ヴァロウ率いるオースティンの大軍を打ち破って首都を守り。
数多の都市解放戦線でも最前線に立ち、フラメールに勝利を届け続けた『主人公』のような男。
そしてシルフ・ノーヴァの力を借りたとはいえ。
現状ベルン・ヴァロウと戦って、土を付けた唯一の指揮官。
「アルノマ、さん」
ウィン戦線に、アルノマ・ディスケンスが姿を見せたのでした。