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三人で生きて

「……ット!」


 声が聞こえる。


「エリオット」


 身体を揺すられて……目を開けると、アブダルの顔があった。


「アブダル」

「エリオット! みてみろ! 奇跡だ!」


 興奮する彼が、俺の身体を抱き起した。


 見ると、出入り口は開いているが、そこにいたはずの兵士たちが皆、倒れている。


 ……テンペストが、助けてくれた?


 どうして、自分を封印している俺たちを助けてくれたんだろう?


 彼女は、好きか嫌いかで判断すると言っていたけど、つまりそういうことなんだろうか?


 とにかくイングリッドを……。


 身体が軽い。


 先ほどまでの疲労が嘘のようで、立ち上がることが容易にできた。


 浅瀬に倒れるイングリッドを抱き起した時、俺は驚きのあまり彼女を落としそうになった。


 アブダルも、イングリッドを見て腰を抜かしている。


 イングリッドが……一気に成長していた!


 前は十代半ばだったが、今は大人の女性……二十代半ばで、オメガに近いのではないか?


 そうか。


 イングリッドは、寿命を削られたんだ……。


 テンペストは、俺と彼女、それぞれに条件を出した。


 俺には、自分を倒せという約束を。


 彼女には、寿命を奪うことを条件にした……。


「うぅ……」

「イングリッド」


 彼女が目を開く。


「お腹……すいたぁ」


 歳をとっても変わってない!


 抱き起すと、イングリッドが俺とアブダルを見比べて首を傾げる。


「お前ら、縮んだか?」

「お前がデカくなってる」


 アブダルの指摘に、彼女は自分の手足を眺め、袖の長さがあっていないことに気付き、次に胸のボタンを上から外し始めた。


「待てまて」


 俺が止めると、彼女は言う。


「おっぱいが苦しい……おお……成長している!」


 そこで判断かよ!


「アブダル! すごいぞ! 谷間ができた!」

「いいから隠せ」


 本人よりも、俺たちが恥ずかしくなってしまう。


「テンペストに、寿命を差し出したな?」


 俺の問いに、彼女はボタンをとめながら頷く。


「うん」

「どれくらい?」

「半分」


 半分……?


「お前、自分がなにをしたのかわかってるのか?」

「わかってる。半分で、お前が助かるなら嬉しいじゃないか」


 微笑む彼女が愛しくて、俺はアブダルの前でもかまわず彼女を抱きしめていた。


 前よりも背が伸びた彼女は、容易に俺の肩に顎をのせた。


「ふふふ……こうするのが楽になったなぁ」


 イングリッドの言葉に、アブダルが舌打ちする。


「イチャついてんじゃねぇ。帰るぞ」

「どうしてお前が決める? 荷物持ちのくせに」

「お? イングリッドは俺にとっても恩ができたぞ? 綺麗なエルフを紹介しろ。それでチャラだ」

「イシュクロンに来るか? ……エリオット?」


 俺は、まだ動きたくなかった。


 右腕でイングリッドを抱き留めて、左手をアブダルに差し出す。


「アブダル」

「……なんだよ、男好きか?」


 彼は言いながら、俺の肩を抱いた。


 三人で肩を抱き合い、頭をくっつけあって笑う。


「エリオット、ご馳走を食べよう」

「ああ、三人で六人前を食べるぞ」

「エリオットの奢りだな?」

「ああ!」

「よし、帰ろう!」


 イングリッドの明るい声。


 三人で、じゃれあいながら封印の間を出た。


 そこで俺は立ち止まり、赤い球体へと向かって姿勢を正す。


 深くふかく、頭を下げた。


「テンペスト……助けてくれて、ありがとうございました」


 この時、頭の中にその声が聞こえる。


『貸しだ。約束を果たして返してくれ』


 返す。


 何代先になるかはわからないけど、俺の魂はきっと、未来でお前を見定めて、悪竜だったならば、必ず倒すよ。


 階段へと向き直り、登ろうとすると二人が止まっていた。


 見上げた先に、答えがあった。


 フレデリクが、その身体を岩石のように変化させられていく途中なのだ。


「……炎魔人ヴァルラグに?」


 アブダルの問いに、俺たちは答えない。


 階段を登り、近づくとフレデリクは生きていた。


「貴様……ら……けろ。たす……ろ」


 足はもう岩石で、まだ動けないようだ。


「お前が大好きなテンペストが、授けてくれた身体だ。ありがたく変身しておけ」


 俺は言い、フレデリクの肩を叩いて離れる。


 アブダル、イングリッドも同じように彼の肩を叩いて、俺に続いた。




-Elliott-




 グーリットに帰ったのは、五月二日の早朝だった。


 朝早くからやっている食堂は限られていて、港湾労働者向けの食堂に入った。


 オススメを六人分という雑な注文をした俺たちは、運ばれてくる料理を貪るように食べた。あらゆる飲み物のなかで、水がもっとも美味しいのだと改めて感じるほど、水が美味しい。


「アブダルは、これからどうする?」


 イングリッドの問いに、彼はミートパイを咀嚼し、飲み込んでから答える。


「傭兵だ。他の仕事を探すよ。エリオットは軍の募集に?」

「そうだな。帝国との戦争はまだ続くだろ」

「……仕事の依頼があるんだ」


 イングリッドが、ナイフとフォークを置いて姿勢をただす。


 俺もアブダルも、自然と同じように姿勢をただした。


「イシュクロン王国に、傭兵として来てくれないか? 今は……払えるお金がないけど、帰国したら父上に相談して用意するから」


 彼女はそこで、卓に前髪がつくほどに頭をさげる。


 照り焼きのソースが、べったりと……。


 アブダルが彼女の姿勢を直させて、自分の袖で髪をふけと左腕を差し出す。そこに額をグリグリと押し付けるイングリッドをみて、美少女から美女になっても中身はかわっていないなと微笑ましかった。


 イングリッドが、改めて口を開いた。


「エリオットは、家をこっちで買いたいのは知ってるけど……もう少し、先に伸ばしてもらえないだろうか……?」


 俺は水を飲み、彼女の髪をクシャクシャと乱暴に撫でた。


「ふぁ!」

「報酬は、お前の残りの寿命全部を寄越せ。それで雇われてやる」


 言った俺に、アブダルが笑う。


「ははは! じゃあ、俺は綺麗なエルフを紹介してくれ。成功報酬でいいぞ」


 イングリッドが顔をあげない。


 あれ?


 喜ぶところじゃないのか?


 寿命を寄越せって言い方が悪かったかな……。


 見ると、周りから注目を浴びていた。


「おい、命を寄越せつってるぞ、あれ」

「やべぇな。助けに入るか?」

「エルフを紹介しろって脅してるな」

「こらしめてやるか? おい! ここは中央大陸じゃねぇぞ! てめぇら!」


 港湾で働く男達が、声を荒げて俺たちを睨んだ……。


 誤解だ。


 イングリッド……誤解をといて……?


 彼女は肩を震わせて、手で顔を何度もぬぐい、姿勢をただした。


 涙で真っ赤にした目の彼女は、俺とアブダルに大きく頷く。


「契約だ! 皆さん、誤解させて申し訳ない。二人を雇ったのだ」


 彼女が言い、男たちが苦笑を連ねる。


「まぎらわしい」

「つぎやったら殺すぞ」


 イングリッドは、こぼれる涙を手でぬぐいながら、料理を食べ、鼻水をアブダルの袖でふき、水を飲んだ。

挿絵(By みてみん)

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― 新着の感想 ―
アブダルがサブヒロイン枠なのが最高だわ
[気になる点] 他のヒロイン2人はどうするんだ〜 パトレアは予約入ってるけど、リュミドラはたぶんあの王子タイプじゃないからかわいそうやな。
[一言] う~む?残される二人をどうするやら? ハーレム男の手腕に期待しますわ。
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