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総長と

 総長室がある区域には、さすがに騎士たちの姿がある。


 俺はにこやかに廊下を進み、彼らが俺を見ると、わざとペコペコしながら歩いた。


「どうした?」


 イングリッドの問いに、「真似しろ」と囁いた時、俺の意図を察したアブダルが俺を真似る。


「へへへ。騎士さま方、お疲れ様でございますぅ」


 アブダルがもみ手をしながら彼らへと近づき、俺、ニコニコとするイングリッドの順で続く。


「この先は進めぬぞ。何用か?」


 騎士の問い。


 俺の間合いに、彼らが入る。


 総長室まであと二十メートル。そこにはさらに二人がいた。


 俺は、手前三人を狙う。奥はイングリッドに任せた。


「お土産を持ってきましたぁ」


 俺が笑顔で言い、騎士たちが訝しんだ直後、剣を抜いた。


「な!」

「貴様!」


 彼らの口から声が出た瞬間、俺の一閃が一人の首を切断した。その軌道を変化させ、二人めの騎士の肩から胸へと斬り裂いて、三人めの顔面に剣先を突きつけるところで動きを止める。


 イングリッドが風刃波ベントスで、奥の二人を倒している。


 生き残った騎士に、笑みを見せると相手もぎこちなく笑った。


 首を刎ね、転がった騎士の頭部を蹴飛ばして総長室へと向かう。


 ドアをノックする。


「閣下、失礼します」


 わざと入室を伝えて入った俺は、執務室でこちらを見る中年の男を見た。


 白髪混じりの茶髪で、鋭い眼光の男は、父さんに似ていた。グレンダルフはまったく似てなかったが、こちらはそっくりと言える。


「お前は誰だ?」

「フレデリク閣下ですね?」

「そうだが?」

「グーリットのエリオットです。クリムゾンディブロと言えばおわかりか?」


 ガタリと音を立てて腰を浮かした総長へ、俺は魔剣イングリッドの剣先を向ける。


 彼は動きを止め、ゆっくりと椅子に座った。


 部屋の隅に、従者らしき男が二人いたが、イングリッドが彼らを剣で脅して寝そべるように指示している。


「総長閣下は催眠術が得意ときく。あやしい素振りをみせたら問答無用で殺す。いいか?」

「……何が望みだ?」

「まず、あんたのお仲間は海に沈んだ。ヴェリガナールは冥界に送った」

「人間にそんなことはできない」

「できたんだ。こちらにはすごい聖女がついている」

「……もし、それが本当であるなら、感謝をすべきかもしれんが……私としてはお前たちが何を望んでいるのかわからないまま、何をどう話せばいいか迷っている。ここには何を目的で来た?」

聖なる騎士団サンクトゥエクェスに協力していた責任をとってもらおう。ここで俺に殺されるか、事を公にして牢獄でおとなしく裁かれるのを待つか、選ばせてやる」


 彼は背もたれに身体をあずけ、俺に「煙草、いいか?」と尋ねる。うなずくと、ひき出しを開けて、刻み煙草の箱と紙を取り出した。


「誤解がある。私とて喜んで協力をしていたわけではないと答えておこうか」


 彼は紙きれに刻み煙草をほぐしながらのせると、整えて巻く。そして紙をなめて付着させ口にくわえた。


「煙草はやるか?」

「俺は吸わない」

「では、私だけ」


 彼は蝋台に灯る火で煙草に火をつけ、煙を口の中で味わうと吐きだした。そして、懐かしいという目で俺を眺め、口を開く。


聖なる騎士団サンクトゥエクェス……兄上がその組織を継承し、私がこの騎士団を継いだ……二人には手を出すな」


 総長の声で、イングリッドが従者二人から少し離れる。それで彼らは、総長の近くへと駆け寄り、彼を守るように立ちはだかろうとしたが、フレデリクは手を払って、後ろにいろと命じた。


 俺は強い口調で問う。


「あんたは無罪を訴えるか? 聖なる騎士団サンクトゥエクェスのせいで不幸になった人たちがいる! その責任があんたにもあるはずだ」

「それは否定できない……現に私は、彼らに依頼されて届けられるエルフに催眠を使う約束をしていた……が、それが彼女かな?」


 フレデリクの問いに、イングリッドが微笑んだ。


「わたしに催眠をかけて、なにを手伝わせるつもりだった?」

「彼らの指示に従い、竜王復活に協力することが自分の望みだと……信じるようにだ」


 総長は煙草を吸い、煙を吐き出しながら続ける。


「……竜王を復活させて、何をするのか? 最後まで兄上は答えてくれなかったが、そもそも、何が正しいのかなど、この世界において絶対などなかろう? 我々の本来の使命がそうであるなら、そうすることも正しいと思える……歯車だよ、我々は。この世界のね」

「だとしても、あんたらを正当化はとてもできていないと思うが?」

「正当化が目的で話しているわけではないよ。それで、お前の顔は弟に似ている……アレクセイに目と鼻がそっくりだが?」


 俺は予想していたことなので、冷静を保つ。


「残念ながら、俺は伯父に剣を向けている」

「……あいつは真面目だった。私たちよりよっぽど騎士にふさわしい……いや、やめよう。彼の戦死は聞いているが、知っているか?」

「俺を助けてくれて、死んだ……北の魔竜が住む島で」

「これだけは言わせてもらう。彼は兄上とは違い、本当に帝国打倒を目的に活動をしていた……ただ、私が総長を継ぐ経緯の裏に何があったかを調べていたため、兄上と相談をして、あのような……つまり、彼は知らない。父親を誇ってやってくれ」

「あんたに言われるまでもない。父親殺しめ」

「……痴呆で帝国と同盟を結ぼうとしていた。やむを得ない」


 フレデリクは言い、煙草を吸うと短くなった残りを床へと捨てて靴で踏み消す。


 彼はそこで、執務机に立てかけられていた剣を持ち、鞘におさめたまま卓上に置く。


「抵抗する気はない。ここで殺すなら殺せ。裁きを受けろというのなら、弟に総長を継がせた後にそうしよう」


 たしか、四人兄弟なので三男がいるな……。


「わかった。あんたは総長を辞し、弟に総長を継げ。証人はそこの従者二名でいいな?」


 俺の言に、従者二人がコクコクと頷く。


「アブダル!」


 ドアが開かれ、部屋の外から彼が顔をのぞかせる。


「アルキメトスのおっさんを呼んできてくれ。総長が引退する」

「わかった」


 俺は、そこで剣を収めた。




-Elliott-




 四月二十八日。


 北方騎士団はフレデリク総長が体調不良を理由に引退を発表し、後継は弟のジグルドとなったとも伝えた。


 その手続きで大忙しのチャールズ卿が、俺に用だと言うので、また決闘の話かと思ったが、そうではなかった。


「貴殿、あのアレクセイ様のご子息と、総長閣下の従者から聞いた。本当か?」

「……本当だったらどうする?」


 騎士団本部の城。その中庭を歩く俺は、イングリッドとパトレア、アブダルが準備を終えて港で待ってくれていることを知っている。だから長居はしたくなかった。


「ノアは、騎士にふさわしい子だったか?」

「いや、他人を見縊り見下し、自分を偉く見せようということに気をつかう子で、それを叱られると暴走する愚かさをもっていた……あんたらのせいだ」

「……」

「そして、あの学院の教員たちのせいでもある。隠蔽は無理だとなって、嘘の報告をしたのだろう。学長から知らされた内容こそ正しい」

「……わかった。手間をかけた」


 おっさんはそう言うと、一通の手紙を差し出す。


「総長閣下からだ……貴殿にと」

「……わかった」


 受け取り、会釈をして辞す。


 市街地を歩き、混乱する騎士団の慌てぶりの原因が自分であることに後ろめたさを感じるものの、イングリッドの妹や、殺された人たちを考えると、お前らのほうが百倍もマシだと思う。


 港には、多くの船が停泊している。


 デーン王国への連絡船の搭乗券は、アブダルが手配してくれていた。


 三人が、俺を見つけて手をふっている。


「悪い! 待たせた!」

「もうすぐ搭乗手続きですよ! 早く」


 パトレアが、笑顔で手を振っている。


 アブダルが荷物を背負い直した。


 イングリッドは、屋台で買ったと思われる串焼きを食べている……。


 グーリットへ帰ろう。


 家……買おう。

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― 新着の感想 ―
[一言] こんな簡単に隠居するのか……?怪しいな……
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