総長の最期
イングリッドを助け起こし、空間中央の装置らしきものを前に俺は少しだけ悩んだ。
しかし、こんなものが戦いの理由になるならと思い、火炎弾を撃ちこむ。
爆発した棺。
破片が飛び散り、黒煙が空気を汚した。
「エリオット」
カミラの声で、俺は彼女の視線の先を見る。
グレンダルフが血を吐きながら立ち上がっていて、転がっていた黒剣を拾い上げるところだった。
「死んでいた……はずだ」
俺は奴が、聖石の力を使っているのかと思ったが、それであるなら死ぬ前に例の変身が始まったはずだ。
カミラが言う。
「あいつ、死なない呪いをかけているのか?」
「だとしたら、解除できるか?」
「余裕」
カミラが、素早く印をきってグレンダルフへと神聖魔法を放った。
だが、彼は変化を止めず、流れていた血を吸収するように体内へと取り込み、溜息をつく。
「呪いじゃないな……不死者か……」
カミラの声に、奴が反応した。
「残念だよ……何度、死にたいと思ったことか……」
カミラが、俺に早口で囁く。
「こいつ、不死者だ。屍術師程度の術師がしたんじゃない。自分で呪具を用いて成り果てたか、神使の助けがあったはずだ……ともかく、殺すことはできない」
「どうしたらいい?」
「生き返らせてみる」
「……できるのか?」
「時間を稼げ、スケベ」
俺はグレンダルフへと剣をかまえて前進しながら、叫ぶ。
「スケベじゃない!」
俺の斬撃を、グレンダルフは黒剣で受けた。
「お前ら、ミラーノでどうして逃げた? あの時、六対二だったろ! 知恵無し!」
俺の挑発に、自尊心が高いらしいグレンダルフはかかる。
「軍隊相手にさすがに勝てないからな!」
「不死者とか、勇者とか、そういう力を得ても智恵のほうは加護をもらえないみたいだな! あの時、全員でかかってくれば負けていたよ!」
「お前ごときいつでも殺せると思ったのさ。相手してもらえなかったからといって怒るな!」
斬撃と挑発の応酬。
俺は斬撃、火炎弾、一閃と三連撃をみまうも、全てに対応された。それでも最後に体当たりをくらわし、肘を奴の胸にいれる。たたらをふんで後退したグレンダルフに、蹴りをみまってから魔剣を振り降ろした。
「どうせ、ここに来たのも竜王とかいう母親になぐさめてもらいたかったんだろ!」
「ぬかせ!」
今の挑発は効いた!
斬撃に力が入ったね! いいね!
俺に集中してろ、くたばり損ない!
グレンダルフは聖騎士と呼ばれていただけあって、剣技はこれまで戦った誰よりもすごい。だけど、神使やらと対峙した時の絶望感はない。
こいつは死人だから、石を持っても反応がないということか!
さっきの守護霊には驚いたが、こいつ単体なら問題ない!
カミラの準備が終わるまで、戦い続けることはできそうだ。
お互いの斬撃が双方の剣によって防がれて、俺と奴はそれぞれ後方に二歩さがり、剣をかまえ直した。
グレンダルフはそうとう頭に来たらしく、歯軋りしながら俺を睨んでいる。案外、竜王に慰めてもらいたいくて来たのは当たったのかも……。
「ったく、守護霊みたいなやつに助けてもらわないと、俺一人にも勝てないくせに総長か……お前みたいな老害が、上にいるから騎士団は腐るんだよ」
「貴様!」
斬撃を弾き返し、蹴りをいれる。
荒くなってきた!
挑発がきいてる!
「俺を見下してたな? お前はさっき、お前ごときって言っていたけどな。その俺に勝てねーじゃねーかよ!」
最後は叫んでいた。
グレンダルフが攻撃してきた直後、俺は奴へとわざと前進することでそれを躱し、黒剣を持つ奴の手を斬り飛ばした。そして腹を殴り、顔面に頭突きをくらわし吹っ飛ばすと、魔剣でグレンダルフの胸を貫く。
びくびくと痙攣する奴を、串刺しにしたまま至近距離からの氷槍で串刺し、再生しようとする奴の手を蹴り飛ばした。
ここでカミラが、神聖魔法を発動する。
「救済!」
光がグレンダルフを包み、彼は困惑したように硬直する。それは、再生が止まったことへの反応だった。
カミラが倒れたのが、肩越しにわかる。
俺は肉体が崩れていくグレンダルフが、懸命に声を発しているとみて近寄った。
「死ね……死ね、クソ」
奴の汚い罵りを無視して、倒れたカミラへと歩み寄り、抱き起こす。
「大丈夫か?」
「さすがに、魂を抜かれるかいうくらいやばかった……限界……運んでくれ」
「お前、今の神聖魔法、他の人のために使ってくれと頼んだら可能か?」
「屍術で弄ばれた死者を救済する目的の魔法だ……単純な死人を生き返らせるなんて不可能だろうぜ? おそらく神聖魔法が効かない……神の敵とみなせないからな」
「残念だ……」
「だいたい、簡単に生き返るなら誰も苦労しない。突っ込んで死んで生き返ってまた試して死んで……出来の悪い神話だろ」
両親をと企んだ俺は、浅はかさを指摘されて恥ずかしい……。
「悪かった。つかまれ」
彼女の肩を支え、イングリッドがよろよろと立ちあがるところへと近づき、こちらにも肩を貸す。
「あの長い階段、登るのか?」
カミラ……嫌なことを思いださすなよ。
俺たちはそろって、うんざりとした顔で歩きだす。
まだ、終わっていない。
-Elliott-
地上へと戻った時、いきなり剣を突きつけられた。
よろよろでなんとか地上へと戻ってきた俺たちに、それを払いのける力は残っていない……。
見れば、アブダルが申し訳なさそうに俺を見ていた。その周囲には、捕まったガノッザ卿と彼の部下たち。
「クリムゾンディブロ……総長閣下は?」
俺に剣をつきつけている男……女かと思うほどの美男子に問われ、そのまま事実を答えたら殺されるのではないかと思い躊躇う。
視線を転じると、海上に炎上しているデーン王国の軍船三隻があり、健在であったのは敵の軍艦二隻だった。
三対二で負けたのか……。
「答えろ」
俺は問いに、問いをかえす。
「あんたら、北方騎士団か?」
「……私の問いに答えろ」
「あんたらが沈めた船はデーン王国の軍船だぞ? 同盟を無視したのか?」
「我々は、どの国家にも属していない」
「聖なる騎士団なら、諦めろ。もう残っているのはあんたらだけだよ」
男は俺の言葉で、総長がどうなったのかを理解したようだ。
彼は沈黙する。
波の音が、ここまで届くほどやけに静かになった。
敵兵の数は約三十……船にもまだいるだろう……漕ぎ手は奴隷だろうから、人数に入らないとして、それでも圧倒的に不利だ。
俺は、形成逆転の方法を考えていたが、美男子に顔を蹴られた!
痛い!
くそ……左頬を蹴られて口の中を切った……歯は大丈夫そうだが……ペっと唾と血を吐く。
「総長閣下を殺してくれて礼を言おう。これで私が総長だ」
「……」
彼はイングリッドを見て、薄気味わるい笑みを浮かべた。
「ご丁寧に連れてきてくれて助かった……憑代が手に入った。あとは魂だけだ」
「おい、テンペストを復活させるには、ヴェリガナールの助けがいるのではないか? そいつはいないだろ?」
「問題ない。私の中にいる」
ひっかかったな。
こいつ、単純だ……悪ぶり知恵者にみせかける馬鹿だ。
「でも、ここじゃなにも手に入れられなかったようだな」
「装置は起動済みだ。石たちの色が変化している」
本当に馬鹿だ。
教えてくれてありがとう!
「こんなもの、意味ないだろ。石が光っているだけだ。テンペストの魂は神殿の深部だぞ」
俺が奴から情報を引き出していると、仲間たちは気付いてくれて黙って見守っている。
「竜王のために造られた城だ……テンペストを復活させ、ヴェリガナールの助けを得て、竜王の魂を封印次元から、ここに呼び戻すことができるのだ」
わかった。
奴らはテンペストの神殿に入り、彼女を復活させる。そしてテンペストとヴェリガナールの力で、封印次元と呼ばれている場所から竜王の魂をここに呼ぶ。その際にイングリッドを憑代にしようという魂胆。
よくわかった。
させるか、馬鹿……て思っても、今をどう切り抜けるか……。
「よし、全員を縛れ。魔法を封じる呪具を忘れるなよ。疲労困憊の今のうちに封じてやれ」
騎士の指示で、兵たちが動く。
「怪我人の手当てをしてもらえないか?」
ガノッザ卿の頼み。
彼の部下ふたりが怪我をしている。うち一人の出血が止まらない。太腿の裏だ……応急処置をしているが、このまま放置はまずいだろう。
騎士は剣を抜くと、その怪我人の首を薙ぐ。
血煙の下に、ガノッザ卿の部下が倒れた。
「まだ手当てしてほしい奴はいるか?」
美男子の憎たらしい問い。
皆、黙るしかない。
騎士は、一人の兵士を手招き、小声で喋っていた。
兵士が、うんうんと頷く。
俺の隣にいたカミラが、俺の耳元で囁いた。
「唇を読む……船をキール港にいれ、船を変えて出る。アテナの港に接岸許可をとっておくように。船籍は北方騎士団でとっておけ。男たちはキール港につく前に海に捨てる。エルフはつれていき、聖女は奴隷市場に出す……そうだぞ」
「……捨てられる前になんとかする」
「魔法を封じられているのに?」
「今は無理だ。敵の数が多いし俺は疲労困憊……少しでも休めば違う」
「わたしが売られる前になんとかしろよ」
「……それよりも俺が捨てられるほうが早いからな。信じろ」
「ああ……信じてるよ、スケベ」
反論する前に、カミラが離れた。
俺は、少しでも身体を休めようと、ひき立てられても抵抗をしない。
ガノッザ卿に、目配せする。
彼も、俺の意図を感じ取ってくれたようだ。
アブダルが俺の隣に並ばされた。
彼が謝る。
「すまない。報せようと走ったが……」
「いや、戦わずに対応してくれてよかった。死人が増えるのは奴らだけにしておきたい」
俺は、美男子を睨む。
その男で、逃げた六人の騎士は最後だろう。
必ず、倒す。




