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伯父との戦い

「エリオット卿、ここ城ですね」

「その、卿ての、やめてもらえる?」

「いえ、貴殿は騎士です」


 真面目なベイトンは、俺よりも年上なのに言葉遣いは丁寧だ。こういう人ができた大人といわれるに違いない。


 俺も傭兵暮らしが長く、言葉が乱暴なことが多いから気をつけよう……。


 通路の奥、左へと直角に曲がるつくりで、右側の壁面にはいくつもドアがあった。全て開けて中を確かめながら進んでいるが、空き部屋だらけでまだ使われていないまま現在に至っているのだとよくわかる。


 真っ直ぐの道と、右に折れる道。


 俺たちは、右に進むと、その先は広い厨房だった。


 戻り、真っ直ぐに進む。


 食堂に出て、五十人は入ると思われる空間を眺める。卓上には使われた形跡がない蝋台がいくつも置かれていた。


 左方向、玉座の裏側へと繋がる扉を開けると、右手に上へと続く階段があり、真っ直ぐに伸び、先で左に曲がる廊下へと別れる。


「これ、ぐるりと一周――」


 オーリエの言葉を遮ったのは、階段方向からの急襲だった。


 振り降ろされた鎌が、オーリエに届く直前、俺が剣で弾く。


 短い金属音。


 後退するオーリエ。


 剣をかまえたネイサンと俺は、階段に立つ髑髏の男を睨む。身体は甲冑で隠れていて、あの墳墓で戦った勇者ブレイブと同じ種類に思うも、無言でこちらへと接近する敵に、屍術ネクロマンシーで創られた化け物だとわかった。


 鎌の一撃を俺が剣で弾き、ネイサンが敵の側面から斬撃を浴びせた。だが甲冑が硬く、剣では攻撃が敵に届かない。それに、斬撃が有効なのかもわからない。


 火炎弾フレイムを発動させた。


 髑髏が、魔封盾スクトゥムで防ぐ。


 ネイサンとオーリエの斬撃が、髑髏の頭部を破壊したが、奴は意に介さず鎌を振るった。


 二人が剣で防ぎながら逃げる。


 さすが、ガノッザ卿が連れてきた兵士!


 そうとうに訓練されている。


 彼らが戦ってくれたおかげで、俺は魔法を発動する準備を終えた。


冥魔封殺レヒテンニベンゲルン


 髑髏の身体が、一瞬で押しつぶされる。奴は真上から巨大な重しを乗せられたように、床へとグシャリと潰れると、立っていた場所を中心に骨の残骸を撒き散らした。


 重力を操る魔法が高度なので、なかなか難しいものが多いが、この系統は俺と相性がいいらしく、練習をすれば火炎系くらいに使えるようになるかもしれない。


 幅を広げろと、イングリッドに言われてから、いろいろと試したかいがあった。


 オーリエとベイトンに怪我はなく、通路を進むとやはりイングリッドとパトレアが待つ場所へと到達した。


「階段がある。上だ」

 

 声をかけると、二人が安堵の表情で駆け寄ってくる。


「なにか大きな音がしましたけど?」


 パトレアの問いに、俺が苦笑しオーリエが答えた。


「待ち伏せしてたやつがいたんです。ですが、エリオット卿のおかげでなんとか」

「こいつ、無茶はしてなかったか?」


 イングリッド……信用がないなぁ。いや、あくまでも心配してくれているからだと思い、彼女の頭をポンポンとした。


「心配かけてごめんな?」

「な! 誤魔化されないぞ!」


 頬を赤らめて照れている……。


 俺は見なかったことにして、先頭を歩く。


 階段をのぼると、踊り場で左右に別れてまた階段があるが、上で繋がっている。


 玉座があった空間から、階段でその上の階へと到達した俺たちは、広いひろい空間を前に息をのんだ。


 俺たちが立つ場所から、奥まで百メートルはあるのではないかと思う。そして、左右の壁までも五十メートルずつはありそうだ。


 中央に、台座のようなものがあり、そこには円筒状の、人ひとりが入ることができそうな棺が縦に置かれている。


 慎重に近づき、周辺を見る。


 無人だ。


 パトレアが棺を眺めて口を開いた。


「この中で、声を聞くのでしょうか?」

「……どうだろうな」


 俺はあと数メートルという距離で、棺の扉が開くのを見た。


 壮年の男だ。


 グレンダルフ!?


「お前はグレンダルフか?」


 男は、棺から出ると片膝をつき、肩で息をしながら顔をあげた。


「クリムゾンディブロ……しつこいな」

「お前らのほうがしつこい……何年前から必死なんだよ? おとぎ話を本気にして、いい大人が」


 わざと挑発すると、彼は苦笑しながら立ち上がる。


 まとう空気が邪悪すぎて、俺は前に出ることを躊躇していた。


 グレンダルフは濡れた髪を、両手で後ろへと撫でつけながら口を開く。


「我々は異端扱いされ……弱い者たちを守り続けている。何が悪い? 信仰することに罪があるのか?」

「俺は別にあんたと宗教観をどうこう話しあいたいわけじゃないんだよ」

「いや、大事なことだ、主神アロセル金竜エルミラは同一であるのに、主神アロセルを祈り、金竜エルミラを祈ることは禁止されているのはどうしてか知っているか? 金竜エルミラを倒した竜王バルボーザを、どうして邪悪な竜として蔑んでいるのかをお前らは知るまい」


 俺は心地よい緊張感に包まれる。


 現代人の記憶があるから、ラスボスが戦闘前にゴチャゴチャと能書きを垂れてから変身というパターンに飽いている。


 ゲームだけにしとけ!


 俺は魔剣イングリッドをかまえた。


 それが合図となり、パトレア、イングリッドがかまえ、オーリエとネイサンが俺の左右につく。


「いくぞ」


 俺の低い声に、全員の意識が統一される。


「グレンダルフ! 討つ!」


 俺は床を蹴った!




-Elliott-




 イングリッドが魔法を発動した。


凍王降臨アイスキュロスファブレガス!」


 俺たちを魔封盾スクトゥムで守り、グレンダルフを凍りつかせた魔法で、前衛三人は一気に距離をつめた。


聖戦サンクトゥベィルム!」


 パトレアの神聖魔法!


 疲労を忘れ、活力がみなぎる。気持ちは高揚し、負ける気がしない!


 斬撃を、氷漬けになったグレンダルフへとみまう。


 だが、何者かが俺の剣を防いだ。


 奴の背後に、人型の影が立っていて、手に持つ剣らしきもので俺の攻撃を防いだ。その影は長身で、手が四本ある。そして黒一色の姿で、翼を広げた。


 突風で吹き飛ばされて、床を転げる。


 回転し、剣をかまえながら立ち上がると、目の前に黒い影があり、斬撃に襲われるも魔剣イングリッドで防いだ。


 恐ろしい膂力で、俺はまた床を転がり逃れた。


 一瞬で、オーリエへと移動した影が、彼の攻撃を身体で受ける。


 オーリエの斬撃はすり抜け、反撃の一閃で彼の身体が胴で上下に切断された。


 上半身が前に、下半身が後ろへと倒れ、血と内臓が切断面からあふれ出す。


「危ない!」


 パトレアの声!


 俺は咄嗟に前へと倒れ、横に転がりながら剣を払った!


 俺の剣は、奴の身体を斬ることができる!


 影は動揺したように後退したが、翼を動かして瞬間移動をしてみせる。


「ネイサン!」


 叫ぶも間に合わず、彼は串刺しにされて宙に身体を持ちあげられる。


「ガ……ガガ……」


 苦しむネイサンを、影は楽しむように剣を動かして弄んだ。


気高き主バアルゼブブ!」


 イングリッドの声!


 直後、彼女の正面に現れた魔法陣から、閃光は放たれて影を襲う。


 輝きで目を開けていられず、俺は後ろへと後退しながら目を閉じ、魔法が終わるのを待つ。


 二呼吸ほどで、静かになる。


 目を開き、影が消えていると知った。


 ネイサンが倒れている。


 俺が彼に駆け寄ると、すでに死んでいた。


「エリオット!」


 パトレアの声。


 振り返り、彼女が支えるイングリッドへと急ぐ。


「大丈夫か?」

「……もう限界かも」

「あれは何だったんだ?」


 俺の問いに、パトレアが答える。


「おそらく、守護霊スピリットかと……」

「あんな邪悪な守護霊スピリットがいるのかよ……」


 ともかく、氷漬けのグレンダルフにトドメを……。


 視線を奴に転じると、氷を内側から砕く姿がある。


 奴は赤く揺れる空気をまとっているかのようで、それがイングリッドの魔法を溶かしていた。


 グレンダルフは首をならし、腰の剣をすらりと抜く。


 黒い刀身。


「これは北方騎士団で受け継がれてきた神殺しの剣だ。赤い悪魔もこれで殺してやろう」

「……」

「だが、あいつらが邪魔だな」


 奴は一瞬で、魔法を放っていた。


 風刃波ベントス!?


 イングリッドが魔封盾スクトゥムを発動したが、消耗が激しくて効果が弱かった。


 風刃波ベントスを防いだ魔封盾スクトゥムだったが、その時の衝撃を緩和させることができず、二人は吹っ飛び床を転がる。


 俺は魔剣イングリッドを握って走った。


 グレンダルフが黒剣をかまえる。


 俺の斬撃と、奴の一閃がぶつかった。


 鋼と鋼がぶつかる衝撃。


 奴の斬撃を受け止め、左拳でグレンダルフの右脇腹を狙う。奴はサイドステップで俺の殴打を躱し、水平に払う一閃を囮にした風刃波ベントスを放った。


 俺は防御魔法ディフェンシォで防ぐと同時に、魔剣イングリッドを振りあげ奴の剣を持つ手を狙う。


 グレンダルフは剣を瞬間的に離すことで、俺の斬撃を躱すと体当たりをくらわしてきた。


 肩をあてて防ぎ、奴の剣を蹴飛ばそうとしたが、蹴りを入れられて防がれた。


 お互いに距離をとる。


「苦戦してんのか? 珍しいな」


 その口調!


「カミラ! 手伝え」

「お前、パトレアの気持ちを無視する薄情者には手を貸せないなぁ……なんてな!」


 カミラが鉄棍メイスを投げ、グレンダルフはそれを剣で防ぐ手間を強いられた。


 俺が接近からの一閃をみまう。


 はいった!


 奴が左脇腹を抑えて、俺を睨んだ。その手から血がこぼれ始める。


 カミラが俺の隣に立ち、目の前でうずくまるグレンダルフの顔面に蹴りを入れた。


 おいおい……すげぇな。


「おっさん、てめぇ早く死ね」

「……残念だ」


 彼は声と血を吐くと、その場で崩れ落ちた。


 死んだ?


 俺は剣を、グレンダルフの首に差し込み、抜いた。


 反応がない。


 勝った……。


「エリオット……」


 後方からのイングリッドの声。


 振り返ると、彼女は床に寝転んだままだ。


「お腹すいたぁ」


 カミラが笑う。


「おい、あいつ大食いだな?」

「ああ」


 俺は、自然と笑うことができた。

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