デーン王国のさらに北西へ
四月十六日。
パトレアと合流した俺たちは、グーリットを出る。リュミドラは一月ほど時間をかけて、ゆっくりと確実に催淫を解除するとジャンヌが約束してくれた。
俺、イングリッド、パトレア、そしてアブダルは今回も参加してくれた。
彼のおかげで、俺たちは荷物を気にすることなく戦える。
グーリットのギルドで、メリッサから得た情報をもとに、リズ王国経由で、デーン王国に向かっている。
北方騎士団へと入った一団と、ミラーノから逃げた一行がデーン王国で合流していると模様だと教えてもらえた。
陸路だととても日数がかかるので、デーン王国まで船で行く。
アテナから船に乗ることにして、準備金から搭乗券代を払う。
リュングベル閣下、ありがとう。チケット、高いんだよ……。
船に揺られ、二日後にはデーン王国に上陸する予定だ。
-Elliott-
デーン王国は、北西諸島で最も大きいクェスタ島に都がある。
島全体が都市、農場と効率的に土地分けされていて、船から眺めると人工島なのかと勘違いしそうだ。
リズ王国のガノッザ卿が、クェスタの港で俺たちを出迎えてくれた。彼の隣にはお忍び姿の王子がいて、片膝をつこうとするも止められて握手となる。
エドワード王子は、デーン王国との間で交渉事があり、クェスタに来ていたところ、俺たちが来るというので待ってくれていたらしい。
王子が泊まっているという宿は、まさに高級宿泊施設と呼べるもので、宿泊棟まるまる借りあげていた。
兵たちがうろつくなかを、場違いな俺たち四人が進むので視線を浴びる。
「エリオット……いつ知り合ったのですか?」
パトレアが緊張した顔で問い、俺は苦笑してイングリッドと一緒に戦ったなかで、リズ王国の舞踏会で大暴れしたことを伝えた。
「よく突っ込みましたね……いなかったら死罪ですよ」
いると確信してたんだよ。
実際、いたし!
エドワード王子が、デーン王国の王子も同席したいと言っていると俺に教える。
「え? どうしてまた?」
俺の問いに、王子も首を傾げた。
「さぁ……客人が来るから今日の交渉は明日以降へずらしたが、その客人の説明をすると、彼も同席したいと。クリムゾンディブロだと言ったからかもしれないな」
こうして、王子の宿でもっとも広い部屋に通されたところで、待っていた人物が席を立った。
ラムズフェールが、上等な絹服を着ている……?
「ラムズフェール?」
「エリオット! ご無沙汰です!」
……お前はデーン王国の王子だったんか!?
リズ王国で、なにをやってたんだよ!
エドワード王子が、「知り合いだったのか?」と訊くので、経緯を話すと笑われた。
ラムズフェールはデーン王家のしきたりである、一人旅をしていたと俺たちに話した。
「傭兵だと、あちこちに移動して仕事してお金もらえるなと思ったけど、実際は大変だった。もうしたくない」
俺たちは食事を……イングリッドがお腹をすかしていたので食事をしながら話すことにする。
ガノッザ卿が、リズ王国内の聖なる騎士団に所属していた官僚や貴族をとっ捕まえて拷問で吐かした情報もあると言った。
アヒルの丸焼きは、パリパリの皮部分をタレにつけて食べて、肉は残すという贅沢な食べ方だが、イングリッドは「お肉もタレで食べる」と言い、皮を食べ終えて下げられようとしていたアヒルの皿を自分の前にたぐりよせ、俺に会話をまかせて食べることに集中した……。
ガノッザ卿の情報によると、リズ王国経由の道を使った聖なる騎士団の集団は、エルミラ半島で船を調達して北西に向かったそうだ。
エルミラ半島の北西には、古代ラーグ時代よりも古い時代の遺跡がある。
忘れられた遺跡、と呼ばれているが、実際に地図にもそう記されていた。
何がどう忘れられているのか、わからない。
ラムズフェール王子が、船を用意しようと言ってくれた。
「あの海域には、でかいウミヘビがいるからね。船を丸呑みされた被害もある。軍船の護衛をつけよう」
天才か!?
ラムズフェール! お前はとってもいい奴だ!
だけど、忘れられた遺跡に何があるんだ?
「神々と交信する術があると、聞いたことがあります」
パトレアの発言に、皆が彼女に注目する。
聖女は続ける。
「はるか昔、神々と人間が意思疎通をおこなうにあたり、おおがかりな装置を使っていたそうですが、あそこにはそれが残っているとか……巨石文明のなごりと言われていますが、それは意味がある配置だと教団では習います」
俺は、ザヴィッチ聖下と聖なる騎士団が繋がっていたことから、当然これも知られているのだと理解した。
じつは、竜王復活にそろっていないのはテンペストだけだ。
イングリッドが生かされていたのは、憑代に利用される予定だったとザヴィッチ聖下との会話で理解できた。そして彼らはきっと、自分たちを追ってくる彼女をまた捕まえようと思っている……。
次に、復活を助ける神使のヴェリガナールはすでにこの世に存在していて、あの脳内お花畑を復活させた後はどうしているのか不明だが、高い確率で聖なる騎士団と一緒にいるものと考える。
ネレスが、ヴェリガナールを復活させた時の願いは、もしかしたら単純な復活ではなく、騎士団に協力しろ的なものではないかと思うのだ……アザジールが言っていた「神使は召喚者の願いをかなえなくてはならない」という掟がこの神使を縛っているのではないか……。
では、残るひとつのテンペストの魂を、裏技的に取得できる方法が忘れられた遺跡にあるのか?
イングリッドは食べることに夢中だが、重要なことは聞いているし、考えがあるなら発言するだろう……。
となると、その確率はかなり低いと思われるが……ともかく、俺たちは追うしかない。
エドワード王子が、俺たちに部隊の派遣を申し出てくれた。
「今、護衛についている者たちの中から、腕利きを集めて君につけよう。ガノッザ、手配するように」
天才か!?
……早くリズ王国の王、二世から三世にならねぇかな!
-Elliott-
俺たちを乗せた船が、デーン王国の軍艦三隻に守られて北西へと向かう。
俺たちが乗る船には、ガノッザ卿を指揮官とする一個小隊が同行してくれていて、とても贅沢な部隊だと歓喜した。
「俺も戦いたいんだよ。悪い奴ら相手に」
ガノッザ卿の申し出に感謝しかない。
忘れられた遺跡がある島へと接近したのは、クェスタを出た翌日の昼だ。
四月二十日、正午前。
俺たちの船団は、島近海で国籍不明の軍船二隻と戦闘にはいる。
俺たちは甲板に出て、戦いを見守った。
デーン王国軍の海軍相手に、二隻でも互角にわたりあうことから、ガノッザ卿が敵の正体に気付く。
「北方騎士団だ。操船技術、砲弾の発射間隔、そうとうに訓練されている。バルティア王国とは考えられない。都市国家連邦は帝国領へ全軍船を向かわせている。北方騎士団のほかに、この海域でこれだけの錬度をもつ海軍は用意できないだろう」
弟が、兄貴を助けているのか。
父親を殺して、長男と次男がこれを始めた……。
父さんの話しぶりだと、父さんと母さんは本当のところは聞かされていなかったのではないか……父さんはきっと、本気でフレデリクの総長就任に反対していたんだ……先代暗殺の可能性があるからそうしていたんだろう……。
グレンダルフが父さんを誘ったのは、手元において監視するためだ。それは、フレデリクを疑う父さんを自由にさせておくと、長男と次男が協力して、先代を害したことが明るみになると恐れたからに違いない。
そうまでして、始めたことが何に繋がるのか……。
グレンダルフとフレデリクは、どうして竜王を蘇らせたいんだ?
竜王バルボーザ……。
主神を倒す力をもつ唯一の竜だが、今から二百年ほどまえに現れた勇者カイン・アザールによって封印された……。
誰でも知っている歴史だ。
カイン・アザールは主神と智神の恩恵をうけて、世界に混乱を齎した竜王バルボーザを……イシュクロン王国のアストリッド姫の協力を得て封じた。
二百年前、竜王バルボーザが世界に現れたのは、もしかして、当時も今と同じように、聖なる騎士団の者たちが暗躍したからじゃないか?
そして当時、勇者であったカイン・アザールもきっと、俺のように前世の記憶持ちだった? だから神、いや竜から石を授かって、その力を解放して……。
彼を助けたアストリッド姫のように、イングリッドが俺にはいる。
似ている。
繰り返しているんだ……。
聖なる騎士団が竜王を復活させる。
勇者とエルフが、協力して竜王を封印する。
周期はわからないが、繰り返している……?
ふいに、ザヴィッチ聖下の言葉が蘇る。
『彼らが活動をおこなった結果、私はこの世界においての影響力を強めることになり現在に至るが……さすがにそんなことのために竜王を何度も復活させるのはよくないと思うよ』
今回のことだけじゃない?
この周期が、彼の影響を増す?
「エリオット! 軍船が敵を引きつけている間に行くぞ! 上陸準備!」
ガノッザ卿の声に、思考を止めて甲板を走る。
ともかく、ごちゃごちゃと考えるのは後にしよう。




