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地下墳墓へ

 聖なる騎士団サンクトゥエクェスの拠点を急襲した際、円卓を囲んでいたのは八名だった。うち、二名は死んでいる。


 六名の騎士が逃げた。


 どこに向かっているのか不明だが、イングリッドはテンペストの神殿に向かったのではないかと言った。


「指輪を手に入れることができていないが、わたしから抜いた血で開くかを試したいはずだ。そしてあとは、仲間が来るまで待つ」

「その仲間は来ない。話した通りだ……」


 グーリットまでの途中で、交わした会話だ。


 俺たち三人は馬を一度、警備連隊の詰所に預けてから、俺の借家へと入った……が、ひさしぶり過ぎて、家賃を払い忘れていた!


 大家から「滞納家賃を払え!」とこっぴどく叱られて慌てて銀行へと行って……こっちはそれどころじゃないんだよと言いたい気持ちをグっと抑えて家賃を払ったところで、食いしん坊のお腹が減った……。


 イングリッドを家で休ませ、俺とリュミドラが屋台で料理を買いこみ、現在に至る……。


 四月十二日午後二時。


 さすがに強行軍すぎて、飯を食べた後は眠くなる。


「エリオット、わたしたちは寝るから風呂、行ってきていいぞ。わたしも後で行くから金くれ」


 ……イングリッド、本当に無事でよかったと思うけど複雑だよ!


 ギルドに寄って送金してもらっているはずのお金を受け取るか……。


 この送金、現金を輸送する場合もあるが、それはあまり用いられない。


 各職業の組合ギルドには、様々な預かり金がある。依頼主から預かっているものと、しょっちゅうギルドに依頼を出す行政や商会などの組織からだ。後者の場合、依頼を出していなくても、ギルドに金を預けておくことで、仕事の発注をした際に、預けている金を報奨金にあてるようにと連絡すれば金をわざわざ運ぶ手間がない。


 この連絡には、配達人たちが手紙を運ぶという方法がとられる。


 配達人ギルドは配達人たちの生命を守るところから始まっていて、例えば俺が、移動する配達人を襲うと、死ぬまで延々と配達人ギルドの仕事人アサシンに脅えることになるだろう。


 仕事人アサシンを倒せばいいという奴がいるかもしれないが、そいつは馬鹿といえる。


 歩いていて、いきなり後ろから刺される。


 食事していると、毒がもられていて死ぬ。


 寝ると、翌朝を迎えられない。


 手洗いにはいって下着を下ろした瞬間に、首をかき斬られる。


 俺たちが一般的に考える戦いとは別次元のところに、彼らは存在しているといえるので、戦って強い弱いではないのだ。


 つまり、配達人は本人が強くなくとも、守られている。


 そして、彼らが運ぶ手紙は安全なのだ。


 グーリットにも、配達人のギルドはあり、手紙の印が描かれた看板の建物がそうで、傭兵ギルドの斜め向かいだ。


 他のギルドも、近くに支部を置いているのは、連携がとられているからといえる。


 傭兵ギルドに入ると、メリッサが手をふっていた。


「聞きましたよぉ……怪物退治に不良騎士の群れ退治」

「なにか情報、そっちに入ってるか?」


 彼女は周囲を窺い、傭兵たちがこちらに注目していないとみて表情を一変させた。


 本当の顔、そっちね。


 性格悪そう……。


聖なる騎士団サンクトゥエクェスの末端構成員まではわからないけど、主だった者達は北方騎士団を追放された騎士を中心に十名、他に地域の有力者たちとも繋がっていて、リズ王国では先日、王子殿下によって二人の重臣が蟄居させられたのもその関係……」


 リズ王国は、今の豚王ことエドワード二世から、早く三世にかわってくんねぇかな。


 彼女は続ける。


「主だった騎士達は二手に別れた……エリオットは両方とも知ってると思うけど、知らないこともある。北の魔竜に向かったほう、帰還用の船で待機していた人たちが北方騎士団領に入った。もう一方のミラーノを出た人たちは、さらに二手に別れて地下墳墓に向かった人たちと、リズ王国方向に向かった人たちに別れてる」

「わかった。ありがとう。あと、俺宛に警備連隊群司令部から送金あったと思うんだけど」

「きてるよ。ちょっと待って、ヌリさぁん」


 コロリとキャラを変えてヌリを読んだメリッサに呆れていると、ヌリが現れて俺の肩を叩いてきた。


「聞いたぞ。金は預かってるよ」


 五十万!


 ごじゅうまん!


 ごごごご五十万!


 持ち歩くのが怖い……。


「出発の準備に五万だけ……あとは、リエージュのギルドに送ってもらえるか? そっちにも行くことになると思う」

「わかった」

「北方騎士団のキールにも頼むよ」

「そこまで行くのか?」

「おもいっきりズタボロにしてやろうと思ってる」

「……わかった。気をつけろよ」


 しかし、荷物持ちが欲しいな……ん?


 掲示板に立っている一人、知ってる後ろ姿だな……。




-Elliott-




 俺たちは四月十三日の朝、出発した。


 今回、支援要員としてアブダルを雇った。


 彼には荷物を運んでもらうので、戦いには参加してもらわない。


 彼は脚の怪我から復帰するために訓練中だが、仕事をしないと稼ぎがない。事情があって一人で仕事をしていたようなので、ギルドで掲示板を前に戦わなくてもよさそうな仕事を探していた彼を誘ったのだ。


 彼の脚は随分とよくなっていて、走ることはできるまでに回復はしていた。だが戦いとなると、また話はかわってくる。戦力にはならないだろう。それでも、荷物を運んでくれるのはとても助かる。というのも、食いしん坊のせいで荷物が多くなるからだ……。


 荷を担いで、俺たちについてきてもらう。それも安全を確保するまでは後ろで待機という条件だった。


 簡単な仕事だが、全く安全というわけでもないので、三万という金額設定にした。


 そして彼に預けた荷は、イングリッドの食料が八割、他二割という構成になっている……。


 こうして、四人となって墳墓へと馬を駆けさせると、その入り口で、さっそく警戒している怪しい奴らを発見する。


 いちいち質問しなくてもわかる。


 聖なる騎士団サンクトゥエクェスの下っ端だ。


 彼らは俺たちを見るなり、墳墓内に走った者、盾と剣、弓矢をかまえた者に割れた。


 迎撃しようという奴らは十人。


 俺は馬の腹を蹴り、一気に接近する。


 リュミドラが俺とは別角度からの接近を企み、弧を描く動きで待ち受ける集団へと馬を走らせた。


 イングリッドは後方で、アブダルに矢が届かないように監視している。これは彼女が、俺たちへの魔法攻撃も全て引き受けて防ぐという位置取りだと理解できた。


 いちいち叫びあわなくても、力量が高い者達はすぐにお互いの役割を果たせる。


 俺へと矢が放たれたが、イングリッドが風を操る魔法で防いでくれた。


 馬ごと突っ込み、兵たちを蹴散らす。


 反対方向から突撃したリュミドラと交差し、それぞれに一人ずつ斬り伏せていた。


 再び、反転して加速!


 剣を前に構え、敵兵たちを威嚇するように馬が駆ける。


 突きだされた槍先を叩き割り、返す一刀で敵の腕を切断する。振り上げた剣を左へと斜めに振り降ろす動作の途中で手を離した。


 魔剣イングリッドが舞い、弩を構えた兵士の頭蓋を割る。


 俺は盾で一人を蹴散らし、リュミドラが両手の短剣で左右に流血の雨を降らせた。


 俺の剣を受けて倒れる兵士へと接近し、剣を拾うと同時に馬から跳び降りる。


 着地しながら斬撃を敵に見舞った。


 肩から胸まで裂かれた敵兵が、それでも逃げようとして身体を捻ったまま倒れていく。


 残る敵兵は四人だったが、リュミドラが跳躍後の着地で一人を斬り殺し、もう一本の剣を投げていた。


 彼女の剣は、敵兵の胸に刺さる。


 わずかな時間で二人まで数を減らしたことで、慌てて逃げ出した。


 逃がすか! 馬鹿!


 追いかけようとしたが、イングリッドが風刃波ベントスを放って、二人の脚を斬り落としていた。


「ぎゃああああ!」

「脚が! 脚がぁあ!」


 のたうちまわる兵たちへ近づき、一人を斬り殺し、残った奴の胸に足を置いた。


「どうせ死ぬんだ。楽にしてやるよ」

「呪われろ! 神々はお前を決して許さぬ!」

「ああ、そう」


 そいつの首を斬った。


 ぱっくりと割れた傷口から、血と空気を漏らす男は苦しみと激痛のなかで死んでいく。


「エリオット、死体はどうする?」


 リュミドラの問いに、俺はかぶりを払う。


「ほっとけ。どうせもっと増える」


 答えて、魔剣イングリッドを振って血を払った。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] この前の話しでも誤字報告したのですが、度々リュミドラがリュビドラに変わっておりますよ
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