イングリッドだ!
カマキリの鎌が、パトレアを守ろうとしたマイケルに襲いかかる。
俺は急接近して彼を襲う鎌を弾くと、火炎弾を化け物の顔にぶつけた。
「こいつは俺が倒す。三人でナメクジを! あいつのほうが厄介だ!」
毒が問題なんだ!
パトレアが叫ぶ。
「主神の力を借りよ!」
身体が軽くなる!
マイケルが兵たちに叫んだ。
「弓矢! 掩護を!」
直後、火炎が空間を満たす。
ナメクジ野郎が、あたりかまわずぶっ放している!
イングリッドを頼んだ兵士は、彼女を守ろうと右の通路へと後退してくれた。
リュミドラがナメクジ相手に接近戦は毒をくらうとみて、距離をとっての魔法戦をしかける。
俺は彼女を信頼しているので、カマキリに集中した。
腹が弱点なのはわかる。外側は硬い殻に覆われていた。
だが潜り込むには鎌が厄介だし、左右からの迂回は衝撃波が邪魔だ。
左手の盾で鎌をうけ、斬り飛ばして突っ込むか……。
「主神の導きを我へ……」
カマキリがその声を発した直後、奴の頭上に光る輪が生まれた。
「クリムゾンディブロ、今さら遅いのだ。もうテンペストの復活は時間の問題だからな」
余裕かましてろ、虫!
俺は突進するとみせかけて、奴の鎌を誘う。
後退して火炎弾を鎌へとぶつけ、振り降ろされたところへ斬撃を見舞った。
しかしイングリッドでも斬れない。
くっそ硬い!
「もうすぐ、封印解除の鍵が届く。無駄だよ」
「それは、金の指輪のことかな?」
俺が会話につきあってやると、カマキリは動きを止めた。
「……」
「カマキリ、金の指輪なら届かねぇよ」
「……貴様、まさか?」
会話をしながら、俺は学長の言葉を信じてみようと思った。
魔将ガブリエルは魔剣に自らの血を滴らせることで、力を解放してロイ・ハギンの聖法を無効化したというところだ……。
俺は左腕の袖をめくり、鎖帷子をずらして魔剣の刃を滑らした。
すぅっと血がにじむ。
その血を、魔剣に滴らせると、刀身の色がさらに濃く変化していった。
「魔竜がしっかり持ってるぜ……炎姫歌華」
カマキリが、周囲に現れた炎の幕に驚く。その幕が中心へと収縮し、奴の身体を燃やしながら縛っていった。
「クリムゾンディブロォおおおお!」
カマキリの両眼が真っ赤に染まる。
俺は加速し、跳躍するとイングリッドを振り降ろした。
まったく抵抗がない。
着地し、距離をとった。
化け物は炎の幕によって動きを封じられたままだったが、突如、右と左に割れる。
音もなく半身と半身に別れて倒れた化け物は、大量の体液と内臓で床を汚した。異臭と腐臭で鼻がおかしくなりそうだ。
リュミドラを見た。
彼女は、ナメクジを徹底的に氷の槍と風の刃で攻撃し続け、トドメの魔法をくらわしている。
「――我の敵を滅ぼす光となれ! 光翼邪滅!」
集約された光が、ナメクジの身体に直撃した時、その軟体に大穴が開いた。
どしゃっと潰れた化け物は、自分が作りだした毒の溜まりに沈み、溶けるように広がっていく。
「強い……」
パトレアの声が、全てを物語っている。
ナメクジ相手に戦っていたマイケルが右足を火炎でやられて動けず、幾人かの兵も重度の火傷で倒れている。
俺はパトレアの肩をたたき、リュミドラを称えた。
「強いな」
「お婆ちゃんのおかげ。あいつの火炎、これが防いでくれてたから」
可愛い笑みの姫さんが、俺の頬へと手を伸ばしてきたので、なんだろうと思っていると、頬をつねられた。
「痛い!」
「早く! イングリッド」
「おう」
預けていた兵士が、仲間とともに彼女を抱えて部屋へと戻ってきた。
マントに包まれた彼女を見つめる。
「大丈夫? 何か洗脳されてたりとかない?」
リュミドラが覗き込む。
「呪いならすぐに解除します」
パトレアが俺の背後に立っていた。
「イングリッド」
優しく揺する。
彼女は、「うぅ」と唸ると、目をうっすらを開けた。
「イングリッド! 俺だ。エリオットだ」
「え……リオット?」
「そうだ。遅れてごめん」
彼女の目が、俺を捉えた。
「エリオット……お腹すいたぁ」
俺はたまらず抱きしめた。
イングリッドだ!
俺の相棒のイングリッドで間違いない!
父さん、母さん、ありがとうございました。俺は相棒を助けることができたよ!




