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指輪

「リュミドラ! 突っ込む!」

「はい!」


 駆け出した俺に続くリュミドラ。


 俺は父さんを追い越し、同時に叫んだ。


「父さんは母さんを!」


 何か叫ばれたが、俺はもう聞こえていなかった。


 扉が開ききるより先に、俺は呪文を詠唱する。


 二度目は勝つ! 一度目で化け物のことはわかっていた!


「智神ガリアンヌの恩恵! 魂の根源! 闇の中の息吹! 神々の嘆き! 光さえ逃がさぬ世界! 全ての創造の根源! やがて全てを飲み込む終末! そして解き放つ世界の粒子! 竜と人と神の世界を裂く光! ときの中に潜む王! 明けの明星ルキフェル!!」


 扉が開き、大怪獣ベヒモスが解き放たれて空間へと突進した直後、奴の身体へと黒い球体が落ちた。


「グォモコガカアアアアア!」


 身体を黒い球体に捻じられ、激痛で叫ぶ巨大はそれでも前進して突っ込んでくる!


 リュミドラが、呪文の詠唱の最後を叫んだ。


「いざ参れ! 集え! そして戦え! の敵を滅ぼす光となれ! 光翼邪滅アガリアレプト!」


 光る球体がリュミドラの正面に現れると、幾本もの光線が放射された後、全てが大怪獣ベヒモス目掛けて集約されていく。


 化け物の頭部へと直撃した彼女の魔法で、大怪獣ベヒモスはつんのめって床へと顎をぶつける。石板らしきものが砕けて散り、大量の埃が宙を舞った。


「ゴォオ……ゴォオ……」


 化け物が立ちあがる。


 俺の魔法で胸と背を激しく破壊されて血と内臓をボタボタと溢しながら、後ろ足をガンガンと地面にぶつけた。


 頭部の右半面はリュミドラの魔法で焦がされて、骨がのぞくほどのダメージを受けていても戦意は旺盛だ。


「隧道のやつよりでかい!」


 リュミドラが叫ぶ。


 だけど……。


「狭い空間なら苦戦するが、ここでは俺たちに有利だ」


 俺は右に動き、彼女が左へ走る。


 それぞれに火炎弾フレイム氷槍バラスを化け物へぶつけながら間合いを計り、加速しようとする奴の背に俺が跳躍した。


 リュミドラは奴の右肩へと短剣を突き立てるも、硬い皮膚で弾かれた。


 駄目だとわかると、彼女は素早く後退する。


 俺は傷ついた奴の背に、イングリッドを突き立てる。


 大怪獣ベヒモスはそれでも止まらない!


 奴は、父さんと母さんの方向へと走った。


 父さんが風刃波ベントスを放ちながら母さんを運び、大怪獣ベヒモスから直角に逃げる。


 俺は振り落とされないように剣を握り、雷撃トニトルスを剥き出しとなっていた背骨にくらわした。


 ガクンと跳ねた巨体が、統制を失ったように足をもつれさせて倒れる。


 俺は剣を抜いて飛び降りた。


 床を滑り、壁に激突して空間を揺らした巨体は、立ちあがらないが胸がゆっくりと上下している。


 トドメをさす。


 油断せず近づき、首へと剣を突き立て、引き裂いた。


 太い血管を破ったことで、大量の血があふれ出す。


 俺は返り血を浴びないように距離を取ったが、左半身は化け物の血で濡らされた。


 中央の扉が開きはじめる。


 さらに奥へと進む階段だろうと思っていた。


 扉にもっとも近かったリュミドラが、慌てた様子で跳躍して扉と距離をとる。


 リュミドラが睨む先で、扉は開ききると階段がみえた。


「下……」


 父さんを見ると、肩の負傷で動けない母さんを抱えている。


 近づこうとしたが、父さんに剣先を突きつけられた。


「父さん……」

「親子ではない!」

「魔法具を取ってきてやる。その代わり、イングリッドの居場所を教えろ」

「……」

「ここで待ってろ」

「五層にある! 指輪だ!」


 父さんの声に、俺はうなずきを返して階段へと駆ける。


 リュミドラが、俺が並ぶのを待って走った。


「エリオット、いいの?」

「いい。これしか今、ない」


 俺は決めた。


 イングリッドを助けるためだ。




-Elliott-




 三層から四層へと階段を降りる。


「エリオット、竜、怒らないかな? 約束を破った」

「怒られてもしかたない……でも、今さらだ」

「うん……」


 階段を降りながら、水を飲む。戦いが続いて身体が水分をもっと寄越せと言っているが、飲み干すのはよくない。


「水、まだ残っているか?」

「大丈夫」

「最悪、自分の小便を飲むことできるか?」

「……」

「わりぃ」


 できたとしても、答えたくないよな……。


 四層に到着する。


 この神殿は、真下へとずっと続いているのだろう。


 四層の空間は三層ほどではなく、石像がいくつも並ぶ部屋だ。段差があり演劇場のように中央が低い。天井付近には梁が剥き出してで、工事途中であったのかと思うような場所である。そして石像たちは皆、武器を持って止まっていた。


 あれがいきなり、動きだすなんてな……。


 リュミドラが、俺の背に背をつける。そして、両手の短剣をゆらゆらと揺らし、それで壁が発する光をあちこちに反射させて敵の反応を探りつつ囁いてきた。


「ゴルゴーン三姉妹のおひとりがいらっしゃるのではないかな?」

「……メデューサはオークトー大墳墓、ステンノーは北壁の巨穴……エウリュペレだけ居場所が不明だったな?」

「この石像たち、戦っていたような気がす――」


 彼女は短剣を動かした。


 キン! という音で矢が床に落ちる。


 どこかで、シシシシシシ……という音が鳴った。


 明るいのに、見えない……。


 擬態か……。


 擬態を見破ろうと見つめていると、見つめられて石になる……。


「リュミドラ……自分と俺に魔封盾スクトゥムをかけられるか?」

「少し時間をくれれば」

「やってくれ。矢は俺が防ぐ」


 俺は手の動きで、部屋の入り口まで後退を指示した。


 彼女に背をピタリとつけて、リュミドラの動きで方向を知り、入り口付近に立つことで敵がいる範囲を半円に絞った。


 耳に意識を集中させる。


 矢であれば、かならず音がする。


 風をきる音!


 盾で矢を防ぐ。


 地面に落ちた矢を見ると、鏃が赤い……。


 自分の血を塗っているな? つまりそれは毒か。


 シシシシシシ……と十時の方向から音がする。


「エリオット、できた」

「維持してくれ」


 俺は、イングリッドの戦法を真似る。


「その凄まじい力は世界を覆い冬をもたらす。全てはそなたのために膝をつき、平等なる裁定にこうべを垂れよう。一切の迷いなく世を止める断定。全てを漏れなく包みこみ愛すべし。凍王降臨アイスキュロスファブレガス!」


 身体から一気に力を抜かれる感覚で、俺は膝から崩れた。


 イングリッド……こんなやばい魔法を使ってたのか!


 部屋が、白一色となる。


 空気が冷気で急激に冷やされたせいで、ピーンという音が耳に残っていた。


 リュミドラが俺を助け起こしてくれた。


「あそこ」


 彼女が示す方向、正面奥の天井付近に、壁にはりつくようにそれはいた。頭部は髪が蛇である美女は、蛇の下半身をたくみに使って梁からぶらさがり、弓をかまえようとしていたようだ。


「すぐに動けない。倒してもらえるか?」

「まかせて」


 彼女は氷槍バラスを発動させて、ゴルゴーンを串刺しにすると、接近して短剣を氷漬けの化け物へと撃ちこみ、首を斬り落とした。そして頭部へと短剣を突き刺し、火炎弾フレイムを発動させて頭部を完全に燃やした。


 奥の扉が開く。


 俺は、リュミドラに支えられて階段を下へと降った。




-Elliott-




 五層は五メートルほどの辺で構成された立方体の空間で、中央には湧き水がつくった池がある。その池は浅く、一番深い中央部分でも足首がつかるほどだ。そして中央の底に光るものが落ちていた。


 指輪だ。


 なんの変哲もない金の指輪。


 池の奥に台座があり、そこには大きな壺と小さな壺が置いてある。


 水に仕掛けがあるのかと思い、床の石板をナイフで削って欠片を池へと投げた。


 何も起きない。


 リュミドラに支えられて池へと入り、指輪を拾う。


 ここで、入ってきた出入り口が上から落ちてきた岩壁に防がれ、反対側の扉も開かない。


「なんだ?」

「どうやって出るんですかね?」


 部屋の隅へと移動し、指輪を眺める。


「これが、魔法具?」

「魔法の道具は、見た目は重要じゃないよ。中身だもん」

「さすが……学長の孫」

「けっこう詳しいんだぁ……見せて」


 渡すと彼女はしげしげと眺め、細かく刻まれた古い文字を読む。


「これ、古い文字……ラーグ文字よりももっと前の……竜言語」

「読めるか?」

「……四ファリットの水を捧げよ」


 水を捧げる?


 リュミドラが、台座に置かれた壺を見る。


「あれ、そうじゃない?」


 二人で台座の壺へと近づき、中を見るも空だ。


「四ファリットという単位はいくらなんだろう?」

「わからないけど、この壺を使って作れってことじゃない?」


 だったら簡単だ。


「それなら、簡単だ」

「本当に!?」


 俺は大きな壺が五、小さな壺が三、だと考えた。大きさ的にもそうだ。


 だからまず三の壺を水で満たす。これで、三ファリットの水ができたということになる。その三ファレットの水を五の壺にうつし、三の壺いっぱいに水をくむ。それを五の壺いっぱいに注ぐと、五の壺にはすでに三ファレットの水が注がれていたので、三の壺には一ファレットの水が残る。


 俺は五の壺の水を全て捨てて、三の壺に残っていた一ファレットの水を五の壺にうつし、三の壺いっぱいに水をくんで、五の壺に全てをうつす。


 三と一で、四ファレットだ!


 扉が開き、戻る道を塞いでいた石壁も開いた!


「すごい! エリオットすごい!」


 いや、現代人だったから知ってたんだ……答えをね。


「戻ろう。指輪を渡して、イングリッドの居場所を話してもらう」

「うん、さ、つかまって……肩かすよ」

「いや、もうかなり回復はしてきたから」

「いいの。もっとちゃんと体力を残しておいて。無理するところじゃないよ」

「すまない」

「いいの、いいの。あ……汗臭かったらごめんね」

「馬っ鹿、旅して戦って……汗かくの当たり前だし、俺のほうが臭いだろ」


 肩を借りて、歩きだす。


 階段をゆっくり上る。


 たしかに、回復してきたというのは嘘だ。


 あの魔法……初めて使ったからというのもあるだろうが、とんでもなく体力と精神力を削られた……。


「臭くない?」


 リュミドラはやっぱり女の子なんだな、と思う。


「いや、いい匂いだ」

「だー! もう! やだ!」


 痛い!


 つき飛ばれて、壁に激突した……。


「あ! ごめん! 大丈夫? しっかり!」


 ……。


 回復していたが、台無しになるくらいダメージを受けた……

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 最初のツボに水残ってるから移したらら5に戻りますね 一旦捨てるか最初から3に水入れるかですね
[一言] 残党って赤竜の島ですでに死んだ人達じゃなくて 広く半島で暗躍しつつ、今でもイングリットを確保してる人達の事ですよねえ この面白い物語を書いてる人と、感想欄でトンチンカンな返答してる人が同一人…
2021/12/17 23:22 退会済み
管理
[一言] 父母は殺して残党に聞いた方が良いんじゃないかねぇ……
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