戦いはどうなった?
イヴァノフが帰ってきたのは、かるく二時間は経過したころだ。砂時計の担当をリュミドラと交代でしていたが、俺の番の時にひっくり返し忘れていたことが二度あったので、じつは怪しい……。
「新発見」
彼はそう言うと、短剣の先で足元の石板を削って隧道の様子を描く。
「隧道の途中、でかい横穴があったが崩落して塞がっていた。あいつ、そこから隧道に入ったはいいけど、横穴が崩れて戻れなくなっているんじゃないか?」
「……なるほど!」
「その横穴へは、ここからどれくらいなんです??」
「俺、どれくらい離れていた?」
イヴァノフの問いに、リュミドラが砂時計を見て答える。
「二時間くらいです」
胸が痛い。たぶん、本当はもっと……。
「では一時間くらい歩けば大丈夫だが……今から出ると引きかえしてきた化け物と出くわすかもしれない。もう一度、ここでやり過ごしてから行こう。途中に小部屋があったけど扉が鉄製で閉じていて中には入っていない。隠れるなら、今のところここしかない」
こうして、俺たちは小部屋で再び待機となる。
「こちらへと奴が戻ってくるまでの時間で、往復する時間がわかるな」
イヴァノフは言い、水を飲む。
リュミドラが、床に描かれた図面を見て口を開く。
「横穴を復活させるんですか?」
俺がうなずくと、彼女は苦笑した。
「でも、どれくらい崩れているのかわからないですよ。疲れ果てるまで魔法を撃ち続けて、大怪獣が帰ってきたら終わりですし、爆発でまた崩れたらもっと最悪じゃないですか?」
そうなんだよね……だけど、実際にその場に行ってみて確かめたいじゃないの!
「けっこうな厚さで土砂が穴を塞いでいるなら、別の方法を考えよう。もし、穴を復活できれば大怪獣はそちらへお逃げくださるかもしれないだろ?」
俺の希望は、大怪獣と戦うよりもよっぽど可能性があるはずだ。
見張りに交代でたち、交代で休んでいると、ディハーンが見張りの時に大怪獣は隧道南側へと戻ってきた。
時速四〇キロ? は出ているか? 時間にして往復で五時間? 俺は自分のせいで正確な時間がわからないことを後悔する……反省。
隧道、二百キロメートルもあるの?
いや、それはさすがに考えにくい。
大怪獣を観察していると、今度はしばらくその場でゴソゴソとなにかをしていた。
?
あちこちを嗅ぐような仕草。
俺たちの匂いか?
全員で固まって、呼吸も小さく浅くする。
十分、二十分? それくらい動かなかった大怪獣が、くるりと反転してまた北側へと走っていく。
あいつ、ところどころで止まっているのか……だとしたら、ずっと走り続けているわけじゃないから、やっぱり二百キロメートルってのはないな。
山脈そのものの南北の長さでいえば、狭いところで五十キロ前後だ。やはりそれくらいの長さだと思うべきだろう。
「行こう」
イヴァノフの声で、俺たちは出発した。
-Elliott-
途中にあった鉄製の扉は、攻撃魔法でこじ開けることもできるが体力温存を優先して無視した。
奥へと一時間弱、進んだところでイヴァノフが止まる。
大きな横穴がたしかに開いていたが、すぐに行き止まりで砂利と砂で埋まっていることがわかった。
「これは……掘れないな。仮にこれをぶっ放してもすぐに上から次々と崩れてきて駄目だろう」
俺の感想に、イヴァノフも落胆する。
「やはり駄目か……」
さて、どうしよう……?
???
ドドドド……という音が近づいてきている!
「おい、カバが戻ってきた!」
「逃げろ!」
俺たちは来た道を一目散に逃げる。
ここは撤退して、必要な人員と道具を集めないと無理だ!
だが大怪獣はあっさりと俺たちへと追いついてきた。
お前はずっと走ってて疲れないのかよ!
俺は火炎弾を後方へと放ち、剣を右手に握る。
俺の後ろへとイヴァノフが移動し、弩に矢を装填した。彼はリュミドラを守るように立つ。そしてディハーンが俺の隣で反転し、長剣を左右に煌めかせる。
火炎弾を浴びた大怪獣だったが、鼻を鳴らしただけで意に介さず接近してくると、俺たちと五メートルほどの距離で止まる。
前足からは鋭い爪が露わとなり、後ろ足は石畳を蹴っている。
吹き飛ばされると死ぬしかない。
直後、大怪獣がグン! と加速した。
巨大な角、怒りで赤く染まった両眼が間近へと迫る。
まずい!
「うらぁあああああ!」
ディハーンが雄叫びをあげて長剣をふり、大怪獣に振り降ろした瞬間、長剣が弾かれて宙に跳んだ。
俺は剣を一閃しつつ、雷撃を発動させようとしていたが、その直前、巨体はすでに俺の身体を顎ですくいあげていた。
激痛!
意識が飛んだ。
-Elliott-
あれ?
俺は隧道の中で起き上がる。
無事だ。
だが、俺の革鎧は砕けてしまったようになくなっていて、鎖帷子もちぎれてしまったようだ。
シャツもない。
というか、裸だ!
荷物……荷物がある小部屋に着替えが……。
あれ?
俺は、頭の角を引っこ抜かれて死んでいる大怪獣の骸が目の前にあることに動けなくなる。
二本の角が、化け物の近くに転がっている。
角が生えていた場所には大きな穴が開いていて、そこから血液を流している化け物は死んでまだそう時間がたっていないとわかった。
イングリッド……イングリッドを持ってない!
あった!
化け物の首に刺さっていた。
俺はイングリッドを引き抜き、鞘を探す。少し離れた地面に落ちていた。それを左手で拾おうとした時、左手にずっと何かを握っていることに気付いた。
竜の命の欠片だ。石は不気味な光を揺らしていた……初めて見る変化だ……首から下げていた革袋……なくなっている。
そうだ……仲間は? 三人はどこだ?
リュミドラは? イヴァノフは? ディハーンは?
逃げたのか?
……ディハーンがいた。
倒れている!
駆け寄り、助け起こそうとしたが、生きていないことがわかる。
腹に大きな穴が開いていて、助かるやつはこの世にはいない……。
見ると、少し離れたところにイヴァノフが倒れていた。そして、彼の後ろにリュミドラも倒れている。
イヴァノフに駆け寄ると、意識があったが致命傷であることがわかる。
右肩から胸までの肉が抉れて骨がみえている。内臓もやられていた。
「大丈夫か?」
イヴァノフは俺の顔を見て、なにか言いたそうだったが血を吐いて呼吸をとめる。
リュミドラ……怪我はない?
ディハーンとイヴァノフが盾になったのか……。
リュミドラは息をしていた。
俺は彼女を背負い、小部屋まで戻るとまず服を着る。そして、気絶しているリュミドラの甲冑を脱がし、軽くすることで彼女を背負った。
とにかく今は、彼女を街へ運ぶ。
……何が……あったんだ?
-Elliott-
リュミドラをギルドへと運びこみ、他の荷物も俺が取りに行った。
彼女をみた医師は、大きな外傷もないので大丈夫だと言っていた。そしてその通りに意識を取り戻した彼女だったが、ここ数日の記憶をぽっかりと無くしていると言う。
「あれ? どうなったの? あれ? わたし、エリオットたちを追いかけたんだけど。なんで寝てるの?」
俺も答えられない。
だが、イヴァノフとディハーンの死はわかっている。
二人を犠牲にして、仕事は完了したことを爺さんに伝え、その足で南の防御壁まで向かった。
胃が痛い……。
鉄爪の傭兵団の代表マーカスと、ディハーンの上役だったギュネイは俺の報告をうけて、俺の腹と顔に一発ずつ入れた。
「エリオット……教えてくれてありがとう」
マーカスは、俺を殴ったあとに抱きしめてそう言う。
ギュネイも、俺の腹を殴った後に肩を抱いて感謝をしてくれた。
「教えてくれてありがとう。よく無事で帰った」
俺は「すまない」と謝り、金のことを二人に話す。
「二百万、それぞれに間違いなく出す。受け取ってくれ。どうするかはあんたらに任す」
二人の代表は頷く。
仲間に死なれるのはつらい……だけど、俺よりも彼らのほうが辛いはずだ。
これまで一緒にいたんだから……。
……きりかえるしかない。
今までも、縁があって同じ仕事についたパーティーを失ったことはある。戦場では、隣の奴が死んだりもした。
それでも俺は生きている。
きりかえるんだ。




