二人で帰る
なんとか動けるようになり、二人で支え合って立った。
若者たちの死体を懸命に階段の場所まで運び、炎の魔法で燃やした。どの死体も乱暴されて、犯され、殺されたことがかわるものばかりだった。
俺は剣士の死体を蹴り飛ばし、フードの男の死体を踏みつけて叫ぶ。そうして感情を落ち着かせてから、ライティの遺体を運び、階段へと置く。
迷ったのだ。
准教授の前まで運んでやるべきか、否か。
「イングリッド、どうしたらいい?」
俺は、悩みを相談した。
彼女は少し迷い、炎の魔法を発動させた。
「お前にはやらせない」
彼女の気持ちに感謝し、ライティの死体が燃え尽きるまで見守る。
さぁ、帰ろう……。
美味しいものを食べたい。
いや、その前にお風呂だ……。
「エリオット、ちょっとつき合ってくれ」
「なんだ?」
「隠し部屋だ。お前に渡したいものがそこに保管されている」
そういえば、言っていたな!
その部屋は、九層と十層の中間に存在していた。
壁へ、彼女が手を翳す。すると、封印の間の出入り口が降りてきた天井で塞がれ、代わりに目の前の壁面に出入り口が現れた。
「魂を封印してからでないと、入れない。本来はここで休んでから上にあがる」
俺はそこで、理解した。
彼女がヒュドラを倒しておこうと言った理由を、だ。
彼女はあの時、俺をつき飛ばして魂の間から追い出している。つまり、最悪はそうする覚悟があったということだ。そしてその際、俺は一人で来た道を戻る……。
満身創痍だった場合、ヒュドラに襲われたら危険だ。
イングリッドは、そこまで考えてくれていた……。
俺は感謝を伝えたくて、前を歩く彼女の髪をクシャクシャと撫でた。
「ちょ! 馬鹿! 汚い手で触るな!」
「ありがとうな」
「感謝は当たり前だ。とってもいいものだからな!」
いや、それへの感謝ではないが、まぁいい。
いちいち言うことでもない。
イングリッドに続いて部屋に入ると、埃にまみれたベッドが四つ、裸で置かれている。そして甕や壺が部屋の隅にあり、暖炉もあった。しかし使い物にはならないだろう。
彼女が部屋の奥、扉を押し開ける。
「武器庫だ」
入ると、槍や剣、盾などがずらりと並んでいた。そして驚くのは、全てが新品のようにピカピカであることだ。
「これは!?」
「魔法で強化された武具だ。お前に贈りたいのはこっち……いい剣があるんだ」
剣!
ちょうど折れたんだ!
イングリッドが、一番奥の埃まみれの箱を開ける。
一振りの剣が、そこにはあった。
俺は、手を伸ばすことができないほどに緊張している。
鞘は赤い縁取りの黒で、柄は血に濡れたように赤い。
イングリッドが大事そうに両手で取り、その剣を俺に差し出す。
「もう銘は忘れられて語られていないから、わたしもどういう剣なのかわからない。だけど、お前に似合うはずだ。抜いてみてくれ」
俺は頷き、剣を抜いた。
刀身が深紅の片手剣!
すごい!
まったく錆びていない!
「これ、どんな魔法で強化されているんだ?」
「わからない。だけど、わたし達には少し重い。お前なら似合うし扱えるだろ? 使ってほしい」
「イングリッド、本当にありがとう」
「なに、安く働かせた詫びだ。わたしの持ち物じゃないし」
すごくかっこいい剣だ!
名前がないのか……。
名前、つけたいなぁ。
-Elliott-
一月十三日の昼、グーリットへと帰ることができた。
空腹に耐え、二人で励まし支え合って辿りついた時、抱き合って喜んだ。
そして生ガキで殺されそうになったラングレ亭へと入り、生ものを避けて注文をする。
「この前はごめんねぇ! 聞いたよ! 本当にごめん! 仕入れ先も謝りたいって!」
女将さんいわく、生でいけるやつと、焼いて食べるやつを間違えていたと……。
「他に被害者は?」
「カキを生で食べるなんてこわくてできないからね、あんたらだけよ」
おい!
おいおい!
それを言うか!
だけど、五回分の食事無料券なるものを出してくれたので文句をいわないことにした。
白ワインに、ヒラメのムニエル、タイの切り身の塩焼き、根菜と牛すじ肉の煮込みなどなどを四人前頼み、届いた料理をかたっぱしから平らげる!
イングリッドの手の動きが速い! どれに手を伸ばすかの判断もまるで戦闘中のように正確だ!
「モグモグモグモグモグモグモグ……スズキのパイ包み焼き追加で!」
イングリッドが、オススメが書かれた黒板を眺めて追加を頼む。
なにそれ!? うまそう!
その日は食べに食べた。
それから二人で荷物を家に置いた後、簡単に着替えて公衆浴場へと入る。
俺が風呂から出ると、彼女が屋台の前で串焼きをガン見していたので、豚肉とキノコを二本ずつ購入させて頂いた……。
細いのによく入るわ……。
-Elliott-
一月十四日。
イングリッドはオメガに話があるというので、俺はヴィンセント卿への報告をするために、評議会館へと入る。
彼は約束がなくてもすぐに会ってくれた。
「いや、大変だったみたいだな?」
ヴィンセント卿が開口一番、そう言って笑う。
「あれ? まだ誰にも何があったか話してはないが?」
「昨日、グーリットの端っこで、二人で抱き合って泣きながら喜んでたろ? よっぽど大変だったんだなって評判だ。それに三日前、これがグーリットの評議員代表宛てに届いた」
「……」
見ると、リズ王国の行政府からの書簡だ。
内容を確認したかったが、先に質問をされた。
「で、どうだった?」
「あの事件に関することから、ちょっと厄介な情報まである」
俺は、シャーロットを追うことで関わることになった聖なる騎士団の話を聞かせた。
「……騎士団ねぇ」
ヴィンセント卿が顎を撫でながら唸るように声を出す。
俺はロジェが出してくれた珈琲を飲み、思うところを口にする。
「魔竜を復活させたがったり、屍術を操ったり、ロクな奴らじゃないことは確かだ。あんたの周りにもいたりしてな」
「おいおい……しかし手を打つ必要があるな……ある。来月、ミラーノの中央評議会に行く用事があるから、そこで執政官に相談してみよう」
「よろしく頼む……不幸なことはしばらく勘弁だ」
「それと、この内容、本当か?」
俺へと、リズ王国から届いた書簡が差し出された。
読ませてもらう。
……。
「本当だ。リズ王国の騎士身分を得た。それと永住権も……」
「王子殿下直筆の署名だ。飾らせてもらいますよ、騎士殿」
「……リズ王国から、援軍の派兵はない?」
「レーヌ城塞の防衛か……あの豚王じゃあな……エドワード殿下は文武に秀でた方と聞いたがどうだ?」
「それは本当だ。あの国は今はアホが王だから期待できない。軍も一部だけが優秀だが、多くは頭が悪い奴らばかりだ……だけど、もうちょっと我慢だ。多くのことを王子が取り仕切り始めているっていう印象だから、実権はゆるやかに王から王子へ移行していくだろう」
それからリズ王国に関する質問をいくつかうけて答えた後、ヴィンセント卿がまだ公になっていないがと前置きをして教えてくれた。
「来月、傭兵募集がある。参加するだろ?」
「する。防衛か?」
「いや、上陸作戦だ。海軍と協力して、帝国支配地域へと陸軍を上陸させて敵の兵站を叩きまくると聞いている。上陸地点など詳しいことはまだ降りてきてないが、もうすぐ報せは入るだろう。参加してくれ」
「ああ、化け物と戦うより帝国と戦うほうが楽だ」
「頼もしい!」
「ギルドに寄って、報酬を受け取らせてもらう」
「ああ、傭兵の応募、絶対だぞ!」
片手を挙げて応えると、彼の執務室を出る。ロジェが書類を抱えて歩いていたので、持ってやった。
「捜査課に行きたいの! 助かった!」
警備連隊本部の捜査課へ、ロジェの書類を持って入った時、セバスチャン・ラウドと目があった。
瞬間、思い出す。
フードの男……どっかで見た顔だと思ったら似ているんだ、セバスチャンと……。
もしかして、セバスチャンの親……行方不明のままのネイサン・ラウド?
フードの男は、ネイサン・ラウドだった?
奴は、ネイサン・ラウドだったのか?
「もう! エリオット!」
「あ?」
あ! 書類を落としてしまった……。
「悪いわるい」
拾い集めてセバスチャンへと渡す。
「お疲れ様です! 大変だったみたいですね!」
「ああ……いや、本当に大変だった……」
いろんな意味で、大変だったんだ。
評議会館を出て、大学へと向かいながら考える。
准教授に会うのは気が重いが、逃げるわけにはいかない。
そしてラウド親子……息子は知っていたのか?
妻は? いや、捜索願を出したのは妻だ……息子はどうだったんだろう?
これがまたおかしな事件に繋がらなければいいが……。




