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王子との出会いと竜の魂

 エドワード王子は長身で黒髪のイケメンだ。典型的な王子様といえる品のよい人でありつつ、俺のような傭兵を見下すこともしない……ま、助けているからかもしれないけど、物腰も穏やかで好感がもてる。


 俺たちはそれぞれに風呂を借りて身体を洗い、衣装も用意されたものを着て、王子が待つ部屋へと案内された。


 彼は女性と一緒に待っていた。

 

 食事が用意されていて、イングリッドが目を輝かせる。


「恩人に大したもてなしもできず申し訳ない」

「いえ、ありがとうございます」

「僕はエドワードだ。彼女は侍女のマリン。君たちの名前を聞かせてもらえないか?」

「お許しをえて申し上げます。俺はエリオットです。都市国家連邦のグーリットで傭兵をしています」

「わたしはイングリーンウッディザハフォーディ。イシュクロン王国のフォーディ族のおさの娘です。イングリッドでお願いします」


 食事をしながらと言われて、言葉に甘えた。


 たしかに空腹だ。


 牛肉のステーキ、季節の野菜のサラダ、スープはこれなんだ? めちゃくちゃうまいぞ……焼きたてのパンは柔らかくて噛む必要がない!


 料理を一度に運ばせて、それに品数もおさえての用意を命じたのがこの王子なら、とても頭がいい人だと思った。


「亀のスープは体力回復にいいらしい。それと肉は血になる。足りないようなら言ってくれ」

「いえいえ、十分です、イングリッドも大丈夫だろ?」

「お肉、おかわりしたい」

「わかった。すぐに焼かせよう」


 ……。


 王子はシャーロットが現れた直後から記憶がなく、気付いたら俺に頬を叩かれていたと言った。


「申し訳ございません。緊急事態でしたので」

「わかっている。あの状況、そのあとの戦いを見ればわかる。参加者に不幸な犠牲者が出たが見舞金を出そうと思う。もちろん、貴公らにも謝礼金を払いたい」


 やった!


 微妙な黒字から、一気に大黒字だ!


「あの化け物はなんだったのだ?」


 王子の問いは、興味から、というわけではないとその表情でわかる。


「お耳汚しになると思いますが?」

「僕は身をもって経験をした……あのようなことをする化け物が、王宮に現れたことがそもそもの問題だ。舞踏会で、さらに僕でよかった。あれが父上の命を狙ったことであったらこの国は終わっている」


 きっと、あんたのほうが国にとっては大事だろうと思うけど……。


「少し話は長くなります……そもそもの始まりは……」


 俺は、昨年の夏から始まった一連の事件を王子に話す。そして、聖なる騎士団サンクトゥエクェスと呼ばれる組織が存在することも伝えた。テンペストの件はイングリッドに話してもいいかと尋ねると、あっさりと了承したので隠さず教えている。


 エドワードは秀麗な顔を歪めて考え込んだ。


 俺は残っていた料理を平らげ、水をおかわりする。


 この水が信じられないくらいにうまい!


 河の水ではなく、北、東、西の三方に存在する山脈の地下水を汲みあげて、都まで運ぶ水道を整えているからだと侍女が教えてくれた。


 王子がそこで手を叩くと、外から一人の騎士が現れて片膝をつく。


「ガノッザはいるか?」

「はい」

「ここに来てくれと伝えてもらいたい」

「承知しました」


 騎士が去り、王子が口を開く。


「我が王国の主席魔導士で、近衛騎士団の筆頭騎士も務めるガノッザを紹介する。今の話の中で、聖なる騎士団サンクトゥエクェスに関するところをもう一度、話してもらえたらありがたいがお願いできないか?」

「もちろんです」


 俺も、丁寧にお願いされたら快く応じるんだ。


 いつも面倒がってるわけじゃない。


 おかわりの水を飲みながら、都市国家連邦に関しての質問に答えているとガノッザという人物が姿を見せる。


「お待たせしました」

「ガノッザ、掛けてくれ。二人を紹介しよう」

「失礼します。ガノッザ・アルベルティーニと申します。今夜の件、本当にありがとうございました」


 彼は完璧な一礼をし、王子の勧めで腰掛ける。円卓を四人で囲み、珈琲が運ばれてきたところで王子が口を開く。


「都市国家連邦のエリオットどのと、イシュクロン王国のフォーディ族のイングリッドどのだ」

「再度、お礼申し上げる。殿下に万一のことがあったらこの国は終わっていた。本当にありがとう」


 このおっさん、わかっている。


 ガノッザは四〇過ぎの男性で、黒い短髪に均整のとれた体格の武人だ。主席魔導士ということは魔法のほうもかなりやるのだと思われる。


 おれは王子に促されて、聖なる騎士団サンクトゥエクェスに関係する部分を改めて説明した。


 ガノッザが腕を組む。


聖なる騎士団サンクトゥエクェス……少し探らせてみましょう。無警戒であったので情報がまったくありませんが、探れば何かしらの情報は得られるでしょう。そこから辿れば……」


 俺は懸念を口にした。


「ですが、貴国に……害を与えると決まったわけではありません。今回のことはあくまでも、組織内のはねっかえりが暴走した結果と思われます」

「エリオットどの、そうだとしても僕は放置しない」


 王子の断言に、俺もイングリッドも目を丸くした。


 容姿は貴公子で物腰も穏やかだが、本質は武断なのだ……。


 王子は言う。


「そのような組織が、仮に我が国にも根を生やしていたとして、我が臣民が安心した暮らしができるか? ガノッザ、これは他所の国の出来事ではないだろう……その組織はきっと国境にとらわれていないであろう」

「は……目的が何であるかは不明ですが、まずその魔竜とやらを復活させて何がしたいか……そこに聖なる騎士団サンクトゥエクェスの狙いがあると考えます……エリオット卿」

「卿は、やめてください。俺は騎士でもなんでもありません」

「あれ? 殿下、まだお伝えしていないので?」

「ああ、大事な話を先にと思って……エリオットどの、貴公にはリズ王国の騎士ナイトの身分を受け取ってもらいたい。またリズ王国の永住権もつけるゆえ、いつでも好きな時にリエージュに帰ってきてくれたら嬉しい」


 !!!!!


 !?!?!?


 驚いた!


 いや、騎士なんて柄じゃないが……父さんを思い出した。


 父さんは、どこかの国で騎士だった。騎士で魔導士だったと言っていた時の父さんは、とても誇らしそうにしていた。


 俺が騎士になったら、喜んでくれるに違いない。


 いつか再会して、騎士になったと伝えて笑顔を見せてくれたら嬉しい……それから父さんと母さんを家に迎えて……。


「エリオット、受けないと侮辱だぞ?」


 イングリッドに小声で催促されて、慌てて席をたち、その場で片膝をつく。


「謹んでお受けいたします」

「よかった。なに、リズ王国にずっといてほしいという意味ではない。そうしてもらえたら嬉しいが、それは無理な願いであろうし……イングリッドどの、そなたはエルフであるから騎士ナイトという身分は困るだけであると思い、別のものを用意しようと思ったが、望むものがわからない……愚かな人間ですまないが、お教え頂ければ嬉しい」


 王子の言に、イングリッドが目を輝かせる。


「わたしは、さっき食べたお肉をもう一度、食べたい」

「……それでいいのか?」

「それがいい!」


 ガノッザが、小声で俺に尋ねてきた。


「エルフでも肉を食べるのか?」


 そうだよな! そう思うよな? それが普通の反応だよな!?


「肉食です」


 小声で答えた。 


「おい、ステーキを焼いてもらって来てくれ」


 王子の依頼に、侍女が一礼し離れていく。


 お肉三枚目……六〇〇グラムは一人で食べることになるぞ? 


 王子は笑顔で、俺に言う。


「彼女には他にも考えておく……都市国家連邦で暮らすにあたり、我が王国の騎士身分は邪魔になるか? それが心配だが?」

「いえ、俺は政治家になるわけではありませんし、傭兵を続けるだけです。ありがとうございます」

「それであれば、先ほどと矛盾するが、我が王国で暮らすのもいいのではないか?」

「……申し訳ありません。都市国家連邦が暮らしやすくて好きです。殿下、俺はもともと奴隷でした」


 俺は、身の上話を王子とガノッザに話して聞かせた。


 この人たちなら、話してもいいかと思えたのだ。


「……ということで、俺を受け入れてくれ、育ててくれた社会に感謝している面もあります……都市国家連邦の法が、俺を助けてくれたとも思いますので」

「そうか……エリオットどのは僕とそう変わらない年齢だろうに、落ち着いているのはそういう過去があったからだな? 自分で立ち向かい、切り開いてきた経験があるのに感謝も忘れない……君がそう育ったのは、ご両親がすばらしいからだと思うよ」

「ありがとうございます」


 自分を褒められるよりも嬉しかった。


「よし、あまり引き留めても迷惑だろうが、今日は王宮に部屋を用意したので休んでくれ」


 助かる!


 イングリッドと二人で目を輝かせた!


 一礼し、王子の前から離れるところで、王子がガノッザに話す内容が聞こえた。


「行政、軍内に聖なる騎士団サンクトゥエクェスに関係する者がいないかを徹底的に洗え」


 あの王子、やっぱデキるわ……。


 脳内お花畑、見る目があったのかも……。




-Elliott-




 一月四日。


 王子に出発することを伝えると、彼は笑みを浮かべて俺、イングリッドと握手をした。


「君たちに智神ガリアンヌの加護がありますように……イングリッドどの、これを用意した」


 侍女のマリンが、赤いベレー帽を見せる。風の妖精をイメージした金細工付きのベレー帽を、笑顔で受け取ったイングリッドがさっそくかぶってみせた。


「耳を隠すのにちょうどいいだろうと思う……イングリッドどの、すまない。同じ人間として詫びる」


 妹さんのことだろうと思う。そして、イングリッドだけでなく、エルフがエルフであることを隠して暮らす現状へのことだろうと想像した。


「殿下、お気になさらず……今はそうなだけで、いずれまた状況は変わるもの……わたしは長く生きているので知っている。時代は今、厳しいというだけ……それに、エリオットや貴方のような人間がいることをわたしは知っている」


 お前、いいこと言うよな……口調はもう少し気をつけろよ……。


 城の外まで、ガノッザが見送ろうと言って俺たちと歩いた。


「いろいろと連携を取りたい。こちらからエリオットどのに依頼をしたいこともでてくるだろう。グーリットに出先機関を作ろうと思うが、担当を挨拶に行かせる。どこに行かしたらいいか?」

「それなら……傭兵ギルドを訪ねてくれたら大丈夫です。必ず会えますし、以降は直接、連絡を取り合うこともできますから」

「わかった……貴公も困ったことがあったら頼ってくれ。個人ではできないことでも、国でなら可能なこともある。貴公はこの国の未来を救ってくれた。心から感謝する」

「とんでもない。恐縮ですよ」


 こうして、王宮の外でガノッザと別れた。


 傭兵ギルドにも、全てが終わったことと帰国することを報告しようと思う。


「エリオット、グーリットに帰ったら、魂の間まで、一緒に来てくれるか?」

「もちろんだ。いちいち聞くな。相棒バティだろ」

「助かる。祈る間は無防備になるから……」


 リエージュの街も、すがすがしい気持ちのせいで美しくみえる。ごちゃごちゃとした街並みも、個性的だし、なんだか遠いとおい懐かしさを感じさせてくれる。


 ギルドに到着し、笑顔で扉を開いた。


 歓談室で、包帯をまいたラムズフェールと仲間達がエマと難しい顔で話し合っている。


「どうした?」


 俺の声で、彼らが俺に気付いた。


「エリオット!」


 ラムズフェールが立ちあがりながら顔をしかめ、エマに止められる。


 彼女が瞼をギュッと閉じ、「すまない」と言った。


「どうした? なにがあった?」

「ライティをさらわれた」


 さらわれた?


「これをあんたにと……」


 俺は、その紙を受け取る。


『神殿で待つ。ライティを返してほしければ竜の魂を持って来い』

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― 新着の感想 ―
おっさんなので数話出てないキャラ忘れてしまう……
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