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二 対 二

 ライティの案内で、その家の前に立った。


 彼の実家と比べて、こちらは裕福なのだとわかる。


 庭の手入れはされていて、建物も立派なものだ。木造の二階建てだろうが頑丈そうに見えた。


 敷地へと入り、玄関へと向かう。


 イングリッドも目を腫らしたまま、隣を歩いている。


「お上品にいくか? 俺のやりかたで行くか?」


 俺の問いに、彼女は微笑むと言った。


「わたしのやりかたでいこう」


 風刃波ベントスを発動させた彼女によって、玄関が滅茶苦茶に壊れる。


 老人が部屋から顔をのぞかせて、俺たちを見ていた。その顔はとんでもないことが突然におきて、思考停止という顔である。


 二階、階段の上に黒髪の女――シャーロットを見つけた。


 火炎弾フレイムを放った俺は、同時に階段をかけあがる。そして剣を抜き、盾を前にかかげて走った。


 魔法は魔法で防がれた。爆発が生じて階段、柱、壁が揺れるも、俺の突進は彼女を間合いにとらえる。


「いきなり!?」


 シャーロットの声!


 あの時の声だ!


 会いたかったぞ、化け物!


「おらぁ!」


 渾身の一撃をくらわしたが、彼女は左腕で受け止めた。腕は切断して廊下へ転がるも、彼女はそれを掴んで奥へと後退する。


 階下でイングリッドが叫ぶ。


「抵抗するなら殺す!」

「うるさいわね! 人ん家にいきなり!」


 下は下で始まったようだ。おそらく、スカーレットがいたのだろう。彼女も騎士団の人間とライティが言っていたので、何かしらの力をもっているに違いない。


「シャーロット、死なせてやるからかかって来い」


 俺の挑発に、廊下のつきあたりでこちらを睨む彼女が言う。


「死にたくなんてない! せっかく年をとらない身体になれたのに馬鹿?」

「ずっと生きていたいのか?」

「五日後、お城で舞踏会があるの。それに出るのよ。王子さまと踊って、誘ってもらって、わたしはお城にあがる身分になるのよ。邪魔をするな!」


 脳内お花畑のくせに、強烈な突風をぶつけてきた。


 階段を転げ落ちたが、着地をして火炎弾フレイムを上へと放つ。


 シャーロットも火炎弾フレイムを発して、相殺されたが爆発で壁面がついに崩れ始め、階段も抜けていく。


 壁を蹴り、二階へと跳躍して斬撃をあびせる。


 直後、シャーロットの風刃波ベントスが発せられたが、俺が魔封盾スクトゥムで対抗するより早く、すでに俺の身体には魔封盾スクトゥムが付与されていた。


 シャーロットの風刃波ベントスが掻き消される。


 俺は攻撃しながら、来るな! と感じた。


 瞬きするより早く、イングリッドの声が聞こえる。


凍王降臨アイスキュロスファブレガス!」


 俺の斬撃を、シャーロットは瞬時に生み出した光の剣で受け止めたが、白一色に染まる空間の中で叫ぶ。


「しまった!」


 彼女はそのまま氷漬けとなった。


 死なない敵を、凍らせて捕える。


 イングリッドのおかげで倒せたようなものだ。


 階段付近は崩壊している。


 俺が階下の相棒バティに声をかけた。


「やったな!」


 彼女は拳を握ってみせたが、すぐにうずくまる。


 慌てて一階へと飛び降りて、彼女を支えた。


「どこか、やられたのか?」


 見れば、槍を持つ中年女性が氷漬けにされている。


 しかし、彼女の回答は予想とは違うものだ。


「お腹へった……限界だ」


 ……強力な魔法を使ったからだな。


「飯いっぱい食べさせてやる」

「頼むう」


 イングリッドがよろよろと立ちあがる。


 外が騒がしい。


 当たり前だろう。


 住宅街のど真ん中で戦闘をしたんだ……。


「何事だ!」

「中の人は無事か!?」


 外を窺うと、兵士たちが集まってきていた。


 どう説明しようかと悩む……。




-Elliott-




「では、お前は罪を認めるのだな?」

「だから、俺たちは傭兵で、グーリットで犯罪行為をしていた女を倒しに来たんだ。評議会からの依頼だ。受付票はこれだ」

「……こんなもの、我がリエージュではなんの役にもたたん。田舎者が暴れおって……」


 スカーレットとシャーロットの氷漬けを前にして、治安連隊の騎士にあれこれと訊かれている、というか文句をつけられ疑われている。


 スカーレットの父親らしき老人は、イングリッドが無関係だと判断したようで魔封盾スクトゥムで守ったらしく無事だが、俺たちを罵ることこの上ないといった状態だ。聞くにたえない罵倒の言葉をさきほどからぶつけられているが、一切の事情を知らない老人からすると、当然の反応かもしれない。


「とにかく、二人を助けろ」


 騎士の命令で、兵士たちが氷漬けのスカーレットとシャーロットへと近づく。


「馬鹿! やめろ!」

「貴様! 騎士に抵抗するか! 公務執行妨害で連行する!」

「待てまて! 危ないからやめろと言ってるんだ!」

「お前のほうがよっぽど危険だ!」


 話が通じん!


 イングリッドは俺の脚を背もたれがわりにして座っている。説明は任せたという態度なのだが、少しは助けろと言いたい……。


「そちらの女性はエルフではないか!? お前はエルフ狩りまで!」

「ちがう。そうじゃない」


 そこで初めてイングリッドが加勢してくれた。


 彼女は疲れた表情で顔を騎士へとむける。


 騎士はとたんに姿勢を正し、視線を彼女とあわせるべくその場で片膝をついた。


 ……この態度の違いはなんなんだ!


「彼はわたしの相棒バティだ。それに、彼が話したことは事実だ。あの二人は悪い奴で、屍術ネクロマンシーで蘇っている死者だ。氷を溶かすとおまえたちが危ない」

「は……では、あのまま城に運び調べます。手続きが終われば引き渡しますので、同行願います」


 手続き?


「何を手続きする?」

「まず、グーリットの評議会に問い合わせをする。それから国外へ死体を持ちだす許可証の発行……まちがいなく死者であることの確認も必要だろう……一月ひとつきはかかるだろうが、始めるには申請書にお前とそちらの女性の署名が必要だ」


「じゃ、ここでトドメをさして完全に殺すから待ってろ」

「待てまて、見過ごすことはできん!」

「死人が死んでることを確認する為に殺すんだ。黙ってみてろ」

「駄目だ。グーリット評議会へ問い合わせて回答があるまで、あの遺体に近づけさせない」

「お前、ふざけんな! ここ――」

「エリオット」


 俺の言葉を止めたイングリッドが、氷漬けになったシャーロットを指し示す。


 なんだ!?


 目が動いて……まずい! 盾!


 ドン! という衝撃音は、氷の内部から強烈な力が外へと放たれたことで、氷が四方八方へ礫となって放射された音である。


 俺はとっさに盾を掲げて、イングリッドの前にしゃがむ。


 盾へとぶつかる衝撃がなくなり、イングリッドを助け起こしながらシャーロットを見ると、完全に怒った、という表情で空中へと浮かびあがっていた。


 兵士たちは地面に倒れ、騎士も同じく動かない。彼らは身体に礫をくらい、穴ができていてそこから血を地面へと流しはじめた。


 対人地雷をくらったようなものかと思い、ゾっとする。


 こいつらがゴチャゴチャとイチャモンつけるせいで……クソが!


 シャーロットが周囲を眺め、口を動かしているが声は聞こえない。


 呪文の詠唱!?


 魔封盾スクトゥムを発動して、イングリッドを抱えてその場から離れる。


 野次馬たちが、空中へと浮かびあがるシャーロットを眺めて口々に何かを話していた。


 シャーロットが叫ぶ。


天雷嵐ズメイ!」


 すさまじい衝撃波を背にあびて吹っ飛ばされた。懸命にイングリッドを抱きしめて、離さないようにと目をあける。


風守護シルフェ


 イングリッドの小さな声。


 俺たちは、ふわりとした風に包まれた。


 地面を転がり、なにかで背を打ち、硬いものにぶつかって止まる。


 魔法で衝撃を弛めてもこれか……。


 民家の壁にあたって止まったのだとわかる。


 身体のあちこちが痛い。


 イングリッド?


「おい、大丈夫か?」


 彼女は俺の腕の中で頷くと、顔をあげて口を開く。


「怪我、ないか?」

「お前の魔法のおかげで大丈夫だ。お前も大丈夫だな? 腹減ってるだけだな?」

「うん……大丈夫だ」


 よかった。


 俺は、シャーロットを探そうと周囲を見て愕然となった。


 住宅街にいたはずなのに、ごっそりと全てが削られたようになくなっている。少なくとも、百メートル範囲の人工物が吹き飛ばされている……。


「いやぁああああああ!」


 どこかで悲鳴があがった。


 その方向を見ると、魔法の効果外であった民家の屋根に、男が落ちていたが、腕も脚もおかしな方向に曲がっていて生きていないことは一目瞭然だ。


 俺はイングリッドを抱えて、無事な建物へと入る。


 中にいた老婆が驚いたが、「事故だ!」と叫んで階段をかけあがり、二階の窓から周囲を眺めた。


 大量の人が、吹き飛ばされて転がっている。


 生きている者は少ないと、その光景がつきつけてきた。


 魔法の範囲内のものが飛ばされ、その周囲のものとぶつかってさらに被害を大きくしたのだ。


 円の中心に、浮かびあがる黒い影を睨む。


「イングリッド、ここで待っていてくれ」


 彼女を降ろそうとしたが、しがみつかれた。


「イングリッ――」

「駄目だ。今は負ける」

「……」

「わたしはエリオットに死なれたくない!」

「……」

「行かないで」


 俺は彼女を抱きしめて、化け物を睨み続ける。


 シャーロットは火炎弾フレイムを氷漬けの母親へぶつけて消し飛ばすと、羽根を広げて羽ばたき、どこかへと飛び去っていった。


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― 新着の感想 ―
[一言] この国の奴らときたら…
[一言] うん絶対に全部の責任をエリオットに被せて幕引きを図るパターンだよね
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