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新発見と推理

 ジェイク・マクブライドの家は高級住宅街の中では中規模の屋敷といえる。


 売家、という看板がたてられていて、管理商会の住所が出ていたがかまわず敷地へと入った。


 手入れをされていたはずの庭も、花壇も遊歩道も雑草だらけだ。玄関は当然ながら閉まっていると思い、ぐるりと家の周りを歩いて居間の窓のガラスを割って鍵をあけ、中に入る。金持ちの家はガラスを贅沢に使っているから侵入が楽だ……泥棒じゃない。調査だと自分に言い聞かせた。


 一階は何もない。棚すら運び出されている。


 キッチン、広い……竈が三つも! 専用の井戸が裏口に……トイレも下水へと汚物が流れ落ちていく最新のタイプじゃないか! いいな……いや、うちに屎尿を回収に来てくれる農村のおっちゃん、いい人だからなぁ……毒蛇を捕まえたから薬を作ったとかいって差し入れてくれるからな……でもやっぱり、家を買うなら最新が……いかん。


 いかん、いかんぞ……。


 書斎はからっぽ……この廊下の奥……脱衣所ってことは……やっぱり風呂!


 風呂場だ!


 広い。


 脚が伸ばせるんじゃね!?


 ここにバスタブをどーんと置いて、手を伸ばせば本を置いたりする棚がここに……あまり飲めないけどワインを置いたりもいいなぁ……こっちには……いかん。


 いかん、いかんぞ!


 仕事だ。


 二階にあがる。


 廊下に綺麗な毛並みの三毛猫がいた。目の色が左と右で違うのが珍しい。


 猫は俺を見ると、寝室のひとつへ逃げ込む。


 ここで飼われていた猫かと思って追ったが、どこかへ逃げてしまっていた。


 猫は諦め、寝室のドアを順に開けていく。


 そして、夫婦の部屋だったと思われる室でその絵を見つけた。


 家族が揃っている。


「見つけた」


 思わず声が出た。


 首と胴体が離れても生きていた女がいた。


「……こいつがジェイクで、隣は妻だろ……ということは、化け物になっていたのは娘か」




-Elliott-




 ジェイク・マクブライドの家を管理している商会を訪ねると、担当だという男がヘコヘコと現れたが、評議会から依頼を受けて捜査をしていると伝えると、露骨に嫌な顔をして「上司を呼びます」と言って消えた……。


 待っていると、背の高い女が現れた。


「初めまして。ボアラ・ラークです。ジェイクのことを知りたいの?」

「そうだ。エリオットという。ヴィンセント卿の依頼で動いている」


 正式には、まだ依頼は出ていないが……。


「なに? 軍人にしては雑な格好ね?」

「傭兵だ。雇われているだけだ」

「ああ……」


 彼女は俺を誘って歩きだすと、面談室と書かれた部屋へと入った。


「どうぞ」

「どうも」


 対面に座ると、ボアラは煙草を咥えながら言う。


「そんなに付き合いがあったわけじゃないのよ……あれ?」


 ポケットをゴソゴソとしていた。


 刻み煙草を紙で巻いて吸うのは、この世界では珍しい。煙管で煙草を楽しむ人が多いが……ちなみに俺は日本人だったころから煙草は吸わない。


 指先に火を点し、差し出してやった。


 彼女はニヤリとして、火へと顔を近づけ煙草に火を点ける。そして、煙を吐き出しながら言った。


「ありがとう……魔導士?」

「そうだ」

「あいつがまさか、あんなおかしなことをしてたなんてね」

「事件のことか?」

「そう。お金で困っていたようには見えなかった……あの事件があって、奥さんから家を売りたいと相談があったから、買い手を募集しようとしたらすぐに売りたいって……だからうちの商会で買ってあげたの。転売で稼ごうと思ってね……でもなかなか売れないわ……高く設定しすぎたかしら」

「家族はどこに?」

「さぁ……奥さんの実家はリズ王国のリエージュって聞いたけど、それ以上は……」

「娘がいたな? その子とは?」

「ああ、シャーロットね? お姫様みたいな名前でしょ? あいつ、自分の娘を王族と結婚させたくていろんな舞踏会に参加させてさ……バッカみたいでしょ? 庶民がどんなに金を使って綺麗に着飾っても、王族や諸侯の男子に遊ばれてポイなのにね」

「苦い経験があるのか?」

「うるさいわね」


 図星だったらしい。


 とにかく、シャーロットという名前か……。


「出入りしそうな場所、知らないか?」

「くくくく……」


 何で笑う?


「行きそうな場所を教えてくれ。わかる範囲でいいから」

「ミラーノ大学のグーリットキャンパスに通っていたけど、もう今は通ってないでしょうね……ふふふ」

「他には?」

「あんた、本当に会おうとしてるの?」

「ああ……」

「じゃ、屍術師ネクロマンサーを連れておいでよ。そうしたら会えるかも」

「どういう意味だ?」

「シャーロットは夏に死んだの」


 おいおい……。


「墓はどこだ?」

「あいつはアロセル教だから、教団の支部じゃない? ほら、倉庫街に行く途中にある……」

「ありがとう」


 立ちあがると、彼女は煙草の灰を床に落としながら俺を見上げて口を開く。


「あなた、カッコいいから食事でもどう? その後もよければ一緒にいたいと思うけど?」

「……仕事で忙しいからしばらくは無理だな」

「じゃ、暇になったら来て。この事務所の上がわたしの家」

「……経営者はあんた?」

「そう」


 彼女はそこで、上着の胸ポケットから名刺を抜き取って俺に差し出した。


 家を買う時に使える。


 俺は受け取り、礼を言って彼女の前を辞した。


 キャンパスか……調べてみよう。




-Elliott-




 ミラーノ大学グーリットキャンパスには、実験考古学の他に地質学、古生物学の学生が通っていて、研究棟も立派なものが並んでいる。その建物のひとつで、学生課や総務課が入っている第一棟へと入った。


 学生課へ行き、窓口の男に話しかける。


「ちょっといいか? 評議会の依頼で調べていることがある」

「はぁ……」


 立ちあがった男は、俺をうさんくさそうに眺めた。


「シャーロット・マクブライドはこちらの学生だったろ? 学部は?」

「シャーロット……マクブライド……えっと」


 彼は事務室の奥へとひっこみ、しばらくして名簿らしきものを抱えて出てきた。


「この中にいると思うんでどうぞ。僕は忙しいんで」

「……いいのか?」

「終わったら声をかけてください」


 最低の学生課の職員だと思うが、こんな奴でも務まる楽な仕事なのかと羨ましく思う。


 奴隷スタートで戦場にぶちこまれ……楽な仕事とは遠い生き方を……。


 名簿を眺めていると、いた。


 除籍となっているが、死亡しているので当然だろう。


 実験考古学……?


 おいおい……バーキン准教授の教え子かよ!


 これをどう受け止めたらいい?


 准教授……研究室にいるかな?


 俺はそのまま先日もお邪魔した彼女の研究室に向かう。


 キャンパスを横切り移動し、建物へと入り部屋の前に行くと在室という札があり、幸運に感謝した。


 ドアをノックする。


「試験の内容は教えない」


 学生と間違われているらしい。


 ドアを開けて「どうも」と声をかけると、「クリムゾンディブロか」と言って迎えてくれた。


 これまでの経緯を話して、シャーロット・マクブライドのことを尋ねた。


「――ということで、シャーロット・マクブライドはご存知でした?」

「うーん……顔と名前が一致しないなぁ……目立つ学生じゃなかったのかも……」

「顔は目立つ派手なほうだけどね」

「僕は対象の頭脳に興味がある。入れ物はなんでもいい」

「……誤解を招くぞ」

「熱心な学生じゃなかったのかもしれないな」

「そうか……」

「ライティ!」


 准教授に呼ばれたライティが、奥の部屋から姿を見せる。彼女の研究室は三部屋が連なる作りで、彼女の部屋、資料室、おおきな部屋とみっつから構成されていた。前回の集まりは大きな部屋を使っている。


 ライティが俺を見て「お! お世話になってます」と笑顔になった。


 准教授が俺を見ながらライティに尋ねる。


「こちらの傭兵が、シャーロット・マクブライドという女子学生についてお尋ねだ。僕よりも君のほうが学生と付き合いが多かったと思うがどうだい?」


 ライティはぎこちない笑みを浮かべて、「いや、どうだろ……」と言い、目をキョロキョロとさせて「覚えてないなぁ」と言う。そして「うーん」と唸って准教授を見た。


「たくさんいますからねぇ……」


 俺は二人に感謝を伝えて離れる。


 公衆浴場に行こうと思い、向かいながら考える。


 ライティは、シャーロットを知っていたなと断定していた。


 仮説をたてる。


 ライティがシャーロットと繋がっていた場合、今回の中断された調査の原因にもつながる。俺たちが深部へと入ろうとする前に、化け物になったシャーロットは、魂の間とイングリッドがいう場所に入った。そして魂なるものを盗んでいる。


 偶然かと思ったが、ライティが知らせた可能性がある。


 ライティは、准教授の調査が墳墓に限られるものだと知っていたが、イングリッドの登場でさらに奥まで調査が可能になってしまったとなって焦った。彼らは何かしらの事情で急いで深部へと行く予定はなかったが、俺たちよりも先に魂とやらを盗む必要があの日に生まれた。


 さっさと魂を盗んでいなかった理由がわかれば完璧だ……。


 そして、この仮説が事実であった場合、秋にあの墳墓で遭遇した神使アンジェルを、あの場所に召喚したのはネレス、だけでなくネレスとライティたち、という推測もできる。


 彼は化け物から逃げてきた……と言ったが、あのネレスが本気で人間を追えば、追いつけないはずがないじゃないか……俺はどうして気づかなかった!


 クソ……。


 石棺を……どうやって運んだ?


 いや、石棺はあそこには余るほど存在した。


 エルフの死体を運ぶだけで良かったと考える……。


 どうしてあの広間で召喚した?


 神使アンジェルが、戦うに適した場所だった。実際、カミラの登場がなければやられていた。


 となると、ネレスとジェイク、そしてシャーロットとライティは仲間だったと繋がる。


 ちょっと本格的に考えて調べる価値があるな。


 公衆浴場に行って、さっぱりしてから考えるか……。


 晩飯を食べながらじっくりと……いや……帰宅する前に、スッキリしたい。


 最近、スッキリできていない。


 イングリッドと一緒の生活が続いていて……性欲の処理ができていない……。


 お店に寄って帰ろう。


 病気がこわいから、いつものとこに行こう。

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