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調査隊の顔合わせ

 十二月十日。


 昼過ぎ。


 ミラーノ大学グーリットキャンパスを、イングリッドと一緒に訪れた。


 調査隊参加の件だ。


 ここは、新しい住宅地が広がる市街地北側にある。


 学生たちの笑い声を聞きながら敷地内を歩いていると、日本で社会人をしていた頃を思い出した。


 平和な時こそ、戦争の準備をしているというが、グーリットの北側、レーヌ河の城塞では防衛のために都市国家連邦の連隊が集結しつつある。


 もともと海軍は都市国家連邦のほうが強力なので、陸からの力攻めにさえ気をつけていればいいという基本方針らしいが、その力攻めが半端ない規模なので苦戦しているわけだ。


 しかし、ここにいるとそういうことが同時に進行しているなんて信じられないくらいに穏やかだ。


 キャンパス内を歩く俺の隣には、仮面を外して素顔をさらしているイングリッドがいる。


 仮面をつけて歩く奴の隣は目立つから嫌だと言ってやめさせたが、素顔をさらしても目立ってしまうので失敗だった。


 ただ、フードを被って耳は隠してもらっている。


 准教授の研究室は三号棟だと案内板に出ていたので、その建物に入り廊下を進むと、ライティがいてお互いに「おお!」と声を出していた。


「ひさしぶり!」

「ひさしぶりです! エリオット、どうして?」

「調査に参加する。彼女はイングリッド、相棒バディだ」


 イングリッドが名乗り、ライティも彼女に挨拶をしたところで怪訝な顔を俺に見せる。


「エルフの方で?」

「わかるのか?」


 俺の問いに、彼は驚きながらも頷いた。


「人とはまぁ、違いますから……顔が整いすぎています」

「褒めているのか? 違うなら殴る」


 イングリッドに、俺は「褒めている」と答えておいた。


「こちらです。しかしエルフの方が二人もなんてすごいなぁ」

「二人?」


 彼女の問いに、ライティは「ええ」と答えて俺達を案内しながら続ける。


「グーリットのギルドを仕切ってるヌリさんの奥さんですよ」


 イングリッドが俺を見た。


「人と夫婦なんだ」

「すごい酔狂な奴がいるんだな」


 そういう感想が一般的なエルフだと思う。


 バーキン准教授の研究室に入ると、仮面で顔を隠したオメガがいた。彼女は俺の隣にイングリッドがいるのを見て驚いて椅子から腰を浮かしている。


「姫様!」


 オメガが声をあげた。


 姫様?


 彼女の反応に、集まっていた一同も目を丸くした。


 バーキン准教授が俺に問う。


「ギルドからの名簿だと、エリオット一人だけどその人も?」

「今回は俺の報酬を彼女と分けることにするから。というより、彼女が主役になる。イングリッド、ここの人達はテンペストの墳墓を調査する学者と護衛たちだ。君の仕事に関係してくることになる。話してもらってもいいか?」

「いいだろう」


 イングリッドは集まった面々を前に、名乗る。


「イングリーンウッディザハフォーディだ。お前たちには長いだろうからイングリッドでいい。わたしは中央大陸イシュクロン王国の七氏族のひとつフォーディ族のおさの娘である。エリオットは知っている。そこのオメガエレクアレイトローンも知っているが、他を知らない。大事な話をする前に全員の名前を知りたい」


 バーキン准教授が頷き、用意されていた円卓の空いた壁へと所作で招いてくれたので、俺、イングリッドの順で並んで座った。


 准教授が口を開く。


「個々に任せるとだらだらと長くなるので僕から……僕はミラーノ大学で考古学を教えている。ケイ・バーキンだ。残念ながら男なのに身体は女なので困っている。僕の左から……助手のライティ・クロスは親友であり優秀な部下だ。その左に……」


 彼女が紹介をしていく。


 グーリットの傭兵ギルドを仕切るヌリの妻でエルフのオメガエレクアレイトローン。


 剣士と魔導士のペアで仕事をしている二人。剣士のカイン・ゲイルズは三〇代半ばの経験と実力がそなわった雰囲気で、魔導士のイサク・デューレンもカインと年が変わらないくらいの信用できそうな魔導士だった。


 斥候役のアブダルは、クロヒョウを連想させるしなやかな体躯の男で、褐色の肌で南方大陸出身だと紹介された。見た目から年齢を想像できないが、落ち着いた様子からカインやイサクと近いと予想する。


 後方支援に若手……俺も彼らからみたら十分に若手に見られるだろうが、俺よりも少し年齢が高いと思われる男三人で、ジェフは大柄で荷物持ち、マルコは医師研修の一環で現場体験として参加、ルーカスは補助でなんでもこなすという役割だ。


 准教授の紹介が終わると、イングリッドが立ちあがりフードを脱ぐ。長い耳がピンとたち、金色の髪が肩から背へふわりと流れた。


 皆がその美しさに見入る。


 性格は微妙だぞ、と教えてやりたい……。


「改めて、イングリッドと呼んでくれ。わたしは父から五か国半島ファイブペニンシュラに来るにあたり、テンペストの封印強化を指示された。というのも、我々フォーディ族が彼女の封印を担当しているのだ」


 准教授の目が輝き、いろんな質問をすぐにしたい! という顔になるが懸命に我慢していた。


 さすが准教授……。


「この春に、わたしたちの森の近くでゴート共和国軍とイシュクロン王国軍の戦闘が発生してな……援軍を得て我々イシュクロン王国が勝利したが、そのなかで森の一部をゴート共和国の連隊に荒らされた。数人の同胞が人間に捕まり、奴隷売買の対象とされた」


 彼女の口調は厳しく、俺たち人間側は罪悪感を覚える。カインが気まずそうに肩をすくめていた。


「問題は、わたしに近い者、家族……妹がそこに含まれていたことだ」


 おい!


 俺が彼女を見た。


 イングリッドは喋り続ける。


「森に入った人間を追い払おうとしたが捕まったのだろうと思う……数が多いとさすがに勝てない……すまない。話がそれた。その妹が捕まって奴隷にされたことが問題だ。それは彼女は巫女で、封印を守るために日々、決められた時刻と場所で祈りを捧げていたのだが、それができなくなった……徐々に封印は解けていく。その前に巫女としてわたしが封印の神殿に入り、儀式をおこなう。神殿の深部……は危険なのでエリオットを仲間にしたが、彼がお前たちもあの神殿に入ると言うので、ならば協力関係にと思った次第だ。質問は?」

「いっぱいある!」


 准教授だ。


「ひとつずつ答える。だから慌てるな。まず、地図を広げていいか?」


 皆の顔が、「地図?」と言っていた。


 俺も驚いたのだから無理はない。だが、当然だろうと今は思う。彼女たちがあの神殿で儀式をおこないテンペストを封じているのだから、地図はあるだろう。


 広げられた地図に、俺も、皆も見入った。


 秋にあそこに入った際、四層まで降りた。


 実際には、十層にも及ぶ大迷宮だ。地図がなければ間違いなく迷って出られなくなる規模だ……。


 バーキン准教授が口を開く。


「テンペストを封じたのは、あなたたちなのか?」

「そうだ。彼女は金竜エルミラの妹にあたる。彼女とその竜騎士ドレイグによって大勢の人間たちが殺された……竜王バルボーザの母親がテンペストだ」

「そんなことを記す文献はどこにもないが?」

「文献? わたしは祖父から聞かされた。文献は人が書いたものだろう? 人は嘘をつくがわたしたちはつかない」


 なるほど。もしかしたら、イングリッドに神とか勇者ブレイブの件を質問したらわかるかもしれないが、今はやめておこう。


「封印の神殿というのは、あれは墳墓ではなく神殿なのか?」


 准教授の問いに、イングリッドは頷く。


「墳墓というのはおまえたちが言っているのだろ? あそこは神殿だ」

「しかし、大勢の骸があった」

「……わたしたちが最後にあそこに入ったのは三百年前だ。妹が巫女となるので、わたしがつきそって入ったのだが……この三百年で様子が変わっているのかもしれないな……たしかに、この街も当時はまだ漁村でしかなかったし……」

「では、この地図は参考にならないかもしれないのか?」


 イングリッドは首をかしげて、皆に問う。


「ここに入ったのは?」


 俺、オメガ、ライティ、准教授が手をあげる。


「どこまで入った?」

「巨大な石像……テンペストの前までです」


 オメガの答えに、イングリッドは頷くと微笑む。


 その笑みは見る者の心を掴む。


 俺ですら、ドキリとした……。


「では問題ない。おまえたちが石像まで案内してくれれば、その下はこの地図の通りだろう。石像の間から下へ行くには、我が一族の血がいるのだ」


 そういうことか。


 四層から上の形状が変化しても、その下が重要ということだな……。


 よくよく地図を見ると、入り口は大穴の底になっていた。


「おい、大穴の底まで、この地図だとどうやって降りるのか描いてないぞ?」


 俺の指摘に彼女は笑う。


「階段があっただろう?」


 階段?


「階段を降りればいい……ああ、そういうことか。お前たちでは見つけられないだろうな」


 どういうことだ?


 イングリッドは准教授へと視線を転じる。


「ケイ、お前の質問はお前の知識欲を満たそうというものだろ? それよりも準備や計画を話し合うために集まったのではないか? わたしの目的は伝えた。お前の知りたいことは道中に教えてやるから、他の者がいる今は本来の話し合いをしたほうがいい」


 イングリッド……見なおしたぞ!

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― 新着の感想 ―
[一言] ケイ・バーキンさん、墳墓で救出されたときにボクっ娘かぁ、属性が立ってるなぁ、でも主人公とからまないなぁ、と思っていたら、性同一性障害?! いろいろと濃いキャラなのに存在が薄い……
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