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休戦と協力

「生ガキ、美味しいな」


 生ガキにレモンをしぼって食べたエルフ女。


 俺も手をのばして、牡蠣を食べる。


 焼いても生でも美味しい。


 あたったら地獄なので、普段は火を通してもらったものを食べるが、今日は生が美味しいとラングレ亭の女将さんに勧められたのだ。


 店内の男どもが、目の前のエルフ女に見惚れている。


 この美貌は魔性だと思う。


 彼女はタコと野菜のサラダにフォークを伸ばし、口いっぱいに頬張る。


「エルフは生き物を大事にすると聞いていたけど?」

「ふぁいじぃにしゅっほ」


 大事にするぞ、か?


 白ワインで飲み込んだ彼女が言う。


「大事にするぞ」

「にしては、牡蠣も蛸も食べるんだな?」

「お前は馬鹿か? わたし達は生きるために他の生物を食べるしかない。だから感謝をして食べる。残さず、きれいに命を頂く。違うか?」

「……野菜ばっかりもしゃもしゃと食べると思ってた」

「お前は馬鹿か? 野菜は悲鳴をあげないから殺してもいい? では悲鳴をあげなければ、痛いと感じない動物がいれば、殺してもいいのか? 人間は馬鹿だ……命を頂いている自覚がないのだ」

「あんたはその馬鹿にご馳走になってるんだぞ?」

「ありがとう。美味しいぞ」


 牡蠣に手を伸ばす彼女に、サラダをのみ込んで言う。


「俺はエリオット」

「知っている」

「あんたの名前は?」

「イングリーンウッディザハフォーディ……馬鹿には長いだろうから、イングリッドでいい」


「イングリッド、俺を殺すのはやめてもらえないか?」

「どうしてだ? わたしは仇を討つという誓いを立てて森を出た。ゴート共和国の包囲を突破して、この半島まで頑張って来たのに……到着したら仇は殺されていて……お前が悪い」

「……あんた、強いのはわかる。一人でここまで、人間の社会の中を一人で来たんだ。強いのは理解する。だから戦いたくない。俺も強い……お互いに、軽傷で済んでよかったねとはならない」


 彼女は笑った。


「当たり前だ。どちらかが倒れるまで戦う……これを食べてからだ」


 俺たちは食事を終えて、店を出て戦う場所を探す。


「市街地の外でやるか?」

「無関係な人をまきこみたくない」

「わかった」


 南の門から外に出て、ぽつぽつと遠くに農村が見える丘の上に立つ。


 夕刻の空は、西側が真っ赤で、これから決闘をするってのに見入ってしまった。


 ふと、彼女が隣に並んで、同じ方向を見ていた。


「きれいだ」


 イングリッドの声に、俺は頷いていた。


「ああ……」


 二人で向かいあう。


 同時に、剣をかまえた……けど、なんだか気持ちが悪い。


「イングリッ……うぷ」

「なんだ? おぇ……」


 二人でうずくまり、ほぼ同時に吐いていた。


 これは……生ガキか!?


 女将さん……。


「エリオット……おぇぇえ……休戦をぉ…おぇ……申し込むぅううう」

「わかったぁあああ……げぇ……げぇええ」


 地獄をみた。




-Elliott-




 丘で一夜を明かすことになるとは思わなかった。


 寒い季節だったが、魔法で火をつけて暖をとることで生きのびた。彼女が水筒に水をたっぷりともっていて、分けてくれたのでなんとか命をつなぐことができた。


 それに二人とも、戦士だったので体力が常人よりあったことが重要だったのだろう。


 丘のてっぺんをゲロだらけにして街に帰った俺たちは、お互いを支え合いながら医院の前にたどりつき、看護師と医師に助けられて病室のベッドで横たわることができた。


 彼女よりも俺のほうが早く目覚めたので、先に医院を出る。その時、二人分の治療費を払っておいた。


 ギルドに顔を出すと、ヌリが驚く。


「生きてたのか! 勝ったか?」

「いや……」

「げっそりしてどうした?」

「……地獄をみた」

「すごい戦いだったんだな?」

「ちがう」


 事情を説明すると、大笑いされた。


「ちょっと上にあがれ、奥さんがお前に用だ」


 彼はそう言って、受付の中に入れてくれた。


 奥の扉を開き、二階へとあがる階段をすすむ。


 二階にあがると、オメガがいて俺に笑みを見せてくれた。


「エルフに命を狙われているって聞いて、助言をしようと思ったの」

「生きていてよかったよ……」

「主人が、エリオットなら負けないだろうし、殺さないだろうって言っていたから……ずっとつきまとわれるわよ?」

「それを避ける方法を?」

「そう……痩せた? 何があったの?」


 事情を話すと、笑われた。


「牡蠣……美味しいけどわたしも生は恐い……それで彼女はまだ?」

「ああ、まだベッドで寝てると思う」

「そう……じゃ、次に彼女が決闘を申し込んできたら、こう言って返すの……森の命に誓って決闘を受けるから条件が整うまで待て……覚えた?」

「ああ……それでいいのか?」

「保留にできるわ」

「条件が満たされたら決闘になるだろ?」


 彼女は頷くも、口にしたのは否定だった。


「条件は決して満たされないものにすればいいわ……例えば、太陽が消える日まで待て……とかね」


 なるほど。


「それ、向こうは承知してくれるか?」

「仇を討つために決闘を申し込むのも一方的なものだもの。今は休戦中なんでしょ? 挑まれたら、条件をつけて先延ばしにする。これで大丈夫よ」

「すまない。お礼は何がいい?」

「じゃ、仕事できれいな宝石を見つけたらちょうだい」


 ちゃっかりしてる。


「わかった。だけど聖石レリックは駄目だ」


 前回の事件で関係した宝石を口にした俺に、彼女は思いだしたというように目をパチパチとさせた。


「バーキン准教授が墳墓の再調査を始めるわよ。昨日、主人と話をしていたの。参加しない?」

「その言い方だと、オメガもするのか?」

「顔を隠して参加しようかと……テンペスト、気になるのよ」


 たしかに、神の器といわれるエルフには竜の復活云々は重要だろうと思う。


「わかった。下でヌリと話をしてくる」


 俺が一階へと降りて、受付からフロアへと出てヌリへと向き直る。


「墳墓の調査、俺もやる」

「お? オメガから聞いたのか?」

「ああ」

「報酬は一人十万リーグ。日数は関係なく開始から完了までだ。いいか?」

「問題ない……大学は予算が潤沢なんだな」

「ミラーノ大学は研究予算が国からの補助金でたっぷりらしいからな。あ……」


 ヌリが俺の背後を見て言葉を止めた。


 振り返ると、彼女がいた。


「エリオット、表に出ろ」


 ちょうどよかった。


 オメガに教えてもらった方法を試そう。


 条件は、そうだな……百年後……半島暦五六六年十二月十日にここでとしよう。


 ヌリに片手をあげて離れた俺は、イングリッドに誘われるがままに外へと出る。


 当然、決闘だろうと思ったが彼女は笑みを浮かべて口を開いた。


「お前、いい奴だから仲間にしてやる。手伝ってほしいことがあるんだ」

「え? いや……俺には別の用事がある」

「大丈夫。そちらも手伝ってやるから、わたしの用事も手伝え」


 ……この、断られるとは思っていない表情の彼女に、なんて言えば通じるのかと悩む。


 彼女はそこで、背負っていたリュックサックのような革の荷物入れを地面におろし、仮面をとるとごそごそと何かを探す。


 隣に並んで座り、見守った。


「あった」


 地図だ。


「テンペストの封印、強化したい。封印の神殿に関する地図だ……わたしの一族が奴の封印を担当しているんだ。手伝え」


 !!!!!


 天才か!?


「お前! 本当か!?」

「お前ら人間と違って、わたしたちは嘘をつかない」

「ちょうど、俺もその件で仕事を受けたばかりなんだよ。封印を担当しているって? すごいな!」

「イシュクロン王国の七氏族のひとつ、フォーディ族のおさの娘がわたしだ。父上から、仇を討つのに五か国半島ファイブペニンシュラに行くならこっちもやって来いと命じられていたんだ」


 近所へのおつかいみたいなノリなんだな……。


「わかった。協力する」

「助かる。よし、まずは体力をしっかりと回復させたい。いちど、家に戻ろう」

「わかった……? お前は宿に泊まるか?」

「お金がない……」

「……」

「お金がない……」

「わかった。だけど……狭いぞ」

「問題ない」


 こうして、エルフのイングリッドと組むことになったのである……。

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― 新着の感想 ―
ポンコツバーバリアン、お姫様だった。
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