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No Music No Life  作者: まちか
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勇者の職業



祠をでて、仲間が待つ教会に向かう。



「あ、仲間いるんですねー。よかったぁ。二人旅だったらどうしようかと思ってたんですよねー」


旅とか初めてですしーと勇者は続けるが、その間延びした声から緊張感も不安も感じられない。



勇者があまりにゆるいので、本当に今からする事が何かわかってるのか不安になる。



女神から説明を受けているらしいが、異世界で異世界人のために魔物と戦うなんて、死ぬかもしれないのに、何故こうものんきでいられるのか。



(…勇者に選ばれる人は正に、異世界も死も恐れない勇気ある者なのかしら。)



答えのない疑問に悶々としていると、仲間の待つ教会についた。



「ここでまず勇者様の職業を見てもらいます」


「?勇者は職業ではないのですか?」


「ええ。勇者という職業は存在しません。女神様に選ばれた方の肩書きです。女神様の御力を授かるため不思議な力を持ちますが、その方のステータスはその方の職業によって変わってきます。前回の勇者は、聖騎士の勇者だったので、聖魔法と剣技に長けていました」


ただ、聖魔法以外の魔法や剣以外の武器は不得意だったらしいと伝えると勇者は頷いた。


「なるほど。職業によって得意不得意があるんですね」



「そうです。あ、この教会で仲間が待っています」

 



教会の中に入ると、戦士、魔法使い、僧侶がこちらを向いた。そして後ろの勇者を見て肩の力を抜いたのが見えた。



「その人が勇者様ですね!」



僧侶のミカが嬉しそうに声をかけてきた。



「成功したようね。良かったわ。」



魔法使いのアリスいつも通り無表情だが、安堵しているのがわかる。


戦士のガイルは、コイツが勇者なのか?と、エラと同じ事を疑問に思っているようだ。疑うような表情が顔に出ている。

隠しなさいよ、と戦士を睨みつつ、エラは皆に勇者を紹介する。



「我々の願いに応じてくださった、勇者リュート様です。」


「よろしくお願いしまーす。」




変わらずリュートはゆるっとした態度で皆に挨拶した。

緊張のない挨拶に皆の顔に戸惑いが浮かぶ。

咳払いをしてアリスの方を見る


「それで、早速だけど…」


「分かったわ。」



アリスは頷くと、ポーチから水晶玉を取り出し呪文を唱えた。



「勇者様、ここに手を置いてください。」

「こうですか?」


差し出された水晶玉の上に勇者は手をそっと置いた。



ポワンと水晶に勇者の職業が映しだされる。


[音楽家:レベル1]



「おー」

「「「…は??」」」



感嘆の声を上げる勇者に一歩遅れて、状況について行けてないミカ以外の3人の声が重なった。




「音楽家って…」


「あの最弱のか…??」


「…っえ?!どういうこと!?勇者なのよね??」



アリスがもう一度水晶玉の文字を覗き込むも、やはり音楽家と出ている。しかもレベル1。

サーと顔の血の気が引くのが分かる。



「??音楽家だと何かまずいんですか?」


パニックのあまり普段冷静沈着なアリスが声を荒げる。


「まずいなんてもんじゃないわよ!これどうすんの??王都に知られたらエラが…」


「…首はねられるかもな…。」


ガイルがポツリとこぼす。

その言葉はズンと私にのしかかってきた。



召喚に必要なものはとても貴重でとても高価だ。

何百年物の魔物のアレコレだとか世界樹のアレコレだとかほとんどのものが価値をつけられない程の高価な物で、何十年も、物によっては何百年もかけて探し出されて、有事に備えて国宝として王城で保管されていたようなものだ。


それを使って、私が召喚したのが攻撃スキルも魔法スキルもほとんどないこの世で最弱の職業「音楽家」。

召喚した私の不手際と責められるのは目に見えている。




「ど、ど、ど、どうすれば??」



ミカへ私以上に動揺していた。



「えと、エラさんが大変な事になるなら、僕は帰った方がいい、ですよね?」



勇者がおずおずと申し出る。



「…帰るには魔王を倒す以外の方向はないない。」



ガイルが重い口を開く。



「え、そうなんですか?」



そうなのだ。魔王を倒す事で王様の持つ精霊王の宝玉が力を取り戻し、勇者のいる世界と繋がると言われている。



「それにもしこのまま魔王を倒さず帰れたとしても、再び別の勇者を今から召喚できるかどうか…。」



アリスがぼそりと呟く。


召喚には途方にもないほど莫大な魔力がいる。術者への負担があまりにも大きいため、それを補助するのが国宝として保管されてきた物達だ。



「…最悪、私の全魔法を使えば、あるいは…、」


「「だめ」です!!」


ミカとアリスが一斉に声を荒げた。


「そんな事させません!」

「そうよ!そんな生贄みたいな方法取らせないわ!!」


「でもそれ以外に方法はないだろう!」


「…あの〜」


ぴりぴりした重い空気を、勇者の間延びした声が壊した。



「僕が魔王をどうにかしたらいいんですよね?」



「おまっ…!音楽家に何ができると思ってんだ!?攻撃力も魔力も最弱だぞ!?」


暢気な勇者の言葉に戦士が声を荒げるが、しかし勇者は全く気にせず続ける


「いやー、この世界の職業?についてはよく分かんないですが音楽家は前の世界でもしてたので」



大丈夫だと思います、と勇者はニコリと笑った。






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