♯6 一年後の恋人達
同い年の沙斗史とつき合って、一年。
それまでのメールタイムは続いていて、できる日は電話していた。
デートは2週間に1回、彼の仕事は相変わらず忙しくて、密には会えていなかった。
沙斗史との時間を優先する一方、それ以外の時間は、これまでのように女子の友達と会っていた。
一番行くのは、現役恋活向上委員長の、亜子ちゃん。
たまに二子ちゃんも来るけど、家庭のことで早く切り上げることが多かった。
今日も、亜子ちゃんと夜ご飯だ。
「お疲れ様!」
「ありがと、雅美。
最近残業続きだからさ……。
飲んじゃって、いい?」
「遠慮しないで」
「ありがとーー」
届けられたビールとお茶で乾杯、日頃の勤労を称え合った。
「沙斗史くんと、順調?」
「お陰様でね」
「よきよき。
あぁ、今度こそ、Wデートしようね!」
「彼の都合がつかなくて、ごめん。
亜子ちゃんの結婚式に呼んでくれたら、絶対揃って出席するから」
「それいい!
あーーでも、まだこのままでいたい……」
彼女にも8歳年上の彼氏ができて、半年程だった。
「二子ちゃんが結婚した時は、すごいうらやましがってなかったっけ?」
「あの時はねぇ、しばらく相手もいなかったからさあ。
まさか半年後に8こ上の人とつき合って、結婚願望強くて半年後に求婚されるなんて、想像もつかなかったよ!」
「確かにね。
今35歳?
男の人もアラフォーになると、意識し出すのかも」
「私も一応、将来的にはその方向で考えてるんだけど……。
ただ、ブライダルフェアとかマイホームのイベントとかやたらと提案してくるから、最近ついてけない。
私はまだまだ、恋人でいたいのに」
「あはは、彼氏、わかりやすいな!」
「直球すぎるのよ。
そういうのって婚約前提だと思うから、私の気持ちが置いてけぼり」
亜子ちゃんは、辛そうな顔をした。
「そうだね、二人の気持ちを確認しないと、すれ違っちゃうよね」
私が共感したことに、彼女もちょっと救われたようだった。
「サンキュウ。
デリケートな問題だけど、ちゃんと彼氏に気持ち伝えるわ」
「そだね。
流されないで、話し合うのがいいと思う」
「やっぱり、自分の心に嘘つけない。
交際も結婚も、二人の気持ち出し合って、形にしたい」
「意思の尊重、これ重要」
「あーーでも雅美は同い年だから、沙斗史くん結婚は焦ってないんじゃない?」
「そうねぇ、いつか結婚するかもねくらいで、具体的に話したこと、ないね」
「ふんわりしてて、いいじゃん。
ある日突然、結婚しようってなるかもね?」
「そんな急に来るの?
夢のお告げじゃあるまいし」
「人生はまさかの連続よ?
私の彼氏もそう、二子の結婚も、子どももーー」
「え、二子ちゃん、おめでた?」
「いけね、安定期入るまで内緒だった!
落ち着いたら本人から報告入ると思うから、そしたら3人でご飯行こうよ」
「そうだね、楽しみに待ってる」
ちょうどその時、メールが入った。
「沙斗史くんから?」
「そう。
いつもこの時間帯なんだけど、今日は亜子ちゃんとご飯だって言うの忘れてた」
私は答えながら、彼に返事を送った。
「いいねぇ、愛されてるねえ」
「お互い様ですよ」
そんな私達のところに、お楽しみのデザートが運ばれてきた。
「じゃあ雅美、またね」
「またね、亜子ちゃん」
食事を終えてスマホを確認すると、沙斗史から着信が入っていた。
「こんばんは、遅くなっちゃって」
「友達との予定の日に、ごめん。
今、大丈夫?」
「大丈夫だよ」
少し間を置いて、彼が言った。
「今度の日曜だけど、僕の両親と一緒に食事してもらえない?」
「え!!」
「僕が忙しくてずっと実家に帰ってなかったら、親が久しぶりに会いにくることになって。
お見合いの話があるとかいうから、彼女いるって言ったら、紹介してくれってなっちゃって……」
「でも私達、結婚の話とかしてないし……」
「大丈夫、僕達交際してますって紹介するだけだからさ。
まぁ、親だからそういう話も少ししてくるかもしれないけど、こっちからよく言っときますんで」
「ーーその方向で、よろしくお願いします!!」
「ほんとに大丈夫?
親がいいとこで食事したいみたいで、お金は出してくれるんだけど。
身だしなみの準備とか大変じゃない?」
「えっと、あと3日でしょ?
私は土曜休みだから、買い物も美容室もなんとか……」
「そう?
じゃあ、よろしく頼むね。
詳しいこと決まったら、また。
なんかあったらすぐ言って」
「わかった、がんばるね!」
「ありがとう、雅美」
彼は、うれしそうに笑った。
まさかの、彼の親との食事会。
なかなかハードルが高いな、でもつき合っていたら、いつかはあることだよね。
彼と真剣に交際を続けている証だと思って、これからも、二人で一緒にがんばっていこっと。