♯5 本命の彼へ
告白の返事を今日中に、スマホ越しでも対面できちんと伝えたい。
意を決してメールを送ってから5分、何も応答はなかった。
「……」
いきなりのメールだし、向こうだってなにか取り込み中かもしれないし。
今日はデートプラスアルファ、だったし。
焦る気持ちを抑え、スマホをポケットにしまって、寝支度を整え出した。
10分後、着信が鳴って、慌てて取り出した。
「雅美さん、お待たせしました!」
1日のうちに2回お目にかかるのは、初めてだ。
「家着いて風呂入ってました、今設定してます」
私も映像通話を使うのは初めてで、緊張する。
「ありがとうございます、繋がったかな……。
って、顔が、あーーっ!!」
二人が画面越しに通話できたと同時に、自分の顔が風呂上がりのすっぴんだったことに、今更気づいた。
「雅美さん、大丈夫!?
化粧終わってから、出直す?」
沙斗史さんは気遣ってくれた。
「うぅ……。
沙斗史さんが見苦しくなければ、これでいいです」
体中が熱くなったけど、私は覚悟を決めた。
「僕は平気。
雅美さんも、お風呂上りだったんだね」
彼はいつもよりも、落ち着いているようだった。
「それって、学生時代のジャージ?」
服も、部屋着だった!
「ーーうん、そう。
このズボン、着心地よくって手放せないんだ」
「マジかーー!
でもなんか、素の雅美さん見せてくれるって、気許されてるみたいで、うれしい」
会ってた時とはまるで違う私を見ても落胆されなかったので、心から安心できた。
よく見ると、沙斗史さんのTシャツも、キャラものっぽかった。
「そのTシャツって、あの人気RPGの……?」
「そうそう!
昔っから大好きなんだよね。
家とか友達と会う時は、普通に着てる」
彼は、とてもうれしそうに教えてくれた。
とても和んだ雰囲気になって、私は照れながらも、返事を切り出した。
「沙斗史さん、さっきは返事につまってしまってごめんなさい」
彼の顔が、少し強張る。
「告白も交際も初めてだったから、驚きと緊張で固まってました。
私も、沙斗史さんとおつき合いしたいです。
よろしくお願いします!」
私の返事を聞いて彼も脱力したのか、とびきりの笑顔になった。
「あーー、よかったあ!
今日のデートミスったし、別れ際に告白して反応微妙だったから、ダメだと思ってた……」
「不器用でごめんなさい」
「や、僕も恋愛は慣れてない。
でも今ちゃんと答えてくれて、そういうまっすぐな気持ち、すげぇうれしい」
「ありがと……。
沙斗史さんといると楽しいし、ほっとする」
「僕も。
二人してこんだけリラックスして恋人になるって、ほんと忘れらんない」
沙斗史さんは、一転して私をじっと見つめてきた。
「な、何?」
「僕達、恋人同士になったんだよなぁって、実感してるとこ」
「そ、そうだよ?
改めて言われると、恥ずかしいじゃん」
「じゃあさぁ……。
雅美って、呼んでもいい?」
「えーー、いいけどぉ?」
彼は目を細めて、ためて、言った。
「雅美」
「はい」
私は恥ずかしくて、彼の顔をあまり見られなかった。
「僕のことも、さんなしで呼んでくれる?」
「……。
沙斗史」
「なあに、雅美?」
彼は二人の世界を楽しむように、また私の名を呼んだ。
「沙斗史が呼んでっていうから、そうしただけっ」
「うん、そうだね。
ありがと」
うれしそうな彼についていけず、私は言った。
「今日は、いろいろあったから……。
もう、おやすみなさい!」
「待って、雅美」
真剣な顔で、彼は言った。
「好きだよ、雅美。
おやすみなさい」
「……私も、好き。
じゃあ、また明日」
優しく手を振る彼に安心して、私もバイバイしながら、通話を切った。
はあっっ。
告白されて、返事のタイミング逃してモヤモヤして。
今日中に伝えようと思ったら、お互い素の格好で。
気持ちが通じ合ったら、グイグイ来られて。
想像してたようなシチュエーションじゃなかったけど、私達らしくて、幸せ。
上機嫌になりながら、その日は眠りにつくことができた。
朝、目が覚めても続いてる、本物の恋人同士。
いつかそうなれるかなって、ずっと淡く期待していた。
恋活を意識して出会ってからは、妄想もせず全力だったな。
リアルなシミュレーションは生々しいし、うまくいかなかった時のダメージが半端なさそうだったから。
ああ、沙斗史と恋人になれて、よかった。
明日からの生活が、楽しみ!
彼も、浮かれてるみたいだったな。
26歳の恋人、遅咲きのような、でも私にとってはすごく新鮮!
私と彼の世界を、これまでと変わらず、少しずつ展開いこう。