♯4 同い年の沙斗史(さとし)さん
「雅美ちゃんと、同い年の男の人なんだけど、どうかな」
亜子ちゃんとご飯する3日前、私は職場の杏梨先輩に、紹介を持ちかけられた。
「先輩の、彼氏の知り合いですか?」
「いや、私の母親の知り合いの旦那の、甥っ子さん」
うーーん、ちょっとまた微妙な関係だな……。
「私も母親づてに聞いてみたんだけど、落ち着いたいい感じの青年で、おばちゃん達の好感度抜群らしいよ!」
おばちゃん達に人気って、同年代にはどうなんだか。
「急ぎじゃないから、気が向いたら声かけてね」
私の反応を見て、先輩は話を保留にしてくれた。
ーーしばらくしてお願いした時には、もう彼にいい感じの女性が現れてたってことも、あるよね……。
私はパッと考え直して、先輩に紹介を受けるお願いをした。
「OK!
じゃあこれメールアドレスだから、やりとりしてみて。
困ったことがあったら、遠慮なく言ってね」
「ありがとうございます!!」
そうして私は、高崎沙斗史さん26歳と知り合うきっかけをもらった。
その日の夜、ドキドキしながら、初めましてメールをしてみた。
「初めましてこんばんは。
柚木杏梨先輩に紹介してもらった、小川雅美です。
よろしくお願いします」
最初の5分はそわそわしながら待っていたものの、すぐ返ってこなそうだったので、私はテレビを見出した。
「こんばんは!
メールありがとうございます。
高崎沙斗史です、よろしくお願いします。
仕事で返事が遅くなりましたっ」
30分くらいして、彼からの返事が届いた。
それから一時間くらい、自己紹介や仕事の話をした。
沙斗史さんの仕事は結構忙しくて、休みは週一らしい。
彼の仕事が終わって夕飯が済む9時くらいには時間がとれそうなので、基本その時間にメールしようということになった。
「今週の日曜、ランチでもどうですか?」
早速、会う予定も決まった。
女子受けのお店には疎いそうで、私はお店のチョイスを任された。
いつも人にお任せタイプの私なので、どこにしようかなと、亜子ちゃん等女の子と行ったことあるお店あれこれを思い出してみた。
くだけ過ぎずかた過ぎず、いい感じのお昼ご飯。
私は、うきうきしていた。
約束の日、私達はオシャレな和食レストランで初めて会った。
リラックスのため服装はカジュアルということで、沙斗史さんはシャツにジーンズ、私はパーカーにロンスカだった。
「雅美さん?
沙斗史です、今日はよろしくお願いします」
「こちらこそ。
リアル・デート、なんか緊張しちゃうね!」
「お店の前でなんだし、入ろっか」
二人は戸惑いながら、入店した。
初めてのデートでやっぱり緊張してるんだけど、事前にメールしてた甲斐もあって、すごく楽しく会食することができた。
気づけばもう2時を回っていて、二人はそれぞれお勘定して店を出た。
「メインからデザートまで、おいしかったなあ。
量的には、もうちょいあってもよかったかも」
「そうねぇ、女性向けだったね」
「じゃあ今度、職場のおばちゃんに宣伝しとこうかな」
「教えるのはいいけど、あんまり好感度上げ過ぎないでね?」
「そうだね、雅美さんの好感度下がったら、困る」
そんなことを言いながら、次どうしようか考えていると、
「雅美さん、また、会ってくれる?」
「?
いいですよ?」
「ありがとう。
次空いてるの、3週先になっちゃうんだけど……」
次のデートが少し先になるのが気になったのか、彼は早々と言ってきた。
「私も空いてます。
てか、毎日メールしてるよね?
今日もまだ時間あるし、どこか、行きたいお店見に行こうよ!」
「ーーよかった!
うん、行こうっ」
彼は明るい顔になって、二人で次なる目的地を考え始めた。
それから2回目のデートは、映画を見た。
今やってる、アツくて濃厚な、恋愛映画だった。
もう一ヶ月も毎日メールしてだいぶ仲良しなんだけど、やっぱり友達な感覚なので、観終わった後は恥ずかしさで言葉を交わすことができなかった。
外に出ると、もう真っ暗だった。
「夕飯、食べてく?」
「あ、さっきポップコーン全部、食べちゃったから……」
気を紛らわせるために食べに走っていたら、完食していた。
沙斗史さんの存在を気にしながら、甘美な大人の映画を黙って堪能することはできなかった。
「ごめんなさい、沙斗史さんお腹空いてるよね」
「近くのコンビニで買って、車で食べるよ。
雅美さんもなんか、甘い飲み物でも飲まない?」
「うん、そうする」
食料を調達して、彼の車で、黙々と食べた。
「僕、女の子と恋愛映画観るの初めてだったんだけど、ちょっとエロかったね」
さくっと食べ終わった沙斗史さんは、私を家へ送りながら、話し出した。
「ちょっとというか、だいぶ?」
苦笑した彼は続けて言った。
「職場の先輩のおすすめだったんだけど、ちゃんと調べればよかった。
ごめんね」
「ーー私もある意味、勉強になった」
「あはは、フォローしてくれて、助かる」
そうこうしているうちに、うちの近くに着いた。
「送ってくれてありがとう」
「今日も楽しかった。
また……、会える?」
「うん。
メール、するね」
そう言って、私は車を降りて歩き出した。
「待って、雅美さん!!」
彼が、車から降りてきた。
私は振り返って、彼に向き合った。
「雅美さん、あの……。
君と知り合ってから、僕、毎日楽しいです」
沙斗史さんの緊張が、私にも伝わった。
「僕と、交際してくれませんか?」
彼はまっすぐに私を見ながら、告白してきた。
念願の、瞬間だった。
運命の時を迎えて、私は幸せに包まれていた。
年上と年下の彼達とは終わっていたし、私にはもう沙斗史さんしか残っていない。
同い年の共通点の多さ、まじめさと安心感。
初めての彼氏、真剣交際!
そんな感慨に一分は耽っていたか、車のエンジンをかけっぱなしで告白の答えが返ってこない沙斗史さんは、しびれを切らしたように言った。
「ああ、あの!
返事は、来月中にでもくれればいいから。
じゃあっ」
「いや、あの、その」
返事のタイミングを逃してしまい、私はうまく言葉が継げなかった。
彼は即座に車に乗り込み、行ってしまった。
遠ざかる彼の車を見ながら、立ち尽くす私。
失敗したーー!!
彼も、告白でいっぱいいっぱいだったよね。
余計なこと考えないで、ちゃんと伝えればよかった……。
ショックを受けながら、私はとぼとぼと帰宅した。
気分を変えるため、お風呂に入った。
いつもだったら、メールしてる時間。
恋人になってたら、ラブラブメールタイムだったのに。
こんなモヤモヤしたままじゃ、今夜、眠れる気がしない!
私は思い立って、沙斗史さんにメールした。
「あの、映像通話、できませんか?」
別れ際に言えなかった大事なこと、今日のうちにきちんと伝えたい!
私は、彼からの返事を待った。