♯1 26歳のモテ期
「亜子ちゃん、お待たせ」
仕事帰りの夕食、私は友達が座っている席の向いに滑り込んだ。
「雅美、お疲れ。
仕事忙しそうだねぇ」
「おかげさまで……って思いたいけど、本当はもっと早く上がりたい」
「残業代つくでしょう?」
「おカネより、自分の時間が欲しいよう」
「そう、ねぇ……。
仕事ができるのはうれしいけど、消耗するよね」
「二子ちゃん、新婚旅行?」
「そうだよーー。
餞別渡して、いっぱいお土産頼んどいた。
堂々と休めて、今だけの新婚チヤホヤを満喫しちゃってるよ」
亜子ちゃんと二子ちゃんは双子の姉妹、一ヶ月前に結婚式をした妹の二子ちゃんに、激しくジェラしっている。
「でも本当、二子ちゃんの結婚にはビックリしたなぁ!
つき合って一年だっけ?
スピード婚だったよね~~」
「こっちは姉だから、余計ショックだったよ!
26で一年交際でゴールイン、子どもも、家のことも余裕持って、しばらく二人で仕事がんばるんだとさ。
計画的な人生始めてくれちゃったもんだから、まるで私が無計画みたいじゃん」
「まあまあ、双子だから比べちゃうかもしれないけど、二子ちゃんの場合、レアケースだよ。
周りじゃ一番早かったし」
「確かにね。
でもさ、友達も半分近くは相手がいるから、やっぱりちょっと焦る」
「そのための、恋活向上委員会じゃないですか」
「亜子委員長と、雅美副委員長の2名っきりだけどね。
結婚が正解じゃないけど、30前の恋愛は、重大局面なのよねぇ……」
「ほんと、その通り」
私も大いに共感した。
亜子ちゃんの視線が、強い。
「雅美、年齢シングルの割には、焦ってないよね?」
「ーー、うん」
私は、少し間を置いて頷いた。
「え、何!?
もういい人見つかったの??」
亜子ちゃんの動揺が激しい。
「いや、まだ。
でも、いい感じの人が3人、いて」
「まじでーー!!
もっと、詳しくっ」
私は頭の中を整理しながら、ゆっくりと答えた。
「26のいい年頃で、二子ちゃんの結婚もあって、私も男の人と真剣におつき合いしたいなって開眼したんだ。
そしたらもう、3人も出会っちゃったの、すごくない?」
「で、告白されてるの?」
「いや、まだ全然」
私の話を聞いて、亜子ちゃんはやれやれという顔をした。
「なーーんだ、これからなんじゃん!」
「でもね、私、モテ期だと思うの!」
目を輝かせる私に、はいはいという感じで亜子ちゃんは言った。
「恋愛本気になって速攻モテ期って、ハイになって迷走してない?」
「確かに、生まれてからモテてこなかった。
でも、最近知り合った誰かと、きっとつき合えると思うの。
宣言しちゃう、彼氏ゲットします!」
私の熱弁に、彼女はちょっと引いていた。
「予告彼氏って、どんだけ気合入ってんのよ。
でも、雅美本気なんだね。
私も、やる気でてきた!」
二人で、ガッツポーズをした。
「で、雅美の3人の恋人候補って、どんな人達なの?」
「うーーん、年上と、年下と、同い年の人、かな」
「えぇ、年の違いなわけ!?
イケメンで背が高いとか、性格がいいとか、価値観が合うとか、じゃないの??」
「そうねぇ、最終的には個人で決まると思う。
でもなんか、年上で頼りがいがあるとか、年下に甘えられてくすぐったいとか、同い年でいろいろラクとか、そういう感覚で見ちゃうんだよね」
「自信の割には、ちょっと浅はかでない?
そんなお花畑にいたら、みんな逃しちゃうよ?」
「う、確かに。
でもさ、まだ友達として仲を深めてる段階だから、よくやりとりして、きちんと一本化します!」
「浮いた話もなかった雅美に、いきなりそんな器用なことできる~~??」
彼女は試すように、大げさに言った。
「まあ、雅美はみやびだもんね!」
「そうそう、今こそ、父の名づけの通りにっ」
私の名前である雅美は、はじめ父が「みやび」と考えていたのだが、母がきらびやかすぎるということで「まさみ」になったのだ。
小川雅美26歳、今こそ花咲かせてみせます!