7話―過去・後
1章7話
「エスペ、お父さん明日もう一度村長のところに行って話してこようと思うんだ。その子と一緒にいい子で留守番できるかい?」
「うん!ちゃんと待ってるね!」
「ありがとう、さ!ご飯にしよーかー、今日は野菜のスープだぞー!」
「おー、おいしそー」
お父さんは私に毎日美味しいものを食べさせてくれた。野菜が多かったけど、それでも工夫して私が飽きないようにメニューを考えてくれてね。
「あ、この子の分もある...?」
「もちろんあるぞー!新しい家族だからな!」
そう言って子犬の前に野菜を蒸して柔らかくした物が入っているお皿を置く。
「おいしそーにたべてるねっ」
「あーそうだな、エスペも一緒に食べよーな」
「うん!」
そう言って皆でご飯を食べ出す。
質素な料理ではあったけど私にとってはお父さんが作ってくれた、心のこもったとても美味しい料理だった。
「あのねあのね!この子の名前決めたんだ!」
「お、何にしたんだ?」
「タロだよ!」
「いい名前だなー!タロよろしくな!」
「ワン!」
タロはその名前を気に入ったかのように、激しく尻尾を振りながら嬉しそうに吠える。
「タロも喜んでるね!」
「あぁそうだな!仲良くするんだぞー」
「うん!もちろん!」
そういう風に私たちの最後の家族団欒のゆったりとした時間は過ぎていった。
「エスペ、明日お留守なんだからそろそろ寝なさい」
「はーい、タロと寝ていい?」
「いいぞ、おやすみ」
「おやすみー」
私は明日何が起こるかなんて事を考えず、ただこの幸せが続けばいいなそう思いながら眠りについた。
「それじゃあ行ってくるからいい子で留守番しててくれ」
「うん!タロもいるから大丈夫だよ!」
「ん、いってきます」
「いってらっしゃーい」
お父さんが家を出たあと私は何気なく新しく家族になったタロと遊んでいた。
「タロ!おいでー!」
「ワン!」
「もふもふきもちい」
しばらくそうやって遊んでいるとタロが不自然にほえ出した。
「ワン!ワンワン!!ワン!」
「ど、どうしたの??タロー、大丈夫?」
「ワンワン!ワンワンワン!」
「外誰かいるの...?」
「ワンワン!」
―ガタッ
「キャッ!ど、どなたですかー?」
「ワンワン!」
急に刃物を持った人が私たちの家に入り、私に向かって襲ってきた。
「だ、だれ。今私お留守番してるの...!」
「し、死ねぇぇぇぇぇ!」
「や、やめて、近ずかないで!!!」
そう言いながら私は怖くて目を瞑った。今ならそれくらいいくらでも対応出来ると思うけど、その時の私には何もすることは出来なった。
「キャンッ!」
タロの声が聞こえた気がした。でもあの時の私は恐怖に怯えてその場から動くことも、目を開けることすらも出来なかった。
しばらく経って襲ってきた人がいなくなったと思ってからゆっくりと目を開き当たりを見渡した。
「タロ!!タロ!!!」
私の目の中に入ってきたのはお腹を刺され包丁が刺さったままの状態のタロだった。
「ク、クーンゥ」
今にも消えそうな鳴き声で答えてくれる。
「タロ!タロ!!タロってば!嫌だ!!死なないで!!!」
そう言いながらもタロがもう死んでしまうことを私は子供ながらに理解していたのだろう。
その時私はそっと幻惑をタロにかけていた。幸せな日常をすごしそのまま私とお父さんに見られながら息を引き取るそんな夢を。
それと同時にタロの痛覚も効かないようにしていた。
今の私でさえそこまで深く幻惑を使えるかと言われたら無理だと思う。
あの時だからこそ、そこまでの力を引き出せたのだろう。
幸せそうな、でもとても小さい鳴き声をあげ微かにしっぽを振りながら、タロは静かに息を引き取った。
私はそれから何時間タロを抱きながら泣き続けていたのだろう。
永遠と続くような長さだったようにも思えるし、今思うとほんと少し一瞬とも呼べる時間だったのかもしれない。
「エスペ!!!大丈夫か!!」
「お父さん......タロがタロがね......」
「エスペ...!無事でよかった......そうか、タロが...ちゃんとお墓作ってあげような」
「うん、私を守ってね...タロが......うぅ」
「エスペ、大丈夫、大丈夫だよ、お父さんがついてる」
そこからは私の記憶はとても曖昧なものになってしまっていた。
その後もう一度、私たちの家に人が襲ってきて、次はお父さんが私のことを守ってくれた。
その時の私はお父さんまでタロと同じように死んでしまうのではないかと酷く恐怖したのを覚えてる。
「お父さん...死なないで、だめ...お父さん...!お父さん!!」
「エスペ...大丈夫だよ、お父さんが守るからね。エスペを守る...!エスペを、守る..守る守る守る守る守る守る守る守る守る守る守る守る守る守る守る守る守る守る守る!」
そう言いながら急にお父さんが大きくなっていった。体がどんどんと大きくなり腕や体、足から不自然に植物のツタが伸びていた。
その時、私のお父さんは異形に成った。
普通は怖がると思うけど、私はそんなことは全く思わなかった。お父さんが守ってくれる。そう心から思っていた。
そのあと村の人を次々と殺しながら私を村の外まで連れていってくれた。
「お父さん...ありがとう...!絶対...絶対また会おうね!!」
「エすぺ...げ、ンキ、デね」
そう言って村の方にお父さんは走っていった。もう一度お父さんにちゃんと成長した姿であうんだ。そしてお父さんを安心させてあげるんだ。その時そう決意した。
遠くでお父さんが村で暴れ回ってる大きな爆発音が響いてくる中、私は走った。
―ドカンッ!!!
「そう、ちょうどこんな感じの爆発音だった...え?」
「エスペ、すまないが直ぐに支度を済ませてくれ。落ち着いたら今度は俺の昔話でも聞いてくれ」