6話―過去・前
私が生まれたのは特に何も無い普通の村だった。異形があまり出現することの無いただ平和な村。
そう言ってもそれは村全体での話。私の周りは私にとって平和なんてものとは乖離していた。
私の家族、私と私とお父さんは村の中で除け者として扱われていたの。私のせいでね。
その原因となったのは簡単に言うと私が生まれたから。生まれた時から忌み子として嫌われて、それでもなお、お父さんは私のことを庇ってくれた。だから私だけでなくお父さんまで一緒に除け者になってしまった。
「大丈夫、エスペのせいじゃない。この村が悪いんだ。ずっと守ってあげるからね」
お父さんはそんなことをよく言っていた。
私のお母さんは私のことを産んで直ぐに死んでしまったらしい。だから私はお母さんのことをよく知らない。お父さんはとても素敵な人だった。そして私はお母さんに似てるとそうよく言ってた。
今思うと私のことを庇ったのは私が娘だからと言うのももちろんあると思うけど、私がお母さんに似てるからなんて理由もあったのかななんて思ってる。
私のこの白髪もお母さん譲りらしいしね。
私の顔の傷は生まれつきのものでね。私が生まれて私の顔を見た時皆口を揃えて
「醜い顔だ。きっと忌み子に違いない。」
そう呟いていたらしい。お父さんは話そうとしなかったけどある時ぽつりと漏れてしまって。
私は周りの環境の事で手一杯で自分の容姿なんて気にする余裕はなかったから何も思わなかったけど。今にして思うとあの時それを話してしまったお父さんはとても辛かっただろうなって、そう思うよ。
「異形の子だ」
私が生まれてからずっとそう言われていたことは私が少し大きくなってから村の人が呟いてるのを聞いてね。悲しくなったなぁ。私のことは良くても私のお父さんまで悪く言われてる気がしてそれが許せなかった。
まだ小さい私に出来ることなってなかったからただ聞いてることしか出来なかったんだけどね。
私の村の偉い人が才の事について調べている学者でね。その人が私の才を知ってから村の人にこう言ってたんだ。
「幻惑という才は一見するとただ幻を見せるだけだと思われる方もいらっしゃることでしょう。しかし、この才の本質はそんなことではありません。人の認識を任意に変えることができる。簡単に言うと洗脳がいとも簡単に出来てしまうということです。」
そのことを村の人が知ってからはこれまで以上に私たちの扱いが酷くなっていった。
村の隅に追いやられ、でも村から出ることは許されない。
外から助けを呼ばれて復讐されるのが怖かったんだと思う。
私の村は割と閉鎖的で外から来た人にやさしくないんだよね。私のお母さんの生まれは村の外だったって。だから私も私のお父さんももともと村からはよく思われてなかった。
「ごめんなエスペ。お父さんがもっと早くに村を出てればこんなことには......」
そう泣きながら謝られたこともあった。お父さんは何も悪くないのに。こんな村早く異形に襲われちゃえばいいんだ。私が異形の子なら早く襲いにこい。そう思いながら私は毎日をすごしていた。
才が分かるまでは村の子供がよく嫌がらせをしてきていたけど、才がわかってからは誰1人として近ずかなくなっていた。私にとっては嬉しい事だったよ。
そうそう、たまたま迷い込んできた子犬が居てね。私の遊び相手はいつもその子だった。ちょうどメルみたいな銀色の毛並みで親とはぐれちゃったのかな。1匹でフラフラになりながら私の家に入ってきたんだ。
お父さんは私が飼いたいならって直ぐに一緒に暮らしていいって言ってくれた。その子犬に会えたのは私の生きてきた中で片手に入るくらい嬉しいことだった。
食べ物についての心配は特に必要なかった。お父さんの才が促進っていう才で直ぐに種から食べ物を作ってくれたんだ。
昔はお父さんの才のおかげで村はたいした苦労もなしにそれなりに暮らして行けてたんだって。
「俺は散々この村に尽くしたのに、その仕打ちがこれか」
って夜な夜な文句を言ってたのを影で聞いてたんだ。
でもお父さんのおかげで飢えることも無いし私はとても感謝していたよ。
だから村から除け者にされて、他の人から絡まれることもなくって。それでも私とお父さんと子犬の2人と1匹で誰にも邪魔されずに生きてそれなりに幸せだった。
きっと私が産まれる前も、村から少し邪険にされてる時でもお父さんとお母さんは幸せだったんだと思う。
でもそんなささやかな幸せすら長くは持たなかった。
ある日また突然に私たち家族の世界は村の人のせいで壊されることになるんだ。私たちは誰の迷惑にもならずに2人と1匹でただ静かに暮らしていただけなのに。その暮らしを続けていられればそれだけでよかったのに。
そんなちっぽけな希望さえも崩される。
ある出来事によって少しの幸せを見つけていた私たち家族の運命はまた大きく絶望に傾く。
その事があった後、私はこの世界を呪ったよ。ただ家族2人で静かに誰とも繋がることなく暮らしていく。それすらも出来ない。
この世界は絶望で溢れている。そう心の底から思った。
エスペの語り口はたどたどしく支離滅裂のように思えたがそれでも心がとても深く伝わってきた。
俺の存在を忘れていくかのように過去の記憶に少しずつ深く入っていっているよう感じる。
これからエスペのより深い絶望を聞くことになると俺は覚悟を決め。
エスペの声に耳をすませる。