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絶望が溢れるこの世界で  作者: ハデス
1章
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5話―新たな仲間



「ねーみてみて! 可愛いよ!!」


エスペが珍しく興奮しながら小狼を撫で回していた。珍しくと言ってもエスペと出会ったのは昨日だが。小狼もエスペに撫でられてとてもリラックスしているようだ。何故こうも短期間で懐かれているのだろう。


俺も撫でようと近ずいたら、それだけで噛まれそうになったぞ。全く何が違うと言うんだ。


「この子私のにしていい??」


「まあ、好きにすればいいんじゃないか...? 武器ですって言い張れば試験終わってからも一緒にいれるだろ」


「やったー! よし君の名前はメルだよー!」


「ワォッ!」


「とりあえず声抑えて貰ってもいいか? まだ周りに異形がいるかもしれない」


「そ、そうね。茂みからメルがでてきて少し緩んでたわ」


「まあ、声を抑えてじゃれててくれ。それはそうと熊って食えるか?」


「食べれると思うわよ。食料が見つかってよかったわ」


エスペが熊を処理し始める。


「デセス、この大剣包丁替わりに使っていい?」


「使えるならかまわないぞ」


「ありがとう。私は熊の処理食べる分だけしとくから周り見張ってて」


「あぁ、わかった」


それにしても驚いたな。まさか茂みから小狼が出てくるとは思ってもいなかった。

熊を倒したあと、茂みから何かの気配を感じて思いっきり戦闘態勢に入っていた俺たちの目に映ったのは、そこから出てきた小狼だった。


俺は初め少し警戒していたが、エスペは速攻で近寄りいきなり撫で回していたな。それでもエスペに対してなんの抵抗もなかったから俺も警戒を解くことにしたが...その時の影響か俺には一切触らせてくれない。

いやそれよりここまで早くエスペに懐いたのも驚きだ。


メルのことは置いとくとして、ここは本当に異形が多いな。普通は下位と言ってもこんなには居ないぞ。運が良ければ一生で1度も異形に会わずに死ぬ人もいるくらいだが、そんな人はなかなかいないな。よほど幸せな人か悟りを開いてる境地にいればもしかしたら。


横に目をやると熊を頑張って解体してるエスペとその足元をクルクル回ってるメルがいた。メルは全身銀の体毛に青い瞳まだ小さいのにその美しさには目をひかれるものがあった。そう言えば昨日の狼の異形も銀の毛に青い瞳だったな...。異形も子を成すことがあるのか?


「デセス、とりあえず食べる分は用意したわよ」


「ありがとう。恐らくこの辺りはその熊の縄張りだったのだろう。ほかの生き物の気配はないな」


異形といえどもその動物の性質は持っていることがほとんどであり、熊とは群れを作らず単独で行動することがほとんどだ。生き物は1匹でいる事に不安を覚えることが多いが中には熊のようにそうでは無い生き物も存在する。

人間は前者だな。群れを作らないとやっていけない。この試験もパートナーと一緒にだから精神もある程度落ち着いているし体への負担も1人より断然少ない。


1人だと夜の見張りが居なくなる以上物音がしたらすぐに起きる体質の人以外五日間寝れないという極限の状態になりかねない。


この前の狼が複数で現れたのも狼の性質を受け継いでいるからだろう。


「じゃあここで今日は一晩過ごしましょう。この熊の縄張りなら他のとこよりはまだ安全でしょうし」


「そうだな。しかし、もう日が傾いているとは早いものだな」


そう言いながら野営の準備に取り掛かる。やることと言えば火を起こすくらいしかないが。





「ほんとによく懐いているな」


「えぇ、嬉しいけど。私もこんなに懐かれるなんて驚きよ」


メルはご飯を食べている時もずっとエスペの足元にいた。今はメルがご飯中だ。熊のステーキを美味しそうに頬張っている。俺より明らかに量を食べているがあんな小さい体のどこに入るんだ。


熊のステーキは美味しかった。異形になると美味しくなるのか、エスペの料理の腕がとてもいいのか、その辺は謎だな。

異形になると美味しくなるのなら異形狩りになってから狩った異形を片っ端から食べてみるか...。いや、さすがにないな。



「まあ、ちゃんと面倒みるなら一緒に連れてきてくれてかまわないさ」


ご飯を終えてまたエスペの足元に張り付いてるメルを見ながらそう呟く。


「やった! でもデセスには一向に懐く気配は無いわね」


「懐かれても困るからな」


少しくらい撫でて見たかったが...…撫でようとすると避けられる。


「そう.....。今日は私が先に見張りをやるから寝てていいわよ」


「あぁ、ありがとう。適当に起こしてくれ、見張りを変わる」


そう言い残して横になり目を瞑る。昨日寝てない事もありこんな状況でも少しくらい寝れそうだ。

昨日も聴いた変わらぬ火の燃える音を聞きながら俺はゆっくりと眠りについた。







それから数時間経っただろうか。俺は特に意味もなく瞼をあけていた。

やはりたしいて寝れなかったな。そう思いながらエスペの方に視線を移す。


フードを脱いだエスペが空を見上げて涙を零していた。


長く美しい白髪が月の明かりに照らされて神秘的に輝いている。それと同時に明るい月明かりがエスペの顔を照らしている。

美少女と言っても過言ではない美しく可愛らしい顔をしているが、それのせいで額から右目の下を通り頬まで続く痛々しい傷跡が嫌でも目に入る。


「エスペ」


俺の声を聞き慌ててフードを被り直し取り繕ったように声を発する。


「あ、デセス.…..起きてたの?」


「今起きたところだ、その、すまないな」


「あー、見られちゃったか..…...」


「たまたま目に入ってしまって、それがいつも顔を隠してる理由か?」


「うん.…....そうだよ、せっかくだからさ少し私の昔話に付き合ってくれない?」


いつもの少し大人びた話し方とは打って変わって、年頃の少女らしい口調でそう訊ねてくる。


「あぁ、エスペが望むならな」


「うん、前も言ったでしょ。私こんな見た目だから話してくれる人いなくて。もちろん話しを聞いてくれる人もいない。だからさ、良ければ聞いて欲しいな。人に話したら楽になるかも......って。まだ私寝れそうにないしねっ」


緊張を誤魔化すように足元のメルを撫でながらそう言う。


「わかった。俺でよければ是非聞かせてくれ」


今まで生きてきた道のりを、自分の苦悩を、誰かに分かちあって欲しい。そんな気持ちは俺にも理解出来た。


それからエスペはポツポツと静かな口調で話し始める。

5話目にして早々回想で申し訳ないです…


2話ほどお付き合いください。

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