2話―試験開始
「はぁ、朝から空気が重い..….」
曇りの日特有のどんよりとした空気を味わいながら俺は試験会場へと足を運んでいた。
今日は異形狩りになるための試験がある。この試験は年に二回ほど行われる上に一人何度でも受けることができる。と言っても実際に二度以上受けた人はいないから実質一生で一度だけ受けれる試験といっても問題はないだろう。
試験会場に近づくにつれてポツポツと他の人が見え始める。この人たちも試験を受けるのだろうか。
「やあ! 君も異形狩りの試験をうけるのかい?」
振り返ると金髪のいかにも自信のあるような風貌の男が立っていた。
「あぁ、そうだが」
「やっぱりそうか! まあ、こんないかにも異形が出ますよ。みたいなとこに近づくようなやつなんて試験に望む命知らずしかいないだろうからな!」
「ハハ、そうだな。この辺りは普通の人は近づこうともしないところだからな」
この男は大袈裟に言ってはいるが実際試験の会場となる場所は一般には危険だと言われてる区域にあたる。過去に誤って入った人は誰一人として戻ってないと言われているが最近だと誰も入っていないから本当かどうかはわからないな。
「私はこの日のために【才】を磨いてきたからな! 受かる気しかしない!」
なかなかに自信過剰に見えるがこのくらい自信がある方が心の余裕もあっていいだろう。試験は異形に対抗出来る戦闘力が確実に必要になるが、それ以上にいかに正気を保っていられるかという心の面でも試されると言われている。
「そうか、なかなかいい才を持っているんだろうな」
「まあな! 試験で見ることになるだろうから楽しみにしたまえ!」
【才】という能力が1人に1つだけ与えられて生まれてくる。与えられた力は今後変わることはないからある意味不公平と言えるだろう。
異形狩りになるべくして生まれた。みたいな人もごく稀に存在するからな。まあ、そう言う存在はかなり少ない。
この【才】は様々な所で活躍するから使い方を磨いて行くことがこの世界で生きていくために絶対に必要な事になる。才を使わない人もいるが俺らにとっては呼吸と同じように使えるものだ。使わない方が珍しいしある意味難しいことだろう。
「ではな! お互い異形狩りになれるよう頑張ろう!」
話していたら会場に着いていたようだ。うるさい男ではあったがなかなかにいい人だったように思える。
さっきまで曇っていた空も少し明るさを取り戻してた。
「皆の者よく集まってくれた」
頭の中に声が響いてくる。
「これより試験を開始する。内容はペアでの五日間サバイバルじゃ。この異形があふれる地で五日の間生き延びてみせよ」
サバイバルか..….。親父が言ってたのと同じだな。やはり試験の内容は毎回変わらないか。
「失格条件は死亡、パートナーの死亡、指定エリアからの離脱になる。パートナーとエリアはこの後脳内にイメージとして送る。検討を祈るぞ」
頭の中に情報が流れ込んでくる。不思議な感覚だな。
フードを被ってマフラーを巻いている俺よりも背が低い女性のイメージが浮かんできた。
「あの、すみません」
呼びかけられた方を見るとさっき頭に浮かんだイメージそのままの女性がいた。
ただ声は思っていたよりも幼い、俺と同じくらいの年齢だろうか。
「君が俺のパートナーか」
「えぇ、そうみたい」
「よろしく。俺はデセス」
そう言って手を差し出すと女性は少し驚いた素振りを見せながら握手をしながら答えてくれた。
「こちらこそ。私はエスペ。こんな見た目だから気味悪がって話しかけない人がほとんどなのに珍しいのね」
「まあ、これから五日間一緒に過ごすんだ。このくらいはな」
「それもそうね。それにしても、この頭の中に浮かぶカウントダウンはなんだと思う?」
気味悪そうに頭を指さしながらエスペが聞いてくる。
「仮説ではあるが、本格的に試験がスタートする時間って所じゃないか? それまでは顔合わせって感じかな」
「なるほど。それならセデスの【才】を教えてくれない?連携して異形を相手した方がやりやすいと思うし、どお?」
「そうだな…...そうしよう。俺の才は加速だ。自分と自分の周り物の速度を早くできる」
「なかなか使いやすそうな才ね」
「確かに使いやすくはあるが......自分を加速させても早くなるだけで攻撃力は上がらないし大して強い才でもないぞ」
「はぁ、羨ましいな。私の才は幻惑、条件は多いけど相手に幻覚を見せることが出来るってものよ」
「俺のより断然強そうなんだが?」
「聞くと強そうよね.…..使いずらくてたまったもんじゃないわ」
うむ、隣の芝は青いな。やはり人の才はどれも羨ましく見えてしまう。
「しかし、そんなに難しい条件なのか?」
「相手によるって感じね。相手が私のことを全く信用していないもしくはとても信用している場合に発動することが出来るわ」
「なるほど、それ以外には無力か。確かに使いにくそうではあるな」
エスペがこちらを見て肩を竦める。顔なんかは全く見えないが仕草や声は可愛らしい。
油断して心を許さないようにしないとな。
「他に確認が必要なのは武器か。俺が使うのはこれだ」
そう言って俺は短剣を手の中に出す。
「えっ!まって、急に出てきたように見えたけど」
「え、あぁ、気のせいだろう」
「加速ってかなり凄い才じゃない..….? まあいいわ。短剣ね確かにデセスの才との相性はいいわね」
「あぁ、俺は基本自分を加速させて回り込んでこれで切る。ただそれだけだ」
我ながら単純で面白味のない戦い方だなと思う。
「シンプルだけど...…普通に強いわね。早くて回避出来ない剣撃を入れ続けられる上に、相手からの攻撃を回避し続けられるならある意味最強じゃない?」
「と、いいんだがな。この剣で傷を与えられない硬さの相手には逃げるしか無くなるんだよ」
「ほぉ。まあそれは本番に見せてもらうわ。私はこれよ」
そう言いながら見せてくれたのは、弓か。いや、普通の弓には見えないが。
「その様子だと分かったみたいね。この弓は弦を外すと近接武器として扱えるようにしてるのよ」
「なるほどな。1人である程度のシュチュエーションに対応出来るようにか」
「そうよ。私は絶対に才が使えるとも限らないか...…っ!」
急に頭の中にサイレンのような音が鳴り響く。エスペにも同じようなのが聞こえている様子だ。
「これは、試験開始ってことか」
「そうみたいね。さっそく囲まれてるわ」
さっきまでいなかったはずの気配が俺たちの回りに唐突に現れていた。
さっきのサイレンと同時に来たか。まあ精々死なないように気張るかね。
「デセス準備は大丈夫?」
「あぁ。いつでもいける」