19話―死
エスペが容赦なく矢を放ってくる。
速射。
合計三射を加速を使って辛うじて避けながら、近づくことを考える。
エスペの矢には恐らく神経毒の類が塗ってある。もしそれに当たれば、俺は戦闘不能。後は俺の身体を使って殺させる。ってシナリオだろうな。
となると、俺がしなければならないのは、エスペの攻撃に一切当たらないこと。これは確実にしないとだな。
思考を遮るように次の矢が飛んでくる。
「くっ、簡単に近づかせてくれないか」
「うん、ごめんね。どうしても殺してもらいたいんだ」
「どうしてもって言う割にはさっきの一射目には毒塗ってなかったな」
「さすがにずるいかなって思って、せめてちゃんと殺されたいから」
「そう、か」
今はまだ弓矢だけだからいい。が、もしも幻惑を使われたら俺は為す術もなく負けるだろうな。
たしか、信用してる人だとかかりやすいって言ってたよな。てことは俺なんかはかけ放題のはずだ。
エスペが矢を番え始める。
そのタイミングで前方に全速力で踏み込む。
エスペの前まで辿り着いたと思った瞬間。
目の前のエスペは消え、それと同時に背後から矢が空を切る音が聞こえる。
反射の域に達する程に早く身体が動く。
俺はしゃがみながらその矢を躱し、矢が飛んできた方向を振り返りながら、逆刃の短剣を握り直す。
不意に目の前の空気が揺らぐ。
「こいつは…あの時の熊か……」
目の前には試験中に対峙した熊が立っていた。
幻だとわかってはいるが、見ている映像は現実だと脳がその事実を否定する。
熊が手を振りかぶり思いっ切り俺に向けて叩きつける。
それを避けながら熊の手が当たった床を見ると、そこにはエスペの矢が刺さっていた。
「なるほどな、幻とはいえそれに合わせて攻撃されると実際いるのと変わらないか」
この熊が実態だと思い込んでるなら、この熊を殺せば幻は消えるかもな。
そう思いながら普通の短剣を出現させ熊の腹に思い切っきり踏み込む。
熊からの抵抗はほとんどなく容易に腹の下に潜り込めた。
そのまま熊の腹に向かって短剣を突き刺す。
差したところから血が流れ落ちる。
幻とは思えないほどにリアルな赤い血。
その血の量は増え続け、不意に幻は解けた。
目の前には俺の短剣が刺さり微笑んでいるエスペが立っていた。
「エスペ、なんで……」
「はは、ありがとね。良ければ、最後はデセスの腕の中で…死にたいな」
途切れ途切れの声でそうつぶやくエスペを、腕の中でそっと抱き抱える。
「ごめんね、こんな感じの…お別れ…になっちゃって」
「ううん」
「良ければ…異形狩りとして、私の…お父さん…助けてあげて欲しいな……」
「うん、わかった、必ず」
「はは、ありがと」
「そろそろ……お別れ…みたい」
「エスペ……」
「デセス.......私の分も...お願い...ね」
「エスペ.......まって.........!」
そう言いながら俺の意識は不自然にも遠のいていく。
エスペにまだ伝えたいことが沢山あったのに、何ひとつとして口から出てきてくれない。
「デセス……ごめん…次会う時は………」
その瞬間。
俺の中で、いや、世界が認知した。
エスペが死んだ、と。
少し短くなってしまって申し訳ないです。もしかしたら書き直すかも…
これで1章終わりとなります。
ここまで読んで下さった皆様ありがとうございます!