【短編】亡き勇者が残したセプテット ~勇者伝説~
(短編は)初投稿です。
この“世界”は実に非情だ。暖かい自然に囲まれ、水も生物も豊富だ。しかし、それは表の姿だ、この“世界”は人が思っているよりも酷く冷たい。
俺は知ってしまったんだ。転生し、この“異世界”の日の光がまだ暖かいと感じていた頃はもう昔の話だ。今は鬱陶しいほどに眩しいだけの光だ。日の光が人々を焼き払うのではないかと思ってしまう。
「……違う」
あぁ、違う。全然違う。俺が思っていた異世界転生という希望に満ち溢れたものは、ここには無かった。
“途中までは”俺も仲間達と共にその“世界”を楽しんだ。実際に楽しかったのだ。仲間と共に、凶悪な“魔”と戦い、その度に仲間を信頼していく。
ある時は川辺でキャンプをしたり、困っている人を助けてその笑顔を見て心が癒された。
だがそれもこれも全て壊れた。世界は俺から全てを奪っていった。
仲間の一人に、アーシャという幼い少女がいた。母親が居るという隣街まで同行する、短い間だった。道中、“魔”と戦闘になることはあったが、無事に街まで着いた。
だがその次の日、その街は燃えてしまった。突然のことだった。アーシャを見送り、旅を再開させた俺達は次の日、街に巨大な炎の塊が降ったのを見てしまった。直後、その炎の塊が爆発を起こし、俺達がいるところまで熱風が届いた。
その様子を俺達はただ呆然と見ているだけだった。
……仲間に、明るく誰よりも元気な男がいた。ダット……彼はいつも笑顔だった。そして人の死を誰よりも泣いた。
そんな男が俺の目の前で死体すら残らない、“消滅”という形で死んだ。彼は最後にこう言ってくれた、「泣くな、笑え、そうすればお前さんの未来はその笑顔よりも明るくなるぞ」と。
だが、だったらなんで、誰よりも笑顔が眩しかったお前はこんな死を遂げたんだ。
俺やダットによくなついていた双子がいた。ミーアとリーアだ。二人とも女の子で瓜二つ。いつも行動や言葉が同じでよく二人で喧嘩をしていた。そんな二人は、“魔”に一週間も痛みに苦しみながら死ぬ呪いをかけられ、死んだ。二人は最後まで苦しみの声を上げていた。何も言い残せず。
ダットを好きになったらしい、ウェアルという魔法を使うことが得意な女がいた。
俺をよくいじっていたが、彼女が作る料理はクソ旨かった。ダットもその料理が気に入っていたようで、「店に食いに行くくらいなら俺が食材持ってくるからウェアルが作ってくれ」と言っていた。ウェアルはその言葉をクールに返したが、ダットの姿が見えなくなった瞬間、嬉し涙を溢した。そんな彼女は、俺と共にダットの死を見て、その場で自殺した。俺には止めることはできなかった。最愛の人が、死体も残さず消えていったのだ、俺もそうしたかもしれないから。
そして、仲間に俺が好きになった少女が居た。彼女はいつも皆を励ましてくれた。名前が無かった少女に俺はアイラと名付けた。アイラは涙を流して喜んでくれた。アイラとダットの二人はいつも仲間を笑顔にしてくれた。
だがアイラは“魔”に喰われた。また俺の目の前で。俺はショックで何も考えられなかった。時間が長く感じた。骨が砕ける音、肉が潰れる音、血が弾ける音。そして俺の目の前に彼女の片腕が落ちた。
“魔”は一言、こう言って笑った、「旨かったよ」と……。
俺はその瞬間にその“魔”を消し去った。そして仲間が全員死んだ今、俺はもう生きることが苦になった。
だが、せめてこの現状を作った“魔王”を倒してから死のうと決心し、立ち上がった。
「その結末がこれか……」
俺は目の前で倒れている“魔王”を見て一言呟いた。“魔王”は最後にこう言った。「世界とは非情だな」……その言葉で、俺は全てを悟ってしまった。
「人も魔も共存することだって出来たはずだ……それなのに、人も、魔も、それを拒んだ、拒むという道しか無かったッ! そういう“世界”だからだッ!」
俺は“世界”と戦うことにした。簡単なことではない、それは神と戦うということと同じだ。
だが俺から全てを奪っていった“世界”を壊す。神に叛逆する。俺にはもうその思いしか残っていない。
仲間も居なくなった今、これは一人で行わなければならない。
それは問題ではないが、問題は別だ。どうやって“世界”を誘き出すかだ。
「魔王の書物か……」
“魔王”の部屋にあった書物にその答えが記されていた。
「『世界と争うならば、この魔法式を使え』……ハッ、随分早く会えるみたいだな……」
今すぐにでも“世界”に会えるなら願ってもないことだ。俺は魔法式を地面に描き、魔法を発動させる。
「待っていろ世界、俺がお前の敵となる」
俺はそう宣言し、現れたゲートを潜った。
* * *
ゲートの先は……宇宙と言ったほうがわかりやすいだろうか、重力は軽くジャンプすると30cmくらいまで飛ぶくらいだ。
まぁそんなことよりも、だ。
俺の目の前には“世界”がいる。真っ白な球体だ。
「攻撃はしてこないか……ならさっさと壊すまでッ!」
俺は剣を振るい“世界”を断ち切る。だがしかし、やはり現実は甘くない、“世界”は非情だ。
「なん……で………」
俺の目の前にはアイラが居た。なぜだ、アイラは死んだはずだ。
「どうしたの? __、どこか痛い?」
「ッいや……違う、お前はアイラじゃない! アイラはお前に殺されたんだッ!」
そうだ、あれは“世界”……アイラは居ない。居な……い……。
「何を言っているの? 私を殺したのは……あなたじゃない」
「違う、違うッ!」
「違わないよ、あなたに出会っていなければ私は死ななかったんだから」
「そんなことッ!」
……そんなこと、あったかもしれない。あの時俺がアイラに名前を与えていなければ、アイラは死なずにすんだかもしれない。
「お、俺……は…………」
「でも大丈夫、私は許すよ?」
許してくれるのか?
「えぇ、だから安心してね」
久しぶりの人肌の暖かさに俺は目蓋が重くなる。
そういえば、あれから熟睡することなんて一度もなかったな……。
「眠くなっちゃったんだね……いいよ、おやすみ」
「あぁ……おやすみ、アイラ………お前は、寝ないのか?」
俺の言葉にアイラは笑顔でこう言った。
「えぇ、寝るのはあなただけよ」
突如腹部に激痛が走る。
「うぐっ!? あ、アアアアァァァ!!?」
「あらあら、そんなに叫びながら転げ回って……そんなに痛かった?」
そうだッアイラじゃない……こいつはアイラじゃないッ!
アイラの皮を被った世界だッ!
「殺す……お前をッ!」
「……この姿の私に、あなたは剣を振るえるの?」
振るえ、そうだ、そうすれば全て終わる。剣を振るうんだッ!
「無理だよねぇ! 愛する人だもんねぇ! アハハハハ! これだから人間は面白い! 永久に眠れ! 叛逆者ァァッ!」
終わった。全て。傷一つ付けられずに俺は終わる。“世界”の鬱陶しい笑い声が遠退いていく。
「…………せめて……何かしなきゃな……」
俺は最後に残った力で、次の世代へ、力を託した。
「どうか……この世界をッ……クハッ………壊してくれッ!」
力を託すことしか俺には出来ないが、この力を受け取った者が……“世界”を殺してくれることを祈ろう。
* * *
この“世界”は実に非情だ。生きるために生きるものを殺す。
“魔物”は恐ろしく邪悪で非道だが、それは“人間”も“魔物”も同じだ。生きているもの同士、そこだけは変わることはない。
昔から伝わる物語がある。《テンセイシャ》だとかよくわからない言葉が出てくるが、その主人公は《勇者》として人々から感謝される。《勇者》は人を助けるが、その分人の死を見ている。
その《勇者》が最後どうなるのかは記されてはいない。
「でもそんな《勇者》に、僕は憧れている」




