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1ミリ遠くのファンタジーに告げる

作者: 歌うたい

挿絵(By みてみん)


※イラストは絵師陸一じゅんさんに作成していただきました





夢とは何か。


そんなものは例え研究の対象でなくても模範的な解答で、つらつらと答えれるほど、心得ているつもりだった。


『見つけてくれてありがとう。手にとってくれてありがとう。いつの間にか余りに遠くなってしまったアナタ方へ。こうして感謝の言葉を向けるのも、何だか夢みたいだと思えますね』


だから頬をつねるなんて行為は、夢からさめる手段としては合理的ではなく、そんな暇があるのなら目をこらして現状の理解と観察に務めるべきだと。


『どうか怖がらないで、遠き隣人、懐かしきお友達。私はシオン (shion)。良ければお返事、下さいませんか?』


ヒリヒリ痛む頬をさすりながら、ペンを握る手が、未知との遭遇にみっともなく震えていた。


やっぱり、夢じゃないらしい。



◇◆◇◆◇◆



自分という人間は、自分で思うよりも、変人とまではいかないみたいだ。



ゼミの中で協調性もなく無愛想で気難しいと続けば、あぁアイツね、と迷いなく指をさされる人物で通っていた。

熱を上げるのは研究の内容ばっかりで、ゼミのグループに酒の席や休日のプライベートとやらに誘われても応じた試しはない。



ゼミの一室で二回目の秋を迎えた頃には、そういう変わり者として定着していたことは、自分でも想定していた未来であったのに。



二十歳になった夜。


立ち寄った自宅の近所のコンビニで手にしたビールの苦味に眉をひそめて、自分を見下ろす丸い月をふと眺めていたら、涙腺が勝手に熱くなる。



泣いていた。

どういう理屈で自分が今、泣いているのか。

訳が分からない、馬鹿馬鹿しい。


ハンカチを持ち歩く趣味もないので適当に袖で拭ったからか、それともはじめて味わうアルコールの影響か。

ぼやけてはっきりとしない視界が、居住しているアパートのゴミ捨て場の端の端で、奇妙なものを捉えた。



黒く太ったビニール袋の上に不自然に乗せられた、一冊の本。

一目で奇妙だと気付いたのには、その表紙と思わしき部分の特徴によるものだろう。



手に取ってみればより一層不自然だと思えるほどに。



力強く引っ張れば塵にでも却ってしまいそうなくらいに繊細な、まるでそう──蝶の羽根。

両手の指では余るほどの、青い色した数々の蝶の羽根で編まれた表紙。


知識の収集とばかりに広げてきた本のどれにも当てはまらないその独特な造りに、つい好奇心が突っつかれたのだと思う。




◆◇◆◇◆




気付けば我が家の玄関を共に潜ってしまっていた。



上着を雑にハンガーにかけた後、作りかけの論文が散らかったテーブルの上で、奇妙な本をもう一度観察してみる。



タイトルと思わしきところはなく、背表紙にも裏面にも題名はおろか筆者の名前も記載していない。

厚みも薄く、ページ数はどこでも買える大学ノートより少ないくらいだろう。


それにしても、この本はずいぶん古い。

激しい損傷や目立つ傷こそはないが、ところどころ痛んだ様子も見受けられる。


図書館の奥深くで必要とされずに眠っている古書とでも評価するべきか。

とはいえ本を批評する上で一番肝心なのは内容だ。



外見に対する考察はともかく、まずは内容を改めようと開いた最初のページは……空白。



(……ん?)



その次を捲っても、空白。


更に次を捲っても、空白。


ものの見事に真っ白。



(……まさか)



ペラペラペラと、渇いた音を立てて流れる紙には一文字たりとて記されていない。


ここまでくればもう自分の直感が大ハズレだったことを嫌でも突き付けられる。



(……馬鹿馬鹿しい)



ただの、表紙が凝っているだけのノート。


蓋を開けてみれば呆気のない。

これだと閃いた革新的なはずの理論が、考えてみれば大したことのなかったという結論に落ち着いたあの時のやるせなさによく似ている。



「……ひっく」



発見があったとすれば自分がアルコールに弱いという、さもつまらない事ひとつが関の山。


ベッドに転がるのも億劫で柔らかくグニャグニャとした世界から、早々に瞼の幕を下ろした。


明日の講義のことなど知ったことか。





◇◆◇◆◇◆




そして事態はめでたく講義どころではなくなった。



「……不可解な現象と呼ばれるものが、まさか目の前で起きているとでもいうのか」



アメリカのオレゴン州の不可解な現象、オレゴンの渦。

デス・バレーのムービングストーン。


およそミステリーと呼ばれ続けた事象さえ解き明かされている今日この頃、ならばこの訳のわからない現象にだって何かしらの理由があるはず。



「……整理しよう」



昨日ゴミ捨て場から拾った、何も書かれてなかったはずのノート。

それが今朝、もう一度開いてみれば、1ページ目に何やら『シオン_shion』なる人物からメッセージが記載されていた。

しかも、返事の催促まで。



「……鍵は閉めてたはず。部屋も誰かに入られた形跡はない」



だったらこれは現実の事なんだろう。

科学的な簡易実験で、ビーカーの中に流し込んだ液体の変化を見つめながら異常なしと呟く日々に、嘲られるようだった。



「……本の中の住人とでも?」



メルヘンチック、非科学、非化学、重度の妄想。

温度のない正論ばかりが小蠅のように脳裏を飛び交うのを嫌って、馬鹿馬鹿しいとも思いながら椅子を引く。

散らかりっぱなしの机に、本を広げれるだけのスペースを作ること。

それ以上の労力を割くのは、せめてもの予防線代わりに近かった。



「シオン……」



遠き隣人、懐かしきお友達。

暖かみの在る筆記体で綴られている連なりの意味は解せない。

無論、シオンという名の人間に心当たりもない。

ならまずは、その確認も兼ねて、返事とやらを書いてみるべきなのだろう。



『……お前は誰だ』



無駄を嫌った合理性は、結局は無駄を生む。

あまりに直接的な問いかけ。

そういえば自分は、論文ならともかく、誰かに対しての個人的な手紙など書いた試しがない。

座った後で気付くほとほとな間抜けっぱりに頭を抱えたくなった。

けれども、慌てて修正液の容器を探して机の上を駆け回った視線は、ピタリと止まった。



『お返事ありがとう、遠き隣人よ。私は、シオンです。エルフの女王と言えばご理解下さるかしら?』


「……は?」



エルフ。エルフ?

ファンタジー小説とかに出たりする、あのエルフか?

馬鹿を言え、突拍子がないにも程がある。

遠き隣人も糞もない。

無論自分にそんなけったいな存在との交流を持った過去などありはしない。



『では、次は貴方の番。まず、お名前から聞かせて欲しいのですが』



整理もつかない思考の先で、シオンから綴られるのはコミュニケーションの基本。


今自分の目の前で起きてる現象の名前こそ知りたい。

朝食を取り損ねた、コーヒー淹れようか。

個人情報を迂闊に漏らしてたまるか。

そもそも自分は何をしている。大学への準備など一つも終わっちゃいない。


持ち主の頭で好き勝手に回路を広げる疑問符と自問自答は決着もつかぬまま、どうしてそこでペンを握り直したのか。



『────だ。お前でも隣人でも変人でも、好きに呼べば良い』


『変わった口上ですね。自分の名前はお嫌いですか?』


『顔も目的も分からない相手に、名前を呼ばれるのは好ましくない』


『気難しい方。でも、構いません。それでは、貴方様と』



突っぱねる様な返答にも関わらず、シオンは怒りを滲ませるどころか、サラサラと受け流した。

その先で提案された他人称が、丁寧に膝を折られて傅かれたかの様で、無性に居心地が悪い。

心の出っ張りが痒くなる。


しかし一度は突っぱねた手前、更なる訂正を重ねるのも子供染みたものを浮かばせるみたいで、もうそれで良いと、心に段落を設けた。



『それでシオン。女王はともかく、エルフとか言っていたが……それは何を意味するものだ?』


『何を意味する、ですか? それは人間に対し、人間とは何かを問うようなものですけど』



余計を省く学者の悪しき習慣が、また一つ齟齬を生む。

不意に思い出したのは、哲学者達の言葉遊び。


心とは何か。

物質とは何か。

人間とはなにか。

知ったことではない。


それに今は、哲学を問いたいのではない。



『聞き方を誤った。エルフとは種族か?』


『ええ、そうですよ。"もう"ご存知ない?』


『もう?』


『えぇ、"もう"。ところで、貴方様は学者か何かでいらっしゃいます?』


『間違っていない。正確には……学者、のなりかけ』


志している、とは書けなかった。


『なるほど、途上ですか。半熟卵さんという愛称はいかが?』


『願い下げに決まってるだろう……それで? 君は一体何の為にこのような事を? よもや自分にこの非科学めいた現象に対して論文でも纏めろというのか?』


そうであるなら傑作だ。

めでたく変人のレッテルの上に、詐欺師だの行き過ぎた科学反応だの新たな名札がぶら下がるだけだ。


リトマス試験が黒く変色したところで、その原因を解明しようもないのなら──黒い汚泥が付きまとうだけだ。


『いいえ、そんな大それた事じゃありません。貴方様は隣人の家の扉を叩いて、そのような難しい事をおっしゃいます?』


『まさか』


『えぇ。私が求めるのは、もっと些細で"大切"なこと。そう、何も難しいことはないのです』



さりとて彼女は清らかに、文面だけでも分かるほど上品に笑む。

科学者にもなりきれない、人と人との間に在るのも上手く出来ない半人前の自分に──1ミリ遠くのファンタジーが告げる。



『他愛のないお喋りをしましょう』



「は?」



それこそ隣人と、茶席を囲むかの様に。

奇遇にも、自分が何よりも下手としている事を、彼女は求めたのだ。





◆◇◆◇◆



顕微鏡で覗いた、厚さ一ミリ弱の上にある、そのまた小さな世界。プレパラートの実験室。


診察台に転ばせたモノの変化を、死んだ魚の様な目で見通して。


知らぬ間に欠けた熱意が、今更ながら冷たくなって「これやる意味ある?」と問いかけた。



◆◇◆◇◆



『やはり凄いのですね、そちらは。魔法を使わずとも遠くの方とお話が出来たり、歩けば月と太陽が疲れ果てるほどの遠くへと、1日足りずで行けたりなんて』


『世界、いや。次元そのものを越えて文を交わしてるこの現状の方が、余程異常で不可解だろうに。シオン。君が為している事の異常性を少しは理解したらどうだ』



いつしか慣例となりつつあるゼミでの研究を終えた今は、夕刻。

逢魔ヶ時。奇異なるものと出逢い易いという、何ら科学と結びつかない呼び名を、実に馬鹿馬鹿しい世迷い言と思っていた。


では今自分の目の前で起きてる事は、どれだけ科学的な説明がつけられる?

小窓から射し込む滲んだ夕焼けが、皮肉のようにペンを握る手を染めた。



『異常。確かに、"始まり"を追いかける貴方様にはそう思えるのかも知れませんね』


『あぁ、そうだ。不可解だとも。こんな有り得ない事象をもたらす存在の要求が、単なる世間話とは。つくづく頭が痛い。それと、始まりを追いかけるとは?』


『そのままの通りの意味です。何故、風が吹くのか。何故、空は青いのか。何故、雨は降るのか。何故、星が光って見えるのか……貴方様達科学者は、世の成り立ちを追いかけるロマンチスト。そうではありませんか?』


「……」



文面に踊る、美辞麗句のモノは言い様。

無垢な少女に飾り付けられたロマンチストの名札に、肩が重くなった。



『皮肉なら素直に突き付けてくれ』


『そんなつもりはないのですけど……何か嫌な事でもありまして?』


『別に。これが自分の常だ。どうせなら、もっと素直な奴に拾われておけば良かったな』


『いいえ、いいえ。私は、貴方様であって良かったと、そう思います』



(ひね)くれ者の言葉を、彼女はあっさりと受け止める。

ペラリと捲った新しいページのまっさらみたいに、シオンは透き通った言葉を綴ってばかり。


顔も見たこともないのに。

何故か少しだけ、彼女を美しいと思った。



◆◇◆◇◆



研究の資料として必要な本を探しに、人の少ない図書館を歩く。

本棚の、首が痛くなるほどの高い場所に求めていた本の背表紙を見つけた。


知識を得るには労力が必要なのだと、偉ぶってそうな脚立をかけてコツコツと、一段ずつ昇る。

求めていた本の隣、誰が読むのか見当もつかないような、ただれた背表紙が目について。


そこからずらっと並ぶのは、どれもこれも似た有り様。

人の目から追いやられたような厄介払い。

最上段の余りに長い一列が、爪弾きにされた古書達の巣とさえ思えた。



◆◇◆◇◆



成果も今ひとつな午後の時刻に燦々とうるさかった太陽も、当に眠った夜半。

換えたばかりのシーリングライトがカチカチと不具合を訴えていた。

いっそ時代錯誤のランプでも買ってこようか。



『サイクロプスにドラゴン。マンティコアにグリフォン。精霊、妖精、魔法使い。そして君のようなエルフと。壮観な事だ。是非パレードでもしてみてくれ』



炎を纏った狼の群れ、不死身の魔女、挙げ句の果てには七十二柱の悪魔まで居るらしい。

実にファンタジー、何でもありだ。

馬鹿げている。



『貴方様の皮肉はとても直接的ですね』


『純然たる感想でもあるからな』


『まぁ。私達の世界に憧れでも?』


『ごめんだよ。自分はただの人間だ。そちらでは、ろくに生きれそうにもない』


『あら、私の世界にもただの人間は沢山いらっしゃいますよ?』


『……自分は協調性のない、ろくでなしだ。人の間では生きられそうもない』


『……そうですか。では、エルフの中ではどうなるかしらね。私と貴方様とのように、意外と話が合うのかも』


『お気遣いどうも』



いっそ、換えられてしまえれば良かったろうに。

そうすれば、余計な世話も焼かれまい。




◆◇◆◇◆



ビーカーに注いだ液体の水面は、波も立たずに静かなのに。

教授の来ない研究室の中心では、来週のキャンプの予定についてなどという低俗極まりない会話に嬉々として華が咲いてる。


カリカリと機械的に滑らせていたメモの文字が懐かしく歪んだ。

情緒をはかるビーカーの(ひび)を、いつまでたっても直すことが出来ない。


研究室の隅は相変わらずホコリ臭かった。



◆◇◆◇◆◇



沸かして、湯を入れただけのカップラーメンから立ち昇る白煙がわずらわしい。

食べながらでは文字が読めない。

せめて一旦食事を終えてからにするべきだった。



『キャンプというのは?』


『……山や川に向かい、テントを張って野宿することだ。釣りとかもするんじゃないか?』


『なるほど。自然と触れあい、共存や融和を楽しむ事ですね。エルフとしては喜ばしい文化です』


『そんな高尚なものではないだろう、多分』


『あら、ではどんな?』


『……行った事などないから、分からない』



奥歯で噛んだネギの苦味が広がる。

慣れ親しんだはずの乾燥食材が、何かを言いたげに苦味を増すものか。



『貴方様は、自然がお嫌い?』


『科学者の命題だな。発展による犠牲についての討論を君とする気はない』


『そうではなく。純粋に、好きか、嫌いかで』


『意味が、分からない』



叱られるのを怖がる子供みたいに、椅子の上で背を丸める。

ギシギシと鈍く鳴る安っぽい椅子の音が、部屋の中でやけに響いた。



『貴方様は、夜空を見上げて星を数えたりしませんか?』


『子供じゃあるまいし』


『いいえ。大人になってからでも、きっと必要な事でしょう。空の青さに目を細めた事は?』


『徹夜明けはいつもそうだ』


『可愛いですね、貴方様』



何をいきなりと思ったが、何故だか推察は滞りなく冴える。

多分彼女は空の青さが綺麗に見えるのかと問いたかったのだと。

履き違えた答案を馬鹿にされるのは嫌だが、可愛い扱いされるのも落ち着かない。


心が変に騒いで落ち着かなかった。

異世界との風変わりな通信を交わせる本の、残りページが少しずつ減っていく。


それを気に留め始めたのは、多分この日からだったと思う。



◆◇◆◇◆



意識が散漫しているのではないか。


昨日に提出したレポートをそっとテーブルに置きながら、彼は疲れたように目頭を揉む。

いつもより少しばかり熱の入った教授の言葉は、図星どころではなかった。


トートバッグの中に入れた、エルフの女王との交信日記。

教授から出された課題への興味。

どちらへと傾いているのかの自覚は、虫眼鏡で太陽を観察すればどうなるかよりも一目瞭然で。


それでも手離さないであろうことは、視線を逸らした先の、薬品棚に映る自分を見れば直ぐに察せた。



◆◇◆◇◆



『貴方様は、本を読まれないのですか?』


『学書ならそれなりに読んで来てはいるが』


『いえ、もっと……そう、大衆的なものは?』


『娯楽目的の?』


『えぇ』


『読むと思うか?』


『意外と嗜むのでは、と』


『残念ながら、その期待には応えられないな』



まだ世の中を知らない頃であれば、そういう物を読んでいたかも知れない。

けれど今はそういう書物を手に取る事はなくなった様に思う。



『そちらにはないのか? そういう娯楽小説とかは』


『ありますよ。私、これでも恋愛小説には目がなくて』


『女王なのに?』


『女王が嗜むものではないと?』


『そうは言わない。少し、意外に思っただけだ』


『酷いです』


『悪かった』



顔も分からないのに彼女の輪郭だけが不思議と形作られていく。

柄にもない、を繰り返す回数も少しずつ増えてきた。


見覚えのない幸福感に肩を叩かれて。

どうしてか少し、胃の中が騒いだ。

吐きそうだ、どうして。



◆◇◆◇◆



訳もなく立ち寄った雑貨屋で、浮かないように周囲に倣うのが関の山だった。

空気に馴れないのなら、踵を返せばいいのに。


ぼうっと眺めた商品棚の、翼の生えた猫の縫いぐるみの瞳が、まるで物珍しそうに自分を見下ろす。


居たたまれなくなって、逸らした先。

シーズンにはまだ早い、掌サイズのスノードーム。

白雪が幻惑的にガラス玉の中を泳いでいる。


雪を、単なる冷たい灰程度にしか感じなくなったのは、いつからだっただろうか。



◆◇◆◇◆



胃の中が、鋼鉄の針で胴体を貫かれた地球みたいに、グルグルと掻き回されている気分だ。

空に昇る風船のように、思考が地に足をつけない。


『少し文字が歪んでますけど、何かあったのですか?』


『熱が出た』


『大変。看病は?』


『そんな知り合いはいない』


『なら、寝てないと』


『そんなきつくはない』


『きついきつくないの問題ではないです』


熱病に溶けていく思考が、彼女の正論に意地を悪くしていく。

普段は落ち着いた文面なのに、どこか言葉足らずな様子が、焦っているようにも思えた。


雑に敷いた布団の上で寝転びながら眺める文字の上を、人差し指でなぞる。

心配をかけている癖に、密かに頬を綻ばせるとは質が悪い事この上ない。


微睡む最中。

聞いているのかと、珍しく膨れっ面をしている彼女の、声がした。



◆◇◆◇◆



研究室からの帰り道、何気なく見上げた夜の空でオリオン座が緩く光る。

そういえばオリオン座の真ん中は、変わった呼び方をしていたと。

当の昔に沈めた天体についての記憶が、その名を思い浮かべたところで、甘く聞き心地の良いテノールが耳に届いた。


ギターで弾き語る路上ミュージシャン。

女性とも見間違わない艶美な彼の存在は、もう結構前から気付いていたけれど。


『一番下手に生きてる時こそ、人は本気の恋をする』


そのフレーズを耳した時、定説は現実に手を伸ばす。


いわく、初恋は────




◆◇◆◇◆



『どれほど文明が進んでも、優しい世界は作れないのでしょうか』


女王である立場としては、こちら側の世情というのも気にかかるところなのだろう。

付けっぱなしにしていたテレビから流れるニュースを伝えれば、彼女が憂いを綴る。


『平和な世がそのまま平和へとバトンを渡すほど、世界は簡単ではない』


苦言ばかり馴れた手が、淀みもなくスラスラと書いた文字は掠れて読みつらい。

新しいものを、そのうち用意するべきだろう。


『君の世界はどうなんだ。誰もが手を取り合ってとはいかないだろ?』


『……えぇ。今は誰もが不安に怯えてます』


『不安? 大きな争いが起こっているのか?』


『いいえ。確かに私達の世界でも、争いの火種は易々と絶えないものでした。ですが、今は……"それどころではなくなって"しまって』


主題が置き換わる。

何故か咽が酷く乾いた。


『どういう事だ』


『私達の世界は、緩やかに終わりに進んでいるのです。少しずつ、少しずつ』


手元の交換日記じみたものの紙面が、パサリと渇いた音を立てる。


ページは、あと、どれほどしか残っていないのか。

紙の厚みは、プレパラートの様に薄く。


『どういう意味だ』


『死んでいるのです、世界が、少しずつ。風が殺すのです。私達を、少しずつ。それは仕方のない事なのですが……』


『仕方のないなんて話があるか』


『いいえ。いいえ……そう、決められてしまったのだから、仕方ないのです』


『誰が決めたんだ、そんなふざけた事』



手が、震える。

それはあまりに容易い推論で。




◇◆◇








『聞き方を誤った。エルフとは種族か?』


『ええ、そうですよ。"もう"ご存知ない?』


『もう?』


『えぇ、"もう"。ところで、貴方様は学者か何かでいらっしゃいます?』


──


『見つけてくれてありがとう。手にとってくれてありがとう。いつの間にか余りに遠くなってしまったアナタ方へ。こうして感謝の言葉を向けるのも、何だか夢みたいだと思えますね』


──


『貴方様は、自然がお嫌い?』


『科学者の命題だな。発展による犠牲についての討論を君とする気はない』









◆◇◆









誰が決めたのか、そんなふざけた事を。

それは違う。誰も決めてはいない。

まるでそういうものでもあるように。


『どうか責めないで、遠き隣人、懐かしきお友達。私達の創造主(ノンフィクション)様。これは、仕方のない事なのです』


ファンタジーの語源は幻想。

あちら側は、産み出されたものだとして。

なら、それを産み出したのが此方側で。



「……あ…………あ、ぁ……」



顕微鏡を覗くまでもない。

ビーカーに液体を注ぐまでもない。

ホコリを被った図書館の古びた本達が静かに見下ろす。



『いつの間にか、余りにも遠くなってしまったアナタ方へ』



遠ざけたのは。

もうとっくに産声をあげていた幻想に背を向けて、始まりを追いかけたのは。

胃袋の中から、せりあがるものは。



◆◇◆◇◆◇



──何が、ロマンチストだ。

どうして、そんな優しい言葉をかけた。

どうして、せめてもの恨み言のひとつも言わない。


『仇』じゃないのか。

自分の様な科学者は。


非科学と彼女達を遠ざけた我々は、仇ではないのか。

発展の為の犠牲について、他でもなく討論すべき相手じゃないのか。


『いいえ、いいえ。確かに、これは悲しいこと。とても辛いこと。でも仕方のない事じゃありませんか』


どこがだ!!


非科学を殺す風を起こしたのは。

空想を『風化』させて、荒廃する世界の末路へと追いやったしまったのは。

蝶の羽根が羽ばたいて出来る波紋のようなキッカケで、彼女達の世界を奪っているのは。

文明の進歩によって、風の前に揺らぐ灯火となったのは。



『いいえ……いいえ。産み出したのは、貴方様がた。そして、確かにそちらの人々が、【私達】を手に取る回数を次第に減らしてきています。それは、貴方様がたの世界を見通す部下の者より聞いていました。けれど──』



まるで彼女は、優しく、泣き散らす不様な男の心ごと抱き留めるかの様に。

淡く綴る。



『私達は、私達の意思で生きています。しっかりと、自分の足で私達の世界を生きてます。貴方様──いえ、アナタ達が空想に焦がれたからこそ、それが出来るようになったのだと。だから、まずは感謝を』



深海の底から浮かぶ泡沫の様に儚い、生きています、という一文。

やっと、気付いた。

彼女達が恨まなかった訳じゃない。

彼女達が辛く思わなかったはずもない。

我々の存在を知った時、決してそれがなかった訳じゃないのだ。


でも、それ以上に。



『なら……何故。もっと、言うべき事があったはずだ。もっと伝えておくべき事があったはずだ。それをなんで、世間話なんかに費やした』



『──知って欲しかったからです。シオン(shion)、私の事を。私達の事を。どう生きてきたか。どう営んできたか。どう歩んできたか。少しで良いから、知って欲しいと思ったから』



「……くっ、ぁ」



寂しかっただけなんだ。

だから、もっと知って欲しかった。

自分に。

いや、彼女たちを想像し、空想し、創造した者達へ。



『忘れないで欲しかったのです。ごめんなさい、こんなワガママを言って』




1ミリ遠くのファンタジーが告げる。

子が親へと笑いかけるように。

シオン。花の名前を有した彼女が、綴ったのは。



メッセージ。囁き。ツイート。ありがとうの代わりの、ささやかな願い。



『私はシオン(shion)。もし宜しければ──貴方様の、心の間に、挿せる一輪であります様に』



瞼から、ポツリ、ポツリと落ちていく。

彼女の名前の最後の記述に、そのひとつが落ちて。







____ shiori ____







◆◇◆◇◆◇




情けない。

右半分の小さな青さが責め立てる。


このままで良いのか。

自分に出来ることは?


科学者としても半人前。人間としても半端。

それでも、彼女達の事を少しでも知ったのなら。

そういう世界があるのだと、知ったのならば。



『シオン。君のおかげで、空が青く見えた。子供みたいに星を見る事も、出来るようになったと思う』


『良かった。そんな貴方様の横顔を、私も想っていますよ』



少しだけでも、生き方を見つけられたのなら。

だから、まずは感謝を。

君に教えられた事から始めようと思う。



『だが自分は、想うだけでは足りない。形にしたい。下手でも良いから、やるだけやってみたい』



一番下手に生きてる時こそ、人は本気の恋をする。

隣に居る事は叶わなくとも、せめて。

触れる事も出来ないとしても、せめて。



『──だから聞かせて欲しい。君たちの世界について。君たちという存在について。そしてシオン、君についても知りたい』


形にしようと思う。

下手だとしても、まずは。



『もっと多く、もっと細かく。残るページを費やしてでも。我々の世界に、告げたい事を』



偏屈家で捻くれ者の自分を、一ミリでも前に進めるように優しくしてくれた彼女達の為に。



『教えてくれ。その為なら、自分は──』



こちらの世界に空想が足りていないと言うのなら、自分は。






────

──



【副題】


【小説家になろう】



──

────



それからの日々は、彼女からの、ほとんど一方的な通信だったけれど。

それでも自分は満たされていたと思う。



『──それから、世界は混沌に陥り──』


「負けたのか、勇者が……いや、それでもまだ続くと。そうだな、世界は生きているのだからな」


『──という帝国が政治の舵を取り、吸血鬼が──』


「19世紀のロシア帝国みたいな話だな……というか、吸血鬼?」


『──魔法を扱う少女達を、魔法少女と呼んだり──』


「魔女とどう違……いや、違うのか。マスコット的なのも居ると」



奇想天外な存在達に溢れた幻想譚に、子供の様にメモを取り。



『──で、エルフもなかなか頑固な性格をしている者が多いので、ドワーフとも良く衝突し──』


「……頑固、ねぇ」


『──人間との関係ですか? そうですね……中には、恋に落ちる者も居ると思います。えぇ、仕方のない事です──』


「……そう、だな」



時に、意外な一面を持つ者達の事を知り。



『──私の好み、ですか? そうですね…………捻れてるようで、本当はただ傷付きやすい。けれど可愛い方。あと、意外と話が合えば、なおさら──』


「……ありがとう、シオン」



募らせた想いを、綴る。

何度も考え直し、何度も紙を丸めて。


何度も推敲し、何度も研究し、何度も行き着く結末の形を空想して。



次第に、通信日記に書く彼女の文字が小さくなっていく。

まるで別れを惜しむように。

読みづらいと言えば拗ねられ。

自分も同じ気持ちだと言えば、何故かしばらく連絡が来ず。


それでも、最後には。

空想の──いや、一ミリ遠くの隣人は、いつも微笑んでくれていたように思う。

確かに、彼女は隣人で。



ノン()フィクションを紐解けば、シオン(shion)(shiori)はいつでも其処に在る。





◆◇◆◇◆



空が青い。


12月に入りかけの今、見上げた真上は飲み込まれそうなくらいに、高く青く、綺麗で。


フゥと緊張をほぐす様に吐いた息が白くなり、まるで粉雪の様なきめ細やかさが、いつか買ったスノードームに似ていた。


肩から下がるトートバッグを、改めて肩に掛け直す。



中には、最後の1ページだけ猶予を残したままの、今では彼女との想いを交わした記録帳となったあの本と。



一ミリ遠くのファンタジーへ告げる、彼女達への恋文代わりの作品。



それらを収めた茶封筒が、バッグの中でカサリと鳴る。

まるで、微笑まれたかの様に。














◆◇◆──Epilogue──◇◆◇









「で、どうかな……?」


「少し展開が急ぎ足だな。だが、最後の台詞回しは好きだ。そして……とりあえず、一度キリの良いところまで書いてみろ。そしたらもう一度、見せに来なさい」


「う、うん。分かった」



老眼鏡を通して見る電子の上での文面は、流石に堪える。

いつしかの教授の様に目元をほぐしながら、フゥとこぼれた吐息は白くはならない。

それもその筈。


開けっぱなしの窓の外には、庭先に立つ春の風物詩が花弁散らし、暖かな世界を飾り立てる。



「ねぇ、じいちゃん」


「どうした」


「じいちゃんって、小説家を目指すって話でめちゃくちゃ親と喧嘩したって、本当?」


「……懐かしいな。本当だとも。せっかくいい大学へ行かせたのにって、散々泣かれた。私は紛れもなく親不孝ものだよ」


「……そう。そっか」



この春に、中学生の境目となる年生へ繰り上がった孫は、どこか慎重に言葉を紡ぐ。

きっとその黒々とした瞳には、大きな道が二つ見えているのだろう。


ほんの三十分ほど前に試作を差し出した時から、今に至るまで。

いやきっと、桜の門を潜った後にでも、道は広がり続けるだろう。



「……ファンタジーってやっぱり難しいね」


「それは違う」


「え?」


「ふふ。ファンタジー、恋愛、ミステリー、コメディ、純文学。それ以外の種類のいずれにも難しい要素はあるし、難しさの中にも人の個性……相性もある。かくも難しい世界だよ」



故に楽しい。

夢中になって駆け抜けた日々を思い出す。

成功もあれば、失敗もあった。

心が踊る様な事を言われれば、身に詰まされる悪意に晒される事もあった。



「そういや今ね、ファンタジーで……転生とか転移ってのが流行ってるらしいよ」


「──ほう。そうか」


「うん。でさ、じいちゃんも書いた事あるんだっけ?」


「……ふふ。あぁ、あるとも。といってもあれは作品というよりは──」



作業机の戸棚。

特等席に座らせた『彼女』を手に取りながら、表紙を撫でる。

大事にしてはいたものの、一枚だけ剥がれてしまった、蝶の羽根。

それは今でも、自分と彼女とを繋ぐ最後のページの栞に使っている。


すっかり渇きやすくなった唇が、弧を描いた。

ファンタジーの世界へと転生する話。


あれは自分の『処女作』であり、彼女に対する、恋文の様なもの。

無茶苦茶な描写や設定に対する詰めの甘さが原因で、危うく没になりそうになったが。


渋い顔をして原稿を読み進めていく当時の編集者に、ふと問われた事が、脳裏に甦る。


恥ずかしい記憶だが、やけに鮮明だったのは。

昨日彼と飲みに行った時、同じ問いを投げられかけたからだ。



『……もし。もし生まれ変わったら、貴方はどう生きたいですか?』


『1ミリ遠くの彼女の元へ』



その言葉に、編集者が何を感じ取ったのかは、分からない。

けれど、それは書籍化され、ほんの少しだけ売れた。



「じいちゃん、ありがと。とりあえず……もっぺん書いてみる」


「ほどほどにな。お前の親父に私が睨まれる」



小さく頷いて、去っていく背の夢中さ。

それを好々爺の様に見送る自分の在りし日が甦るようで、我ながらすっかり老いたものだと微笑んだ。






◆◇◆◇






かくしてひとつの物語は、緩やかに終わりを追いかける。


本を開いて始まったのなら、本を閉じて終わるだけ。



「……今日の空は、一際青いな。桜も綺麗に咲いている」

 


幕を下ろすのに、栞はいらない。


けれども自分は到底まだまだ。だから彼女をいつでも携えていよう。


そう────思っていたのだけれど。




「もし生まれ変わったら……いや、その前に……いつか。此方の世界の、空への想いが満ちたなら。きっとその内、逢いに行く」





未完成者(ロマンチスト)は、開け放した窓の向こう空へと想いを馳せる。

青から極彩色へと緩やかに、視線が落ちた。


庭先に埋められた、木肌の荒い桜の木。


最愛の幻想達の為に駆け抜けた、若き青春はもう、彼をとうの昔に追い越したけれど。







「────そうだったよな、シオン」




「────はい……! 貴方様……!」





春一番は────世界の片隅の奇跡/軌跡をなぞる。


功労者を讃えるように、春の精霊が風と共に皺の深い頬を撫でた。




「……私『達』からの空想は、願いは。君たちの元へと届いただろうか」



「──はい……! 私も、世界も、生きています! 今もこうして!」




春風に生かされた、室内の作業机。


彼と彼女の『アルバム』は、蝶が羽ばたくようにパラパラとページを捲る。





「──いつの間にか、こんなにも私の傍に居続けてくれた君へ……こうして感謝の気持ちを伝えれるのも、何だか夢みたいだと思うよ」






全ての始まりとなったページの言葉を紡いだのなら、辿り着くのはアルバムの終点。


栞代わりの蝶の羽根が、永き星霜を蓄えた夜空のように、青々と煌めいた。






「──……えぇ! 奇跡のようだと思います……! 遠き隣人、懐かしきお友達……私の愛する、貴方様」







到達したのは、多くの空白。

その中心に、ただひとつ綴られた、最後のメッセージ。



『今から、逢いにいきます。貴方様の愛するシオンより』










────────

─────

──



そうして──奇跡を起こせたのは、彼だけの力ではない。




ファンタジー、恋愛、ミステリー、コメディ、純文学。

それ以外にもまだまだ留まらぬ物語達。


それを紡ぎ、綴り、語り継いでいる者達が居るからだ。


見渡せば、溢れている。

此方にも、あちらにも、ここにも。


あの青空のように、どこまでも。




1ミリ遠くのファンタジーは、誰の手の中にも溢れている。








__Fin




『ダイアモンドや金貨は、人の心を大きく動かす。けれどもやさしい言葉は、もっと力があり、もっと大きな価値がある』



赤ずきん 著者──シャルル・ペロー




『どちらへ行きたいのか分からないのなら、たとえどちらの道を選んだとしても、大して違いはない』


不思議の国のアリス 著者──ルイス・キャロル


 







ペンを持つ勇気が出ない方


途中でペンを折った事のある方


今、ペンを折ろうとしている方


スランプに苦悩する方


読者様から反応に一喜一憂する方




この作品は


私から 皆様方へ宛てた

感謝の気持ちも込めた、エールの様なものでございます

気持ちが沈んだ時。悩んでいる時

それこそ栞のように、そっと挟んでいただけたのなら幸いです

最後までお読みいただきありがとうございました



それでは、またいずれかで

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― 新着の感想 ―
[一言] やっぱり、素敵ですね。
[一言] 好き。 って書いたら一言で終わっちゃうのですが、これは好きです。 受け入れられやすい題材に、それだけならどこかにありそうな物語。 そんな手垢のついていそうな背表紙なのに、開いてみたらいくつ…
[一言] 詩的な表現が大変素晴らしかったです。真似しようにもできないくらいに! なるほど、と意図を推察するよりも読んだほうが早い。そして《あの点》にも意味があるのかな、なんて考えます。 いい物語をあり…
2018/12/16 11:23 退会済み
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